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ミラ編 IF

エレナとの再会 IF

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 ミラ編 「三人での新生活」以降のIF話です。なろうに投稿したものを改稿してあります。

ーーーーーー

 その日はなんだかそわそわして来客を待った。私の会いたい人…昔は王太子殿下だった。あの方の面影を追い求め、交わした言葉を反芻して噛み締めた。でも今……私の会いたい人は。

「ミラ!馬車だよ!エミール様だよ!」

 
 エミリアの甲高い声が響く。門のところで朝から待っていたのだ。慌てて門まで出迎えるとエミール様と一緒に入ってきた肩までに髪を切りそろえ、地味な服を着た女性は意外な人だった。

「エレナ!修道院はどうしたの?」

 思わずエレナの手を取った。

「ミラ、元気そう。エミール様が院長様にお願いしてくれたの。私は家族がいないから院長様の許可と身元引き受け人がいれば還俗できるのよ」

「エレナ!」

 エミリアもエレナに抱きつく。それを見ながらエミール様が『中に入って話をしましょう』とエミリアを抱き上げたエレナに言った。客間まで全員入ったところで、エミール様が説明をしてくれた。


「口の固い医師をホーク伯爵から紹介していただきました。明日診察に来てもらいます。エレナはマリアンヌの看護をお願いするために還俗してもらいました」

 私達はエレナと再会できて嬉しいけれど、エレナは看病のための還俗でよかったのだろうか。そう思ったがエミール様の前では言えなかった。

「明日医師を連れて来ます」

 そう言ってエミール様は帰られた。



 エレナの荷物は私達と同じく何もないと言うので、空き部屋にエレナを案内して、居間でお茶を飲んでもらう事にした。

「紅茶なんて二十数年ぶり」

「修道院では水ですものね。エレナは還俗してもよかったの?次の院長はエレナだと思っていたの」

「そんなことはないでしょうけど、私はマリアンヌとエミリアが心配だったのよ。ミラには貴族のお兄さんがついてるから心配ないけど」

 エレナはあの二人にそんなに思い入れあるのだろうか。修道院にいる頃からエレナは不思議な人だった。


 翌日、エミール様が兄の紹介してくれたお医者様を連れてこられた。


「診察していただきますので、エミリアを近づけないで下さい」


 エミール様にそう言われたのでエレナがエミリアと台所に行き、お菓子を焼くという。島では甘いものなど贅沢品だったが、ここでは素朴なお菓子を手作りできるので今エミリアは夢中なのだ。
 エミール様と医師は、なんだか不安げなマリアンヌと別室に三人で入って行った。


 「違う!違う!」

 マリアンヌが悲鳴のような声を上げて部屋から飛び出してきた。そのマリアンヌを慌てて追いかけて抱きとめて寝室に連れて行き、なだめていたらマリアンヌが寝息を立て始めた。
 居間に戻るとエレナがお医者様とエミール様にお茶を出してくれていた。

「ミラ お母さんどうしたの?」

 エミリアが抱きついてきた。私を見上げる目に不安がある。

「大丈夫よ。ちょっと大きな声を出しただけ」

「エミリア お母さんは大丈夫だから、お菓子作り続けましょうよ」
 
 エレナが声をかけるとパッと表情を明るくして、エレナと二人で台所に向かった。エミリアが出て行くのを確認してからエミール様が口を開いた。

「すまない。今後もし王太子殿下のお姿を見てマリアンヌが逆上するといけないと思って殿下の絵姿を見せてこの人は王太子殿下だからと言い含めようとしたら。いきなり叫び出してしまって」

 そこには王太子殿下と妃殿下の御婚姻の記念で配られた絵姿があった。懐かしい慕わしい殿下。島ではずっと交わした会話を反芻していたのに今は仲睦まじげに妃殿下と寄り添った絵姿を見てもなんとも思わなかった。

「マリアンヌはあくまで殿下がエミールだと言うんだ。エミリアの父親だと。ここで言うのは見逃せるけれど万が一外で言って死んだ事になってるのに身元がばれたらただではすまない。エミリアの将来も危ない」

 私は自分の指先をギュッと握って不安をなだめる。

「どうしたらいいのでしょうか」

 それまで黙っていた医師が口を開いた。

「過去のことがかなり錯乱しているようです。王太子殿下に関わる事なので、救護院に収容した方がいいと思うのですが、お子さんもいらっしゃるし、ここで見張りをつけて回復を待つのがいいかと」

「そうですね。隔離をして誰に見られるかわからない。ミラ嬢、お手間ですがこの家でマリアンヌの世話をお願いできますか?お金のことは心配しないで下さい」

 エミール様に言われてまだエミール様のそばにいられると嬉しかった。
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