改稿版 婚約破棄の代償

ぐう

文字の大きさ
上 下
5 / 48
第一章 前世

5

しおりを挟む


 ミリアムは次の標的である公爵令息ライムントの攻略にかかった。
 この男は婚約者とは、マーカスによると仲は悪くないらしい。身体を使って近づいても、なかなか言う通りにならない。
 最終手段でマーカスに薬の入った飲み物をライムントに飲ませるように指示をした。この頃にはすでにマーカスはミリアムの言いなりだったのだ。
 そしてライムントもマーカスの時より濃度の濃いものを与えていたので、早い時期にミリアムに落ちてきた。

 身体を与えるとあっという間に自分の虜になる二人を見て、コンラート王子を攻略するのは簡単だと思い込んだ。マーカスとライムントにコンラートに紹介してほしいと強請った。普通の状態なら何故と疑問に思うだろうが、二人ともすでに正気ではないので、唯唯諾々と従った。


「殿下、よろしいでしょうか」

 コンラートが一人でテラスに座っている時に声をかけさせた。最近婚約者は学園で見かけないので、丁度いいとミリアムは思った。

「フロイント伯爵令嬢のミリアムです。殿下に紹介してほしいと言うので、連れて来ました」

 コンラートは端麗な眉を顰めた。


「君は確か、最近編入してきた令嬢だな」

 本当なら初対面のミリアムが王族に声をかけることはできない。だが、正気ではない二人の側近候補には常識はすでにない。

「ミリアムと言います。マーカスやライムントに仲良くしてもらってます」

 そう身体でねとにっこり笑って、コンラートのそばに駆け寄った。
 コンラートはそれを咎め立てもせずに、じっとミリアムを見つめた。その視線はどこか熱のある物だったので、ミリアムはコンラートには、一服盛らなくてもミリアムの魅力に陥落しかけているのだと思い込んだ。
 王子様だって普通の男、年頃の男の性欲には敵わないのだと。

 だが、ミリアムはじっと観察するコンラートの熱のある視線の意味には気が付かなかった。
 それが自分の未来を左右するものだと考えもしなかった。


 それからの日々はミリアムにとって自分の野望通りだった。
 コンラートは思ったより嫉妬深く、ルーカスとライムントとの仲を離された。二人は禁断症状が出て学園に出て来れないようになった。と言っても、禁断症状であることを知ってるのは、ミリアムとその父親だけ。
 コンラートさえ手に入れば、あの二人はもういらないので、ミリアムはあの二人の禁断症状など気にもかけなかった。

 学園にはコンラートの婚約者はずっと通って来ていない。婚約者に取って代わろうとしているミリアムにとって気にかかることだ。

「コンラート様ぁ 婚約者のアネットでしたっけ。どうしたのですか。学園に来てないですよね。……ひょっとして私のせい?」

 と上目遣いで甘えて言った。

「……ギーセヘルト公爵令嬢だ」

「え?なあに?」

「何故彼女を呼び捨てにしてる。彼女とは会ったこともなければ、親しくもないだろう。呼び捨ては失礼だ」

 きつく詰られて、意外だった。まだ婚約者に思い入れがあるのかと。これはコンラートにも薬を盛らないといけない。自分の言うことに盲信的になってくれないと、婚約破棄は難しいかもしれない。そう考えて、薬を混ぜたクッキーやケーキを用意した。

 薬を混ぜた菓子を甘えてしなだれかかり、無理矢理口に運んで食べさせた。一度食べてしまえば、中毒症状でもっともっとと求めてくるはずだ。……だがコンラートは求めて来ない。そのせいか身体の関係になれないのには焦った。マーカスもライムントも簡単に手を出して来たのに、コンラートはキスもして来ない。学園ではずっとそばに引きつけているから、愛人にするつもりかと噂になっている。ミリアムはその噂を耳にして焦った。愛人では母親と一緒だ。なんとしても王子妃になってみせると決心した。

 コンラートはミリアムの気持ちに気が付いているのかどうか、ミリアムにはわからなかったが、学園ではずっと一緒にいた。
 そしてある日一緒に来て欲しいと学園の外に誘われた。

