忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

文字の大きさ
上 下
38 / 50

38

しおりを挟む



 ふと目が覚めると何か温かいものが隣にあって何かがユリアの身体に乗り上がっている。
 外は窓のカーテン越しに日が差してきている。もう朝かと起きあがろうとしたら、ユリアに乗り上がってるものが邪魔で押しのけたら『う ううん』とうめいた。ああレオンハルトの顔なのね。昨日疲れ果ててそのまま眠ってしまったから。ユリアはレオンハルトの顔にかかった髪をかき分けて頬を指で触ってみた。
 
 ユリアはこの綺麗な顔が好きだったのかしら?あんなに酷い態度を取られても自分を犠牲にするぐらい好きだった。今の私は綺麗な顔と思うそれだけ。
 そして今の私には、自分の財産をこの人に全部渡して、自分は消えるなんて滅私にはなれない。この私もユリアなのは間違い無いから、昔のユリアも心の底にどろどろとしたものを抱えていたのかもしれない。記憶を取り戻したら今のユリアを昔のユリアはどう思うのかだろう?

 そんなことを考えてレオンハルトの顔を触り続けたていたら、腕を掴まれて抱き込まれた。

「私の顔が嫌い?」

 レオンハルトにそう聞かれた。

「嫌いだわ。この顔が普通だったら嫌な女達が湧かなかったもの」

「自分でも母にそっくりなこの顔は好きじゃ無いな。寄ってくる女達も上っ面しかみてないし」

「ユリアがこの顔だから好きだったと言ったらどうする?彼女はずいぶん自分を卑下していたもの」

「ユリアはそんなこと言わない」

 そうかな。ユリアレオンハルトを王子様のように思っていたんじゃないかな。だから裏切られても手の届かない人だからしょうがないと思っていた。


「お嬢様 本日エーレンフェスト侯爵ご夫妻がお見えです。お支度を早めにしませんと」

 控えめなノックと共にノンナの声がした。
ユリアがレオンハルトの腕を押しやって起き上がった。

「今戻るから」

 と言ってレオンハルトを置き去りにして、私室と繋がっているドアにガウンを着ながら歩いて行った。そしてドアのところで振り返り

「旦那様もお支度を」

 と言って自分の私室にするりと入って行った。『旦那様』初めてそう呼ばれてレオンハルトは思わず耳を疑い茫然とした。浸っていたかったがレオンハルトも支度をしなくてはとガウンを着て自分に与えられた部屋に戻って行った。


 ようやく二人は朝食も済ませて、居間でお茶を飲みながらエーレンフェスト侯爵夫妻を待っていた。
 先程からレオンハルトの表情は緩んでいた。ユリアがレオンハルトをどうしたのと言うように視線をレオンハルトにやるとレオンハルトは

「嬉しい」

 とユリアの手を握ってきた。

「何かあったかした?」

「ユリアが旦那様と呼んでくれたから」

「そんなことで?」

「今までずっと名前すらよんでくれてないから」

「ー自業自得ー」

 茶器を片付けていたノンナがユリアに聞こえるだけの声でそう言った。


 



 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

処理中です...