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本編
第1話 神様との出会い
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私の記憶の中で「家族」って物が占める割合は割と大きい。
帰るべき場所、安らげる場所。……幾つになっても帰ってこれる場所……。
記憶の中での「お父さん」は休みの日には私を肩車して色んな所へ連れて行ってくれた。
記憶の中での「お母さん」はそんな父にハラハラしながらも、お弁当を作ってくれた。
なんてことはない、幼い頃の記憶。
なんれことはない、ありきたりな思い出だった。
近所の河川敷に作られた公園でお弁当を食べて、キャッチボールだったり滑り台だったりで遊ぶ。ブランコを漕いで、父とどっちが遠くまで飛べるか競争したりもした。絵に描いたような平凡な家庭で、絵に描いたような平和な日常を私は送っていた。
優しい二人の間で幼い私は笑っていて、とても幸せそうに見えた。
でも……、
「いい加減にしてよ!! もう!!」
絵に描いた日常は、所詮絵に描いた物でしかなかったのだと今は思い知らされている。
「んぅ……? ……母さん……?」
薄暗い部屋。意識の向こう側から差し込まれた叫び声に夢から目が覚めた。ほんのりと残った甘い思い出はもはや消えつつある。ぼんやりとカーテンの隙間から入ってきた月明かりが時計の針を浮かび上がらせ、まだ深夜であることを教えてくれる。
「……またか……」
体が重い……。きっと体育で持久走あったからだ……。
ふらふらとベットから起き上がると、部屋を横切る。
やめておけばいいのに、といつも思う。放っておけばいいのに、見て見ぬふりをすればいいのに。頭は妙に冴えてるくせに自分は寝ぼけてるんだと言い訳をしてそっと扉を開ける。少しだけ。こちらにすっと一筋の明かりが差し込む程に、ほんの少しだけーー。
「……付き合いだって言ってるだろう……」
機械的な眩しい光と共に父親の苦々しい声が聞こえてきた。椅子にくたびれた様子で腰掛けた父は鬱陶しそうにネクタイを緩め、それに母が食ってかかっている。
ーーああ、まぁ、いつもの景色だ。
「どうしてそんな嘘つくの!? この間だって若い女の人から電話がかかってきてたじゃないの!」
ヒステリックな叫び声は肩に力を入れさせる。……少しだけ、扉を引いて光を小さくした。
「あれは部下だって言ったら何度わかるんだ。この前紹介しただろう……!」
「白々しいっ……、出張だって言って何処に泊まってるんだか……」
際限のない言い争い。
やめておけばいいのに毎晩毎晩、顔を会わせるたびにコレだ。
内容なんて代わり映えはなく、同じことの繰り返し。
「はぁ……」
それ以上聞きたくはなくてそっと扉を閉めた。
かちゃりと、ドアノブが閉まる音が聞こえて少しだけ息を潜める。それで二人が冷静になってくれればいいとは思うけど、そんな様子は微塵も感じられなかった。
ーー終わりきっているんだ、あの二人は……。
仲良く笑い合った思い出は、もしかすると私の妄想なんじゃないかと最近思う。
二人は最初からあんな感じで、ずっと喧嘩ばかりしているんじゃないかって。
……だけど、やっぱり記憶の中の「彼ら」は幸せそうに笑っていて、私もそこにいる……。
「……なにしてんだか……」
何かを期待しているわけじゃない。
二人が仲直りしたらいいと思ってるわけでもない。
いまさらそれがどうなったところで、はいそうですかってまた笑いあえるとも思えない。
そんな都合のいい夢物語は私の現実には訪れず、所詮は絵に描いたような薄っぺらくて味気ない、つまらないゲンジツだけが待っている。
「寝よ寝よ」
一度抜け出してしまった布団は冷たく、体を滑り込ませると自然に手足が丸まった。自分自身を抱きしめるようにしてそっと意識をあちら側に飛ばす。そうすることで扉の向こう側から聞こえて来る物音から自分を守れるような気がした。
ドクン、ドクンと心臓の音だけが響き、月明かりが静かに私を照らしているのがわかる。
聞こえはしない。何も聞こえはしないと言い聞かせて閉じた瞼の向こう側では相変わらず変えようのない喧騒が騒ぎ立てていた。
「ばっかみたい……」
眠れず、うっすらと開いた瞼の向こう側。
青白い月の光に照らされ浮かび上がった私の部屋からはいつの間にか現実味が消え失せていて、そこにあったはずの色んな感情はゆっくりと胸の奥深くに沈んでいったように感じた。
「……」
意識がとけ込んでいくかのような静かな波の音ーー、
