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第一章 前世
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しおりを挟む「それではミリアムのことは、最初から利用するつもりだったと」
ギルバートは横になって、苦しそうに息を吐くコンラートを見て言った。
「……あの女は庶子が養子になっても、貴族と縁組できないことを知らなかった。父親もどうやら知らなかったらしい。」
「その無知に付け込んだ」
「そうだ。薬を使って洗脳している癖に、自分は選ばれると自信満々に欲望をぎらつかせていたから、罪悪感も無しに利用できた。まさかあの二人がそこまで薬漬けになっているのに気がつかなくて、婚約破棄をして腕輪を外せば、自分は魔力の暴走で死ぬ。そうしたら、あの二人を解毒してくれると思っていた。だが……まさかカールが自死してしまうとは……うまく行くなどと思っていた自分が恥ずかしい。乳母に恨まれて当たり前だ」
コンラートは腕を上げて、腕輪のない肉の落ちた自分の腕を見つめた。
「アネットも殺してもいいと思っていたのですか?腕輪を外せば、あなたの魔力を取り込んだまま、返すことができない。自分のものではない魔力を身の内に入れておけば、どうなるかご存知だったでしょう?それなのにアネットを早死にさせたくないなどと詭弁だ」
ギルバートがきっとコンラートを睨みつけた。コンラートはノロノロとギルバートと視線を合わせた。
「母上は随分衰えられていたが、体調はどうなんだ」
急に話題が変わってギルバートは口籠もった。
「ーーーーー今は寝たり起きたりだと聞いておりますが。それが何の関係がーーーー」
「父上は歴代の王の中でも魔力は多い方だ。十年前すでに母上は年より老けていつも疲れておられた。父上は自分のせいなのに母上を放置して、学園からの仲の愛妾がいた。今もいるだろう?」
「ーーーはい。学園で見初めた男爵令嬢を結婚させてから、愛妾にされました。そして、離宮を与えられてずっと入り浸れてーーーー」
コンラートはふふんと鼻で笑った。
「だろう?母上に子供を産ませたら、自分の器として利用するだけ。そんな人が唯一無二を説くのだ。馬鹿らしくって笑いたくなるだろう?」
「だからーーーー」
「そうだ。器という制度を壊したかった。ーーーーアネットには十五の誓いの後に私から魔力が渡らないようにした」
「そんなことができるのですか」
ギルバートの顔色が変わった。
「自身の身体の中に膨大な魔力がぐるぐる回って、冷や汗が出て苦しいがアネットを殺したく無い一心で頑張ったさ。学園ではそのためにいつも上の空だった。だからアネットに冷たいように見えてよかっただろう?」
ギルバートがサイドテーブルをどんっと叩いた。ギルバートの握り拳から血がたらりと溢れた。
「あなたの態度でアネットがどれだけ苦しんだか!毎日暗い顔で学園に行くアネットを見送る我ら家族の気持ちを考えたことはないのですか?」
コンラートはギルバートに向けて頭を下げた。
「その通りだ。すまなかった。考えが足りなかった」
「なぜ、アネットを殺したく無いのなら、周りに相談しなかったのですか?あんな女に引っかかったことにしなくとも、もっと穏便にアネットを救えたのでは無いですか?」
「無駄だ。国王があれだ。王妃を子供を産み、自分を長生きさせる道具にしか思っていない。父上は母上が私を身篭ってから一度も母上のところに渡らず、次子が必要になってドミニクを身籠るまで渡っただけだ。そんな国王に婚約者を愛しているから、救いたいなどと言っても、鼻で笑うだけだ。それにーーー」
「それに?」
「ローゼンベルガーも器は使い捨てだと言ったーーーつまり、器を道具として使い捨てるのは王国全体の意思だったのさ」
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