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第一部
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今日はとうとうユリウス・ハーマンに呼び出された当日だ。朝からそわそわして服も二度着替えた。侍女長のニーナが冷たい目で見ている。
「ぼっちゃま お見合いの日でもそんなに身だしなみ気にしてませんでしたよね?ひょっとして真実の愛に破れて、男性の魅力に目覚めたとか?このニーナ偏見はありません。そう言う愛の形もある事は知っております。ですが跡取りとしてはそれは不味いんじゃ?」
「ち 違う!そんなんじゃない!」
なんでニーナも真実の愛の件を知っているんだ。あ…そうだった。執事のマークとニーナは夫婦だった。夫婦で冷たい目線を寄越すな!私は失恋で傷ついているんだ!と心の中で叫んだジークハルトだったが、ニーナの冷たい目線に声に出す勇気は無かった。
ニーナとマークはジークハルトが生まれる前から侯爵家に仕えている古株なのだ。
そこに馬車の準備が出来たとマークが呼びに来たので、これ幸いと玄関に向かった。
「ぼっちゃま 薔薇の花束はいりませんか」
後ろに来たニーナに耳元で囁かれた。
「誰に渡すんだ!」
ニーナは澄ました顔で下がって行った。全く妻をたしなめろとマークを見たら、呆れたようにみられた。
「ぼっちゃま お相手は男性です」
わかっているわ!ジークハルトはぷんぷんと馬車に乗り込んだ。乗り込んだら、朝からそわそわして上ずっていた気持ちが平常心になった事に気がついた。いい使用人に恵まれたなとジーンとしたら、胸ポケットががさがさするので触ったら、ポケットチーフの中に紙が入っていた。それには王宮での礼儀作法を短的にまとめたものだった。ジークハルトはがっくりとうなだれた。信用がない……
それでも心配かけてるからと真剣に目を通していたら王宮に着いた。衛兵にきちんと話が通っていたので、入り口の待合室にいたら侍従が迎えに来た。
「こちらでお待ちになっておられます」
と案内された場所は王宮の庭園の中にある四阿だった。そこにミケーレに少し似た長身の見目麗しい男性が供を連れて立っていた。
「お呼び立てして申し訳ない。私はユリウス・ハーマンです。ミケーレの兄になります」
「ご丁寧にありがとうございます。ジークハルト・ブリーゲルです。御妹君のミケーレ嬢には大変失礼……」
「いや あれは助かった面もありますので気にしないで下さい」
言い終わらないうちに言われて、頭の中は疑問符で一杯のジークハルト。
「まあ 御座り下さい」
勧められて大人しく座ったら、ユリウスの後ろに控えていた筋骨隆々とした男性が進み出た。
「これは我が家の従者でレオと言います。爵位もないものですがブリーゲル侯爵令息に直接声を掛ける事をお許し願えますか?」
「どうぞジークハルトとお呼び下さい。レオでしたか。話を聞きます」
レオと言う従者は片方の膝をジークハルトの前に突き、頭を垂れて挨拶した。
「直答の御許可誠にありがとうございます。私はハーマン公爵家に仕えるレオと申します。ブリーゲル侯爵令息にお詫びを申し上げようと主人に願ってこの場を設けていただきました」
「楽な姿勢で構いません」
レオは顔を上げて、話し始めた。
「エールの件でお詫びを」
ジークハルトの肩はビクリと跳ねた。なぜ?なぜ?
「私は主の許可を得てスラム街の路上で寝泊まりしていた子供達の支援をしています。ある程度の教育をつけてから子供達の住民票を得て、下町で職人とか店員とかで暮らしていける事が目標です」
ハッとした。
「それではあにさんと呼ばれていたのは」
「あ はい 子供達にはそのように呼ばれています。子供達にはもう犯罪行為を辞めると誓わせて、野菜などを育てさせて自活し始めていたのに、エールが美人局のような事をしているとは。申し訳ありません。頂いた金は私がお返しいたします」
深々と頭を下げられた。少しの間沈黙が落ちる。
「いえ 返金は無用です。私が使える金額でしたので」
「よろしいのでしょうか?エールのした事はいけない事ですが当時流行病に立て続けに子供が掛かったので、精の付くものを食べさせたかったようなんです。二度と犯罪行為はさせないようにきつく叱りました」
「スラム街の状態はエマ…エールを訪ねて知りました。それにしてもエールは男なのに私の申し出をどうするつもりだったのでしょうか?」
レオはちょっと黙ったが、心を決めたように顔を上げた。
「エールはまだ十なので、男女の行為のことをはっきりわかってなかったようなのです。物心つく前から親もおりませんし、半端な知識しかなくて、どうにかして誤魔化せると思っていたようなんです。あなた様の申し出を受けて一緒に暮らしたらどう言う行為をするのか……」
十、十、そんな子にキスをした私って…ジークハルトは羞恥で俯いた。そこにユリウスが声をかけた。
「レオもスラム街の路上出身で、父がスリをしようとしたレオを捕まえて再教育した男です。スラム街の路上で暮らしてる子供達が真っ当に暮らしていけるようにするのがレオの念願で自分が独り立ちしてから活動を始めたのです」
「そうなのですか。スラム街を無くす事は…」
「それは国の仕事だな。一朝一夕で成すことはできない。大人を更生させるのは難しい。だからまず真っさらな子供達からと言うことで、レオに活動費を我が家から出している」
