見捨てられた男達

ぐう

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第二王子と公爵令嬢

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「それじゃ、ソフィア。そう言う事だから私の邪魔をしないでくれたまえ」

 そう言うだけ言ってさっさとブランデンブルク公爵家から帰っていったのは、この国の第二王子アルベルト。



*****
 
 二人は幼い頃に婚約者として引き合わされた。年の離れた兄の王太子にはすでに王子が生まれていたため、第二王子を王族に留める意味がなかった。国王は側室腹の第二王子を男子のいないブランデンブルク公爵家に婿に出すことにした。

 アルベルトは側室に似て見目麗しい容姿をしている。ソフィアも金の髪に翠の眼で学院在学中に国で一番美しいと讃えられた母に似て麗しい姿をしている。二人は他人の目から見てお似合いだった。

 ソフィアは一人娘で遊び相手に飢えていて、二歳年上のアルベルトを何かと振り回していた。それでもアルベルトはソフィアと一緒に遊ぶ事を楽しみ、何をするのにも一緒で仲のいい婚約者同士だと周囲にみられていた。アルベルトが精通を済ませ、王族の閨教育を受け、自分が異性を引きつけることができると自覚するまで。

 アルベルトが自分は見目麗しく、王子であることもあり、女がすり寄って来る事を自覚した時、婚約者というだけで自分を縛るソフィアが負担になった。
 決して美しく活発なソフィアを嫌いになった訳じゃない。ソフィアとは結婚するまで身体の関係は持てないのだ。それまでソフィアの身代わりとして他の女の身体を楽しんでどこが悪いと考えるようになった。

 男を発情させる匂いを放つ花達に引き寄せられる蝶のように女たちの間をひらひらと留まり離れていく。そんな風に女遊びをして、自分を愛してくれる婚約者への対応は年々ぞんざいになっていった。
 だが、あくまで正妃はソフィアで結婚したらソフィア一人を守ろうと思っていたのも事実だ。

 アルベルトが貴族が入学する王立学院に入学してからも、華麗な女遍歴の噂は相変わらずだった。そんなアルベルトがとうとう一人の女に決めたと噂になった。

 子爵令嬢レイチェル。ほんの一年前まで市井で親娘で花売りをしていた。
 やもめの子爵が街頭で花を売る母親を見初めて妾にして家に入れた。すでに成人した跡取りもいることから、前妻の子供達は子供を作らないことを条件に子爵の老後を面倒見るのならと認めた。娘を子爵の養女にしたのには批判が続出したのだが子爵が押し切った。
 
 見初められるぐらいだから母親も娘も美形だ。子爵は美形の娘を貴族の王立学院に入れて、誰か位の高い貴族をひっかけて来たら上々だとの思惑ぐらいあったかもしれない。
 その子爵の思惑は当たった。喜怒哀楽を滅多に表さない貴族令嬢と違って、可笑しければ大笑いし、悲しければ悲しいと喚いて涙をボロボロこぼす。ドレスの裾をからげて白い脛を見せて走り回り、婚約者がいようといまいと気に入った男の腕に自分の身体を預ける。天真爛漫で色気のある、みだらな仕草のレイチェルにアルベルトは夢中になった。女慣れしているアルベルトはレイチェルが初めてでなく、男慣れしている事に気がついていた。だが単なる遊びだからと気にしてなかった。

 レイチェルは元は街頭の花売りだ。幼い頃から客の顔色を見てきた。顔色を見て声をかける事など朝飯前だ。男の欲しい言葉を次々と与え、愛の言葉を簡単にささやき、身体を与えた。貴族令嬢にはできないことだ。
 アルベルトは男慣れしたレイチェルの身体に溺れて、学院に入学してから婚約者への義務は一切果たさなくなった。それでも自分が結婚するのはソフィアだと思っていた。ソフィアは自分を愛してくれているから許してくれるだろうと。自分は遊んでいても無垢なソフィアを抱くのは自分だと思っていた。


 アルベルトが学院で二学年に上がる年に国王が兄の王太子に譲位した。王太子にはすでに二人王子がいて年長の王子が王太子として立太子した。アルベルトは王弟になった。予定としては学院を卒業しソフィアと結婚してブランデンブルク公爵家に入る筈だ。


 そして二歳違いのソフィアが全寮制の王立学院に入学する前にアルベルトは公爵家にやってきて通告した。

「学院での私の振る舞いに一切干渉するな。結婚前なのに余計な差し出口を挟むな」

 学院入学後に会いに来なくなったアルベルトをソフィアは無言で見送った。


 アルベルトはソフィアが口答えしなかったことに満足していた。ソフィアも異性に人気のある自分をソフィア一人に留めておけないことを自覚したのだろうと。アルベルトはどんな女と遊んでも結婚するのはソフィアで、結婚後はソフィア一人を守ろうと決めていた。それまでは遊んでいいだろうと思っていた。
 ソフィアが学院を卒業して一年後に結婚する予定になっているので、卒業時に身綺麗になっていればいいのだ。
 あと一年。ソフィアに釘を刺した。レイチェルと楽しい学院生活を送れるだろうと気分は上々だった。


 ソフィアは入学したはずだが、アルベルトが通告した通り周りに姿を現さなかった。アルベルトはソフィアの従順さに満足していた。レイチェルなど遊びだ。レイチェルは正妻になる身分も教養もない。男を身体で慰めるためだけの女だ。



 そして一年が経ちアルベルト自身が卒業することになった。卒業パーティーは王族の臨席を仰ぐ正式な舞踏会だ。レイチェルをエスコートするわけにはいかない。レイチェルには泣き喚かれたが、ここでソフィアを蔑ろにはできない。アルベルトはレイチェルの身体は気に入ってるが、一生を共にするのはソフィアだと思っているのだ。レイチェルに子供を産ませる気もなくきっちりと避妊薬を飲ませている。

 卒業パーティーの前にパートナーのドレスと装身具をあつらえなくてはいけない。長い間ソフィアに贈り物などしてなかったので、ソフィアが衣装を仕立ててるオートクチュールがわからない。侍従を呼んでソフィアの行きつけのオートクチュールクを調べるように言いつけた。

 侍従は何を言われたのかわからないという表情をした。アルベルトは察しの悪い侍従に苛ついた。

「殿下 なぜブランデンブルク公爵令嬢の衣装を殿下が仕立てられるのですか?」


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