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「ですから婚期を逃しそうと言ったじゃないですか」

「いないのか?本当に誰も?」

 しつこいぞ。美形でもしていいことと悪いことがあるだろうよ。

「いません。婚約を解消していただけたら、兄を脅迫して王宮の隅に隠遁します」

 握られていた手を引き抜いてそう言うと、テオバルトが私の前に跪いて私の手を取り直した。

「今まで不誠実な態度をとっておいて、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないが、あなたに会ってあなたに誠意を持って向き合いたいと思ったのだ。他に思う男がいないのなら、私と向き直ってくれないか」

 部屋の中の空気が冷たくなった。あ、また部屋の隅に霜柱が立っている。リヒャルトがお怒りだ。

「殿下」

 なんか空気が冷えて、目の前の風景がゆらりと揺れているようだ。付き合いの浅い私達ですらリヒャルトが怒っていることがわかるのに、テオバルトは無頓着に言った。

「なんだ、リヒャルト、邪魔するな。俺はエレオノーラ王女に求婚しているのだ」

 え、球根?いや、求婚のほうか。まさか求婚!あんなにこだわっていた番はどうしたのだ。頭は大丈夫か。

「殿下、番はどうしたのですか、まさか、エレオノーラ王女が番だと言い出すつもりじゃないでしょうね」

「残念ながら番ではない。番に会ったときに感じる紅潮感や血の沸き立つ気持ちはないが、彼女が好ましいと言う気持ちは湧いてくる。これは一目惚れなんだと思う」

 私は怒りが湧いてきた。さっきから話していた内容聞いてなかったのか、この馬鹿者め。

「嫌ですよ。だって、あなたと恋愛しても、番が見つかったら捨てられるのでしょう?」

 そう言って、また握られた手を振り払ってやった。

「いつ番が見つかるかも知れないという不安を持って、結婚生活なんか送りたくないです!」

 私がぜーぜーと肩で息してまた叫ぶと、今まで黙っていたニックが口を開いた。

「エレオノーラ王女の言われることはもっともです。いままでの王妃達もずっとそう思っていられたでしょう。そういう気持ちが不仲につながるのかも知れませんね。相手の気持ちが信じられないのですから」

 ニックがしみじみと言うと、さすがにテオバルトも自分の言い分に分が無いことに気がついた様だった。テオバルトが私の前で立ち上がった姿を見ながら、ニックが言葉を続けた。

「私とリヒャルトが共同で開発した魔道具の話をしたいと思うのですがいいですかね。その話をするためによばれたはずなのに、アデリナからどんどん話がそれてしまってますから」

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