「どこ行くんですかぁ」

「魔術庁だよ。きみの測定に行かないと」

 ミリアムは自分に魔力が無いのを知っている。
 学園に編入前につけられた家庭教師が、ミリアムの母親が貴族の庶子かもしれないなら、魔力があるかもしれない。魔力があれば魔術士への道もあるからと簡単に魔力測定をしたのだ。
 結果、かけらも無かった。魔力がないと王子妃になれないのだろうかとミリアムは焦った。

「ま、魔力が無いと、コンラートのそばにいられないの?」

 瞳を潤ませて、胸の前で手を組んだ。コンラートはそれを観て、にこりと笑って言った。

「いや、魔力の有無は関係無いよ。私の母は魔力は持っていない」

 王妃が魔力なしなら、大丈夫だとホッとしたが、それなら魔術庁には何しに行くのだろう。それでもコンラートに気に入られるためには、行かないと言う選択肢はない。行くしかないのだ。

 魔術庁に行って出てきたのは、ローブを深く被った年のよくわからない人間だった。

「殿下、これは何に使うのですか」

「一時凌ぎの器にだ。使えるか」

「おや、殿下も器は道具だとわかってくださったようですね」

「……ああ……」

「具合がかなりお悪いようですので、一時凌ぎも必要でしょう」

 なんの話をしているのか、ミリアムにはさっぱりわからない。でもコンラートに微笑まれ『私のために頑張ってくれ』と言われると逆らえない。ミリアムは野望を持って近づいたが、コンラートに本当に惚れたのか。嫌われたくない。そばにいたい。それだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私は旦那様にとって…

アズやっこ
恋愛
旦那様、私は旦那様にとって… 妻ですか? 使用人ですか? それとも… お金で買われた私は旦那様に口答えなどできません。 ですが、私にも心があります。 それをどうかどうか、分かって下さい。  ❈ 夫婦がやり直す話です。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 気分を害し不快な気持ちになると思います。  ❈ 男尊女卑の世界観です。  ❈ 不妊、代理出産の内容が出てきます。

夫には愛する人がいるそうです。それで私が悪者ですか?

希猫 ゆうみ
恋愛
親の決めた相手と結婚したラヴィニアだったが初夜に残酷な事実を告げられる。 夫ヒューバートには長年愛し合っているローザという人妻がいるとのこと。 「子どもを産み義務を果たせ」 冷酷で身勝手な夫の支配下で泣き暮らすようなラヴィニアではなかった。 なんとかベッドを分け暮らしていたある日のこと、夫の愛人サモンズ伯爵夫人ローザの晩餐会に招かれる。 そこには恐ろしい罠と運命の相手が待ち受けていた。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

王妃が死んだ日

神喰 夜
ファンタジー
【本篇完結】 王妃ユリアーナが自害した。次なる王妃として選ばれた美しい令嬢・マーガレットは、位を継ぐ条件として、王妃が死を選んだ原因を突き止めることを提示する。 王妃の死の理由を探る国王たちだが、遺体の消失、王妃の母である王太后の行動など、不審な影がついてまとう。 王妃は本当に死んだのか?何故死んだのか?国王は、謎を解くことができるのか。 【外伝 殺された皇子と名もなき王女】 王妃ユリアーナの両親が出会った頃のお話。 表紙は友達に頼んだら描いてくれました♪色塗り苦手という理由で線画で返ってきました(笑)

あなたにはもう何も奪わせない

gacchi
恋愛
幼い時に誘拐されそうになった侯爵令嬢ジュリアは、知らない男の子に助けられた。 いつか会えたらお礼を言おうと思っていたが、学園に入る年になってもその男の子は見つからなかった。 もしかしたら伯爵令息ブリュノがそうかもしれないと思ったが、確認できないまま三学年になり仮婚約の儀式が始まる。 仮婚約の相手になったらブリュノに聞けるかもしれないと期待していたジュリアだが、その立場は伯爵令嬢のアマンダに奪われてしまう。 アマンダには初めて会った時から執着されていたが、まさか仮婚約まで奪われてしまうとは思わなかった。

処理中です...