上 下
27 / 69

27

しおりを挟む



「王女殿下はなにをおっしゃりたいのですか」

 なんか急に空気が冷たくなったが、気にしない!

「そのままです。王太子殿下には権力がある。強国の軍を押さえているものがこの国の一番の権力者のはず。先祖返りでなく魔力も王族平均の国王陛下に、番で無い婚約者を排除するように指示しないのは疑問だと思ってるだけです」

 リヒャルトはその美しい形を保っている薄い唇の口角をきゅっと上げてほほえんだ。

「ほおお、ちゃんと調べておいでになってるのですね」

「弱小国だからこそ情報戦に負けていては、生き残れません」

「そういう国は嫌いじゃ有りません。己の立場をきちんと理解した上で振る舞う。いいことだと思いますよ」

 なーんか偉そうな人。王族の公爵家だから普通の公爵家より、王家寄りのはずなのに番反対派とか言うし、いっそ聞いてやるか。

「グートハイル伯爵は王族ですよね。でしたら番がいる。その番を探すつもりはないのですか」

「ありません」

 ものすごくきっぱり言われたよ。

「先ほども言いましたが、どこにいるかもわからない、どんな人かもわからないそんな番を探すのは徒労でしかない。情報を集めていらっしゃるようですので、ご存じかと思いますが、私の家は過去、番を見つけて捨てられた王弟の子供が興した家です。ですから竜人の血が混じってはいるけれど、番に対する拒否感はすごい。五歳を過ぎれば、番の弊害を教え込まれ、そういう欲求と戦い、婚姻することになった伴侶を愛するよう、大事にするよう、家族になるようにと説かれます」

「押さえられるものなのですか?」

「我が家には先祖返りは出ませんでしたから、番に対する欲求はそこまで強くないので、できたことかもしれません。それに番に狂って正妻と嫡子を捨てた王弟がどうなったか知っているからでもあります」

 リヒャルトが真顔でそう言い切った。

「どうなったか聞いてもいいですか」

「いいですよ。番がすでに結婚して夫も子供がいたことは知っていますか」

「はい、我が国の農家だったので」

「そうでしたね。彼女は人間だった。だから番などわからなかったのに、いきなり現れて攫った男など愛せるわけも無い。ずっと夫の元に帰りたい、子供に会いたいと泣いていたそうです。竜人は番が他の男と作った子供など許しません。下手すると殺してしまう。なので周りは慌てて、あなたの国に頼んで隠してもらったそうです。ですから、あなたの国に記録が残っていたのでしょう」

「番とされた彼女はどうなったのですか」

「彼女は最後まで王弟を拒否しました。身体を無理矢理暴かれても、泣きわめいて抵抗して衰弱していきました。そして亡くなったのです。最後は食べるものを拒否して餓死だったそうです」

 その悲惨さに言葉も無い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。 召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。 しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・ 本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。 ぜひ読んで下さい。 「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます 短編から長編へ変更しました。 62話で完結しました。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...