打ち寄せては引いていくその優しげな音色に身を任せ、私は眠りの中に落ちていった。
ーーそして私は、“私の神サマ”に出会ったんだ。
帰るべき場所、安らげる場所。……幾つになっても帰ってこれる場所……。
記憶の中での「お父さん」は休みの日には私を肩車して色んな所へ連れて行ってくれた。
記憶の中での「お母さん」はそんな父にハラハラしながらも、お弁当を作ってくれた。
なんてことはない、幼い頃の記憶。
なんれことはない、ありきたりな思い出だった。
近所の河川敷に作られた公園でお弁当を食べて、キャッチボールだったり滑り台だったりで遊ぶ。ブランコを漕いで、父とどっちが遠くまで飛べるか競争したりもした。絵に描いたような平凡な家庭で、絵に描いたような平和な日常を私は送っていた。
優しい二人の間で幼い私は笑っていて、とても幸せそうに見えた。
でも……、
「いい加減にしてよ!! もう!!」
絵に描いた日常は、所詮絵に描いた物でしかなかったのだと今は思い知らされている。
「んぅ……? ……母さん……?」
薄暗い部屋。意識の向こう側から差し込まれた叫び声に夢から目が覚めた。ほんのりと残った甘い思い出はもはや消えつつある。ぼんやりとカーテンの隙間から入ってきた月明かりが時計の針を浮かび上がらせ、まだ深夜であることを教えてくれる。
「……またか……」
体が重い……。きっと体育で持久走あったからだ……。
ふらふらとベットから起き上がると、部屋を横切る。
やめておけばいいのに、といつも思う。放っておけばいいのに、見て見ぬふりをすればいいのに。頭は妙に冴えてるくせに自分は寝ぼけてるんだと言い訳をしてそっと扉を開ける。少しだけ。こちらにすっと一筋の明かりが差し込む程に、ほんの少しだけーー。
「……付き合いだって言ってるだろう……」
機械的な眩しい光と共に父親の苦々しい声が聞こえてきた。椅子にくたびれた様子で腰掛けた父は鬱陶しそうにネクタイを緩め、それに母が食ってかかっている。
ーーああ、まぁ、いつもの景色だ。
「どうしてそんな嘘つくの!? この間だって若い女の人から電話がかかってきてたじゃないの!」
ヒステリックな叫び声は肩に力を入れさせる。……少しだけ、扉を引いて光を小さくした。
「あれは部下だって言ったら何度わかるんだ。この前紹介しただろう……!」
「白々しいっ……、出張だって言って何処に泊まってるんだか……」
際限のない言い争い。
やめておけばいいのに毎晩毎晩、顔を会わせるたびにコレだ。
内容なんて代わり映えはなく、同じことの繰り返し。
「はぁ……」
それ以上聞きたくはなくてそっと扉を閉めた。
かちゃりと、ドアノブが閉まる音が聞こえて少しだけ息を潜める。それで二人が冷静になってくれればいいとは思うけど、そんな様子は微塵も感じられなかった。
ーー終わりきっているんだ、あの二人は……。
仲良く笑い合った思い出は、もしかすると私の妄想なんじゃないかと最近思う。
二人は最初からあんな感じで、ずっと喧嘩ばかりしているんじゃないかって。
……だけど、やっぱり記憶の中の「彼ら」は幸せそうに笑っていて、私もそこにいる……。
「……なにしてんだか……」
何かを期待しているわけじゃない。
二人が仲直りしたらいいと思ってるわけでもない。
いまさらそれがどうなったところで、はいそうですかってまた笑いあえるとも思えない。
そんな都合のいい夢物語は私の現実には訪れず、所詮は絵に描いたような薄っぺらくて味気ない、つまらないゲンジツだけが待っている。
「寝よ寝よ」
一度抜け出してしまった布団は冷たく、体を滑り込ませると自然に手足が丸まった。自分自身を抱きしめるようにしてそっと意識をあちら側に飛ばす。そうすることで扉の向こう側から聞こえて来る物音から自分を守れるような気がした。
ドクン、ドクンと心臓の音だけが響き、月明かりが静かに私を照らしているのがわかる。
聞こえはしない。何も聞こえはしないと言い聞かせて閉じた瞼の向こう側では相変わらず変えようのない喧騒が騒ぎ立てていた。
「ばっかみたい……」
眠れず、うっすらと開いた瞼の向こう側。
青白い月の光に照らされ浮かび上がった私の部屋からはいつの間にか現実味が消え失せていて、そこにあったはずの色んな感情はゆっくりと胸の奥深くに沈んでいったように感じた。
「……」
意識がとけ込んでいくかのような静かな波の音ーー、
打ち寄せては引いていくその優しげな音色に身を任せ、私は眠りの中に落ちていった。
ーーそして私は、“私の神サマ”に出会ったんだ。
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