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第三章 今世
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しおりを挟むシャルロット嬢に手を引かれて、生徒会室に入った。生徒が使うものとはいえ、高位貴族が多いためか、内装も置かれている机や椅子、ソファなども一目で高級品とわかるものだった。
「マークスご苦労様。リーゼロッテ様、マークスはお兄様の従僕なの。生徒会役員は三年間こちらの役員室でお昼も頂くことになるから、侍女や従僕は登校するとこの続き部屋で待機するのよ。ここには食堂もあるからそれぞれが家から持参したお昼を侍女や従僕に用意させていただくことになるわ。仕事の合間に飲むお茶とかも彼らが用意してくれるわ。リーゼロッテ様の侍女をこちらに呼び寄せても構いません?」
同じ新入生とは思えないほど慣れていらっしゃる。
「はい、お願いします」
「マークス、ベネット伯爵家の侍女にこちらに移るように使いを出して」
マークスとよばれた従僕が一礼して出て行った。
「まだ、他の方いらっしゃってないみたいね。ミリア」
シャルロット嬢が声を掛けると、隅に控えていた侍女らしき女性が進み出た。
「待つ間にお茶を頂きましょう。我が家の特製ブレンド茶を持参しておりますの。ミリアお願いするわ」
王位継承権も持つお姫様のシャルロット嬢の使用人に対する態度がねぎらいにあふれていて、彼女の好感度が私の中で上がった。
用意されたティーセットもこの国で有名な陶器一揃いで、薄くて落としたら、あっという間に割れてしまいそうだった。
「あの、シャルロット様」
「なにかしら?」
「外の騒ぎはよろしいのでしょうか」
「お兄様とルドルフに任せておけばいいのよ。私達兄妹とルドルフは年が近い従姉妹でしょう。ルドルフは小さい頃は伯父様が大公国を継いでなかったので、宮廷で一緒に育ったようなものなの」
それが私の問いへの答えになっていないと思う私の顔を見てシャルロット嬢は言った。
「リーゼロッテ様は政治向きについてご興味はありますか?ベネット伯爵は王宮で仕事はされていないけれど、家では一切そういう話はお父上も話されない?」
伯爵家の三女でしかない私が政治向きに興味があるのは不思議でしょうが、我が家は商会を持っているので、日常的に家族で世情に付いて会話をしている。
我が家は父は領地経営に専念していますが、子爵の義兄は商会の全てを任されているので、通年で姉と王都に住んでいます。領地の名産品を加工して、国に広げるには政治的なことにアンテナを張る必要があります。次姉が隣国に嫁いだので、現在は隣国との取引も実現できました。一層政治向きには無関心では要られません。
「政治に興味ですか。あります。商会をしておりますので情報は命ですから」
「まあ、そうではなくては。私のお友達がおしゃれにしか興味しかないご令嬢ではつまりません」
シャルロット嬢の侍女がいれてくれたお茶を一口含むと芳醇なコクが口の中に広がった。
「美味しいです」
「でしょう?これは私のお気に入りですの。先ほどの話の続きですが、私達、王位継承権を低いながら持っている元王子の子供達は高位貴族に狙われていますの。先代の国王陛下には王子が三人。今の国王陛下とルドルフの父の伯父様、私達の父。国王陛下には王太子殿下と第二王子殿下のお二人のお子様がいますわ。王太子殿下はかなり前に隣国の王女様と婚姻されましたが、お子様はいません。隣国の方が強国ですから、正妃の顔色をうかがって側妃も愛妾もおいていませんわ。また第二王子殿下もずいぶん前に婚姻されていますがお子様はいない。……この国の実権を狙うものは王族の血を自分の陣営に引き入れておきたいのです」
「つまり、自分の家のものと婚姻させて、その子を……」
「……そういうことです。私達三人は常に狙われています。マルティナ様がルドルフとお兄様にまとわりついているのはかなり前からですけれど。親の差し金だと思いますわ。でもお兄様の氷のような対応でお兄様は諦めたみたい。というか、マルティナ様が難しい事を考えているとは思えませんから、ルドルフの華やかな容姿がマルティナ様の好みだったのでしょうけどね」
王位につく資格のある子供を得るために王位継承権を持つものを自分の家に囲いこむ。もし、この先、王太子殿下や第二王子殿下にお子様が生まれたら、あっという間に可能性が無くなるでしょうに。政治的にそれは有効な策なのでしょうか。
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