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第三章 今世
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しおりを挟む私はマルティナ嬢の視線をたどって背後に目をやってハッとした。ルドルフ殿下とジョエル公爵令息が私の後ろまで歩み寄って来ていたのだ。私は咄嗟に廊下の壁側に控えて、膝を折った。
「ルドルフ様ぁ」
今まで扇で顔を隠していたマルティナ嬢が甘い声をあげて、ルドルフ殿下に駆け寄った。ジョエル公爵令息の方が前にいたのだが、彼のことは目に入らないようだ。ジョエル公爵令息の方もマルティナ嬢を無視して、シャルロット嬢と床に座り込んでしまったアンヌ嬢とエレーヌ嬢に近づいた。
「シャルロット、何があった」
ジョエル公爵令息に問われて、シャルロット嬢は兄に肩をすくめて見せた。
「何と言われましても、私より迷惑を掛けられたあの方に聞くべきですわ」
シャルロット嬢にそう言われてジョエル公爵令息は扉を背にして立っている男性に声を掛けた。
「マークス、何があった」
「こちらにお座りになってる御令嬢方がサムソン公爵令嬢が生徒会に入りたいとおっしゃってるから、生徒会室に入れろと扉のところの護衛に噛みつきまして、困った護衛に呼ばれて対応したのですが、どう言ってもサムソン公爵令嬢は今年の役員ではない事を信じていただけなくて……」
マークスと呼ばれた男性が言葉を切ると、シャルロット嬢が言葉を引き継いだ。
「揉めているところに私達が参りましたの。しっかりとこの耳でヒュッケ侯爵令嬢とエーベル伯爵令嬢がクラス分け採点が不正だと言われているのを耳にいたしました。どこででも証言いたしますわ」
そう言いながら、座り込んでいる二人にちらりと視線を与えた。二人は慌てて立ち上がりジョエル公爵令息に縋るような姿勢で跪いた。
「ジョエル様、どうかお見逃しを。マルティナ様がおいたわしくてつい口走ってしまっただけで、王家の裁定に不満がある分けではないのです」
「家に連絡されてしまったら、どんなことになるかわかりません。お願いします」
口々に許しをこうが、朝衆人環視で同じことを言っていたのを忘れているのかと思った。
「マルティナ嬢」
ジョエル公爵令息はルドルフ殿下に張り付いて、二人を少しも気にかけないマルティナ嬢に声を掛けた。
「マルティナ嬢」
返事をしないマルティナ嬢に少し強い目の言葉で呼びかけるジョエル公爵令息。しかしそれでも返事はない。絶対に聞こえてるはずだ。同じ距離にいる私にもしっかり聞こえているのだから。
シャルロット嬢が私の方にやってきて、跪いている私の手を取って立ち上がらさせてくれた。
「ここは学院だからそこまでしなくていいのよ。兄に任せて私達は生徒会室に入りましょう」
と言われたら、それまでは私の存在など路傍の石程度にしか感じてなかったろうルドルフ殿下とマルティナ嬢がこちらに視線を寄越した。
「まあ、シャルロット様、ごきげんよう。生徒会でご一緒させていただきますわ」
このマルティナ嬢は今までの騒ぎはなんだと思っているのだろうか。こんな女性がルドルフ殿下の想い人かと思うとルドルフ殿下がコンラート様の今世なんて皮肉なものだと思った。
あの真っ白な空間で、コンラート様はどうして自分がミリアムに惹かれたかのように振る舞った理由を説明してくれ、ミリアムはどういう意図でコンラート様とその側近に近づいたか、それをコンラート様が企みのために利用した事を教えてくれた。君を裏切ったわけではないと言葉を尽くして、誓ってくれた。
だが、今世を見ると前世のコンラート様も怪しいものだと私は皮肉げに思ってしまうのだった。
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