ジークハルトは地道な活動は始まっていたんだなと感心した。
そんなとき
「あら こんなところで集まってらっしゃるの?」
涼やかな声がした。
「ぼっちゃま お見合いの日でもそんなに身だしなみ気にしてませんでしたよね?ひょっとして真実の愛に破れて、男性の魅力に目覚めたとか?このニーナ偏見はありません。そう言う愛の形もある事は知っております。ですが跡取りとしてはそれは不味いんじゃ?」
「ち 違う!そんなんじゃない!」
なんでニーナも真実の愛の件を知っているんだ。あ…そうだった。執事のマークとニーナは夫婦だった。夫婦で冷たい目線を寄越すな!私は失恋で傷ついているんだ!と心の中で叫んだジークハルトだったが、ニーナの冷たい目線に声に出す勇気は無かった。
ニーナとマークはジークハルトが生まれる前から侯爵家に仕えている古株なのだ。
そこに馬車の準備が出来たとマークが呼びに来たので、これ幸いと玄関に向かった。
「ぼっちゃま 薔薇の花束はいりませんか」
後ろに来たニーナに耳元で囁かれた。
「誰に渡すんだ!」
ニーナは澄ました顔で下がって行った。全く妻をたしなめろとマークを見たら、呆れたようにみられた。
「ぼっちゃま お相手は男性です」
わかっているわ!ジークハルトはぷんぷんと馬車に乗り込んだ。乗り込んだら、朝からそわそわして上ずっていた気持ちが平常心になった事に気がついた。いい使用人に恵まれたなとジーンとしたら、胸ポケットががさがさするので触ったら、ポケットチーフの中に紙が入っていた。それには王宮での礼儀作法を短的にまとめたものだった。ジークハルトはがっくりとうなだれた。信用がない……
それでも心配かけてるからと真剣に目を通していたら王宮に着いた。衛兵にきちんと話が通っていたので、入り口の待合室にいたら侍従が迎えに来た。
「こちらでお待ちになっておられます」
と案内された場所は王宮の庭園の中にある四阿だった。そこにミケーレに少し似た長身の見目麗しい男性が供を連れて立っていた。
「お呼び立てして申し訳ない。私はユリウス・ハーマンです。ミケーレの兄になります」
「ご丁寧にありがとうございます。ジークハルト・ブリーゲルです。御妹君のミケーレ嬢には大変失礼……」
「いや あれは助かった面もありますので気にしないで下さい」
言い終わらないうちに言われて、頭の中は疑問符で一杯のジークハルト。
「まあ 御座り下さい」
勧められて大人しく座ったら、ユリウスの後ろに控えていた筋骨隆々とした男性が進み出た。
「これは我が家の従者でレオと言います。爵位もないものですがブリーゲル侯爵令息に直接声を掛ける事をお許し願えますか?」
「どうぞジークハルトとお呼び下さい。レオでしたか。話を聞きます」
レオと言う従者は片方の膝をジークハルトの前に突き、頭を垂れて挨拶した。
「直答の御許可誠にありがとうございます。私はハーマン公爵家に仕えるレオと申します。ブリーゲル侯爵令息にお詫びを申し上げようと主人に願ってこの場を設けていただきました」
「楽な姿勢で構いません」
レオは顔を上げて、話し始めた。
「エールの件でお詫びを」
ジークハルトの肩はビクリと跳ねた。なぜ?なぜ?
「私は主の許可を得てスラム街の路上で寝泊まりしていた子供達の支援をしています。ある程度の教育をつけてから子供達の住民票を得て、下町で職人とか店員とかで暮らしていける事が目標です」
ハッとした。
「それではあにさんと呼ばれていたのは」
「あ はい 子供達にはそのように呼ばれています。子供達にはもう犯罪行為を辞めると誓わせて、野菜などを育てさせて自活し始めていたのに、エールが美人局のような事をしているとは。申し訳ありません。頂いた金は私がお返しいたします」
深々と頭を下げられた。少しの間沈黙が落ちる。
「いえ 返金は無用です。私が使える金額でしたので」
「よろしいのでしょうか?エールのした事はいけない事ですが当時流行病に立て続けに子供が掛かったので、精の付くものを食べさせたかったようなんです。二度と犯罪行為はさせないようにきつく叱りました」
「スラム街の状態はエマ…エールを訪ねて知りました。それにしてもエールは男なのに私の申し出をどうするつもりだったのでしょうか?」
レオはちょっと黙ったが、心を決めたように顔を上げた。
「エールはまだ十なので、男女の行為のことをはっきりわかってなかったようなのです。物心つく前から親もおりませんし、半端な知識しかなくて、どうにかして誤魔化せると思っていたようなんです。あなた様の申し出を受けて一緒に暮らしたらどう言う行為をするのか……」
十、十、そんな子にキスをした私って…ジークハルトは羞恥で俯いた。そこにユリウスが声をかけた。
「レオもスラム街の路上出身で、父がスリをしようとしたレオを捕まえて再教育した男です。スラム街の路上で暮らしてる子供達が真っ当に暮らしていけるようにするのがレオの念願で自分が独り立ちしてから活動を始めたのです」
「そうなのですか。スラム街を無くす事は…」
「それは国の仕事だな。一朝一夕で成すことはできない。大人を更生させるのは難しい。だからまず真っさらな子供達からと言うことで、レオに活動費を我が家から出している」
ジークハルトは地道な活動は始まっていたんだなと感心した。
そんなとき
「あら こんなところで集まってらっしゃるの?」
涼やかな声がした。
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