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【3】旅行で少女。
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「絶対に、ウチの中では“ご主人サマ”なんて呼ぶんじゃねぇぞ」
ご主人サマの家に着き、タクシー代を払いながらそう言われた物の、私はご主人の呼び名をそれ以外持ってない。曖昧に頷いた物の代案がなかなか浮かばず、家族に紹介され、話の流れで飛び出た言葉は「お兄ちゃん」で、どうやらその様子が彼の家族には面白く感じたらしく、自然と潜入する事に成功した。
「こんな小さい子を置いて海外に行っちゃうなんて、寂しくない?」
とご主人サマのお母さん。
「そんな事より、兄ちゃん、ちゃんとご飯作ってくれてる?」
とご主人の妹君。
何処かご主人サマに面影の似た2人は、確かに血のつながる家族らしい。
お母さんは柔らかい笑みが似合う優しそうな人で、妹さんはショッートカットの似合う活発そうな人だった。
ご主人サマの無愛想っぷりは家族に向けても同じらしく、さっきから顔を見せてない。成長すると男子は親に対して何も話さなくなる――とは言いますが、親元離れて過ごす子供の事は母上からしてもさぞかし心配な事でしょう……。
だからかちょっとばかりハートフルパートナーとしての使命感が疼いた。
「お兄ちゃんには良くしてもらってます。突然転がり込んだのに嫌な顔一つもせず本当に……」
だからサービスしてあげる。
「このままこのお家の娘になっちゃおうかなーって思っちゃうぐらい」
ご主人とその家族の間を取り持つのもハートフルパートナーの役目なのですっ!
っと、意気込んでみた物のなんだかマズい事を言ったらしく見る見るうちに2人の目に涙が浮かび「本当のお家だと思って良いのよ――」と抱きしめられてしまった。「よしよし」と頭を優しく撫でられる感覚は、なんだかとても気持ちよくてついつい甘えてしまう。
「こんな風にされたの初めてです――」
と、言ったのが益々不味かったらしい。感極まった二人の抱擁は最早「抱きしめ攻撃」と言っていい程強い物となり。
「うぐっ、うぐぐ……」
――正直苦しかった。
「さて、と、そろそろ準備しなきゃね。杏子も手伝って」
しばらくしておばさんが先に立ち上がり、「うんっ」と妹さんも後についていった。
「また後で遊ぼうね、マキちゃん?」
「は、はいっ」
なんだか可愛い人だなぁと見蕩れていると一つ大事な事に気が付いた。
「あ、あのっ!」
「ん?」
私の声に気付いて妹さんが振り返ってくれた。
「お兄ちゃん……何処行ったか知りませんか?」
家についてから姿を見ていない。
もしかして法事の準備をしているのかもしれないけど……、それにしては姿を見かけなかった。
「あぁ……、たぶんおばあちゃんのトコ」
「おばあちゃん……?」
「うん。いつも帰ってくるとお墓参り行くんだよね。その内帰ってくると思うから、退屈かもしれないけど居間で休んでて?」
私が頷くとなんだか複雑な笑みを浮かべて奥の部屋へと消えていってしまった。
――お墓参り……。
普段の様子からはその様子は想像出来なくて、少し意外だった。
「……全然、知らないんだなぁ」
もうあと1週間も無いというのに、私はご主人サマの“パートナー”になるどころかご主人サマの事をまだ全然知れてない。その事がなんだか重くのしかかって来て、
「んにゃぁーっ、もうっ! うにゃうにゃうにゃあああーっ!」
何となく、畳の上に転がってジタバタしてみたけど何も気持ちは変わらなかった。
見上げた天井は年季が入っていて、木目の模様はその年月を感じさせる。
「はぁ……。私はハートフルパートナー……なんですぞっ……?」
ぼんやりと呟いた言葉は静かに宙を舞っては――消えていった。
ご主人サマの家に着き、タクシー代を払いながらそう言われた物の、私はご主人の呼び名をそれ以外持ってない。曖昧に頷いた物の代案がなかなか浮かばず、家族に紹介され、話の流れで飛び出た言葉は「お兄ちゃん」で、どうやらその様子が彼の家族には面白く感じたらしく、自然と潜入する事に成功した。
「こんな小さい子を置いて海外に行っちゃうなんて、寂しくない?」
とご主人サマのお母さん。
「そんな事より、兄ちゃん、ちゃんとご飯作ってくれてる?」
とご主人の妹君。
何処かご主人サマに面影の似た2人は、確かに血のつながる家族らしい。
お母さんは柔らかい笑みが似合う優しそうな人で、妹さんはショッートカットの似合う活発そうな人だった。
ご主人サマの無愛想っぷりは家族に向けても同じらしく、さっきから顔を見せてない。成長すると男子は親に対して何も話さなくなる――とは言いますが、親元離れて過ごす子供の事は母上からしてもさぞかし心配な事でしょう……。
だからかちょっとばかりハートフルパートナーとしての使命感が疼いた。
「お兄ちゃんには良くしてもらってます。突然転がり込んだのに嫌な顔一つもせず本当に……」
だからサービスしてあげる。
「このままこのお家の娘になっちゃおうかなーって思っちゃうぐらい」
ご主人とその家族の間を取り持つのもハートフルパートナーの役目なのですっ!
っと、意気込んでみた物のなんだかマズい事を言ったらしく見る見るうちに2人の目に涙が浮かび「本当のお家だと思って良いのよ――」と抱きしめられてしまった。「よしよし」と頭を優しく撫でられる感覚は、なんだかとても気持ちよくてついつい甘えてしまう。
「こんな風にされたの初めてです――」
と、言ったのが益々不味かったらしい。感極まった二人の抱擁は最早「抱きしめ攻撃」と言っていい程強い物となり。
「うぐっ、うぐぐ……」
――正直苦しかった。
「さて、と、そろそろ準備しなきゃね。杏子も手伝って」
しばらくしておばさんが先に立ち上がり、「うんっ」と妹さんも後についていった。
「また後で遊ぼうね、マキちゃん?」
「は、はいっ」
なんだか可愛い人だなぁと見蕩れていると一つ大事な事に気が付いた。
「あ、あのっ!」
「ん?」
私の声に気付いて妹さんが振り返ってくれた。
「お兄ちゃん……何処行ったか知りませんか?」
家についてから姿を見ていない。
もしかして法事の準備をしているのかもしれないけど……、それにしては姿を見かけなかった。
「あぁ……、たぶんおばあちゃんのトコ」
「おばあちゃん……?」
「うん。いつも帰ってくるとお墓参り行くんだよね。その内帰ってくると思うから、退屈かもしれないけど居間で休んでて?」
私が頷くとなんだか複雑な笑みを浮かべて奥の部屋へと消えていってしまった。
――お墓参り……。
普段の様子からはその様子は想像出来なくて、少し意外だった。
「……全然、知らないんだなぁ」
もうあと1週間も無いというのに、私はご主人サマの“パートナー”になるどころかご主人サマの事をまだ全然知れてない。その事がなんだか重くのしかかって来て、
「んにゃぁーっ、もうっ! うにゃうにゃうにゃあああーっ!」
何となく、畳の上に転がってジタバタしてみたけど何も気持ちは変わらなかった。
見上げた天井は年季が入っていて、木目の模様はその年月を感じさせる。
「はぁ……。私はハートフルパートナー……なんですぞっ……?」
ぼんやりと呟いた言葉は静かに宙を舞っては――消えていった。
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