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第一章 前世
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しおりを挟む「聞かせてもらいましょう」
ギルバートはそう言うが、コンラートは言い訳などできない。どうなるかわかっていてアネットを切り捨てたのだから。なぜそうしたかなど、言い訳をしても、今更アネットとの日々は返ってこない。
「ーーー言い訳はないよ。そう、私には洗脳薬は効いていない。自分の意思でミリアムを近づけて、アネットを切り捨てた」
「ミリアムとかいう庶子が、あなたの器になり得ない。と言うことは理解されていたのですか」
「正常な意識だったから、器のことも理解していた」
コンラートは覚悟を決めて淡々と言う。
「コンラート様、あなたは言い訳も弁明もないと言いますが、あなたのしたことで、カールは自死を選び、ルーカス、ライムントは洗脳薬を解毒はしたが、あまりに大量に与えられたから、廃人となってしまった。そのまま領地の片隅で療養という名の監禁をされている。薬を盛ったのはミリアムだ。しかしあなたが側近候補にミリアムが不自然に近づいている事をもっと早く報告してくれたら、あの二人の人生は台無しにならずに済んだのです。あなたには上に立つものとして、責任があるのです」
「責任があるからこそ、言い訳はない。私の選択は間違っていたかもしれないが、あの時はあれが正しいと思っていた」
ギルバートはため息を付いた。
「これでは、堂々巡りです。あなたは言い訳だから、弁明になるから言いたくない。私どもはアネットを蔑ろにした理由を知りたい。お互い折り合いが付かないーーーーですが、コンラート様、私どもは国王陛下よりあなたから婚約破棄の代償を受け取る事を認められております」
「ーーー代償?」
意外な言葉に眉を寄せた。
「婚約破棄の慰謝料など要りません。筆頭公爵家のギーセヘルト家はこれから、変わりなく王家を支えるために、コンラート様がどうしてこのような事をしたか、知りたいのです。それがコンラート様の意にそわなくとも、私どもは代償として要求いたします」
「アネットもその代償を求めているのか」
「コンラート様、あなたはなぜアネットが生きていると思っているのですか。腕輪を外せば、それまであなたと交わし合っていた魔力がアネットに溜まり、魔力の少ないアネットが魔力暴走で死ぬと思っていなかったのですか?」
コンラートとギルバートは黙って目を見交わせた。どちらも口を開かない。二人の間に流れる空気は昔の情が残っているせいか、非情なものでないように私は感じた。なぜ何も言わないと、もどかしく思ってるようにも見えた。そして、ギルバートの方が堪えきれずに口を開いた。
「コンラート様、アネットがあなたの婚約者に選ばれて以来、アネットが教育のために登城するのに付き添って、私もあなたにお会いしてきました。五歳から十歳の頃までは、アネットとあなたは仲睦まじいように私には見えました」
コンラートはギルバートは何を言いたいかわかったが、黙って聞いていた。
「それから十三、十四となると、あなたの態度が変わってきました。アネットと距離を取るようになったのです。アネットもあなたの気持ちがわかったのでしょう。あなたのされるままに逆らわずにいました。それを見ていた私ども公爵家のものは、十五の最終確認で、あなたはアネットを拒否すると思っていました。あなたがアネットを気に入らないのなら愛しく思えないのなら、その方がいいとアネットにも言い含めていました。その年頃ならまだアネットの嫁ぎ先などいくらでもあったのです」
ギルバートは強い視線をコンラートに向けた。
「もちろん国王陛下、王妃陛下もそう思われたから、十五の魔道具を付け直す最終確認の時にくどいほど、引き返すならいまだ。これから先はもう決して引き返せない。成人王族の一員として、器として寄り添ってくれる婚約者に責任が発生するすると言われていました」
ギルバートは込み上がってくる怒りに飲み込まれそうになり、ぐっと気持ちを抑えて言った。
「なぜ、あの時に拒否してくださらなかった!」
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