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6-2 落ち着かないお風呂

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 何度目経験したからと言って、慣れるものでもないことを僕は知った。

「やっ……あのッ……自分で洗えますから!!」
「そう仰らずに」
「ひぃッ……」

 使い慣れたくもなかった城の大入浴場。
 普段はエシリヤさんはともかく、エミリアも風呂に入った後の使用人の人たちすらいないような遅い時間帯にそっと使わせてもらっていたのだけど、病み上がりということもあってかほぼ強制的に一緒に入れられることになってしまった。

「当たってっ……当たってますからッ」
「女同士でなにを恥ずかしがることがありますの?」
「いやそういう問題じゃなくっーー、ひぁっ……?!」
「あ、失礼しました?」

 慣れない。慣れるわけもない。
 自分の体が女であることにはもう諦めたし、子供のころは妹と一緒に風呂にも入っていたからそれ自体に問題はない。いや、あるけど。ないとか言いながらやっぱりあるんだけどっ……。
 ただ、妹にはなかった「その感触」だったり、やはり血縁者でない人の裸をまぢかで見るっていうのは、

「んー……アカリさまって変なところで可愛らしいですわねー?」
「いやいや、エシリヤさんが大人なだけだから……」
「そうでしょうか?」

 ええ、ほんと、いろんな意味で……。

 欲に負けてちらっと見てしまったそれは僕の知る「それ」ではなかった。妹とも、……当然結梨のそれとも比べ物にならないほどに主張している感触に湯船に浸かる以前にのぼせそうになる。
 エシリヤさんって着痩せするタイプだよなぁーとは思う。普段から目のやり場には困ってるけど、押さえつけるものがなくなった今ではそれはもうやりたい放題だ。勘弁してくれっ。

「ねぇ、アカリ様……? そのままなにも言わず聞いてくださると嬉しいのですがーー、」
「っ……?!」

 そういって明らかに「押し付けられた」感触に言わずもがな、なにも言えなくなる。
 ピンッと背筋が強制的に伸び、感覚が研ぎ澄まされる。
 泡が、スポンジがっーー、いや、ちょっと待ってこの感触はっ……!!!

「あわわわわ」

 口から泡でも吹き出しそうになりながらも肌越しに伝わってくる熱が反して徐々に僕を冷静にさせてくれた。
 冗談でくっついたりはしてくるけど、何だか普段のエシリヤさんとは様子が違って思える。
 すがるように、僕の肩に頬を埋めて、頬ずりされた時に長い髪が擦れて甘い匂いが広がる。

「エシリヤさん……?」

 どうしたんだろうと振り向きたくもなるがそうしたらエシリヤさんごと振り払ってしまいそうで躊躇する。
 僕の問いかけに答えはない。

 ただ彼女の吐息だけが耳に届き、ドキドキと胸の音だけがこだまする。

「あの子のことを……よろしくお願いいたします」
「……?」

 この状況で出てくる名前といえば妹のエミリアか?
 話の先が読めず、黙っていると「わたくしは……ついていけませんので」と付け加える。
 なるほど、話が読めた。と視線を戻す。完全に事後承諾のようなものだがどうやら僕らの旅にエミリアを同行させたいらしい。

「……とりあえず、湯船に入りませんか。……冷えちゃいますから」
「……はい……」

 体の泡を流し、エシリヤさんの手を掴むとその手は思っていたよりも小さかった。
 体の大きさ的には僕よりも少し大きいぐらいなんだけど、それでも、「男の僕からすれば」小さく感じられた。
 そう年も変わらず、恐らく僕の世界でいえば女子高生なんかやっててもおかしくないハズの彼女はこの国の女王で、……いろんなものを背負い込んでいる。
 不思議と、彼女の裸を見ても変な気持ちは湧いてこなかった。

「……湧いてこなかった」
「?」
「いえ、こっちの話ですっ……」

 視線をそらしてさっさと湯船に逃げる。
 ダメだ、やっぱり目の毒だわ。うん。

「あの……やっぱりそういうことなんですか?」

 距離を置いて腰を下ろし、顎までお湯に浸かりながら目配せする。
 エシリヤさんもエシリヤさんで僕に視線を合わせようとはしなかった。

「……今回の騒動で国内は混乱しております。しかし、妹は竜宮の巫女としての務めがございます。こんな時にーー、という声も無くはないのですが、だからこそ他国に示さねばならないとも思うのです。我が国に『ドラゴン在り』と」

 僕に告げることで自分自身を説得するかのように、ゆっくりと噛み砕いていく。

「政治の道具に使いたくなど有りませんが……、……そうも言っていられないのです」

 それは彼女も同じだろう。
 エシリヤさん自身も王女という立場だから、ただ、自分がこの国を守れる地位にいるから。
 それだけの理由で自分を犠牲にしてでも先陣を切り、戦いにのぞんでいた。

「エミリアも……同じ気持ちだと思います」
「……?」

 不安げに揺らぐ瞳が、ようやく僕を捉える。

「あいつもきっと、エシリヤさんとおんなじ気持ちだとは思います」
「……だから、不安なのです」

 わかっている。当然だ、この姉妹はそうして国を守ってきた。
 そんな二人に僕がかけられる言葉なんて陳腐でしかなく、結局虎の威を借りるだけでしかないんだろうけど、それでも、

「大丈夫、僕が守ります。信じてください」

 その威光をふんだんなく使わせてもらおう。

「黒の魔導士として、我が姫に尽くしましょう?」

 ちゃかしながらも決意を固める。
 この世界に飛ばされて右も左もわからない僕たちを拾ってくれたのはエミリアだ。どのみちなんの手がかりもない、行き先のない旅であるなら彼女の歩みに同行するのも悪くない。

「その代わり、食糧とか、その他諸々……お世話になってもいいですかっ……?」

 割とそれに関しては死活問題なので。
 冗談と本気の混じり合った提案に暫くの間エシリヤさんは目を丸くしたが、しばらくすると氷が溶け他のように笑いだし、

「もちろんですわっ?」

 はにかんで、頷いてくれた。

「ほぅ? その旅路、何処に向かうのか妾も聞かせてもらっても良いかのゥ?」
「……?!」

 その声は唐突だった。
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