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芋の皮

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 骨折なので固めたままなら歩くことは可能だという事で、カークは教会の裏の居住棟に部屋を借りることになった。
 治療費はキャスキューが取れるまで教会の仕事の手伝いをすることで対価にしてもらったらしい。

 カークの破れた服は教会の職員たちが子供服に作り替えるとかで、かわりに服がもらえた。
 縫製の見習いが作った服で、着心地とか聞きに来ていいかと本人に言われていた。
 売り物にはならないが、普段着には十分らしい。と本人が早口に言っていた。

 歩けるとはいえ、回されてくる仕事は座って出来るものに限られていた。
 今日も厨房の裏で芋の皮むき。
 いい天気だ。
 そしてカークの足元には緑のスライム。

 崖下にいたスライムではない。
 教会で飼われているスライムだ。
 最初に神父がテイムしていると教えてもらった。
 そしてこいつは野菜の皮が大好物だ。

 畑の野菜は食べないように躾けているらしい。
 それでも外からスライムが来ると縄張りを主張するらしい。
 両方ともまだ見た事はない。

 見たことがあるのは、夕方の畑でスライムが勢いをつけてペッと何かを吐き出して、その白い球を畑の野菜の下に埋めている姿だった。
 周りに人がいなかったので会話して、カークがスライムなのにかなり驚き、自分で取り込んだ野菜の栄養を一部畑に肥料として還元していると教えてくれた。
 肥料があると野菜が美味くなり、だから自分に回ってくる野菜の皮や端切れも美味くなるかららしい。

 スライムが自分で食料を生産しようと行動するなんて凄いな。
 前に見た畑の様に人間が肥料を作る様子はないから必要に迫られてとも言えるかもしれない。

 代わりに美味い野菜を求める害獣が増えてしまうのが難点だと言っていた。
 でも今のカークでは害獣退治は無理だな。

 警戒ならセキ達で可能かな?
 ……近くの木の上にいたスコラ三匹がタターッと降りてきてカークの前に並んだ。
「元気?」

「「「キュッ」」」
 三匹が手を上げた。
 教会の柵の外側には街路樹があり、硬い木の実が付くタイプだったのでセキ達は喜んで住んでいた。
 教会の畑に害獣が近づいてきたら教えてもらえるか?

「「「キッ!」」」
 三匹が手を上げて、普段はあまり揺れない尻尾が揺れている。
 張り切って街路樹に戻っていった。
 そうは言っても、害獣がそんなに頻繁に来るわけじゃないのが少し申し訳ないかな。

 自分が話している間にもカークの芋の皮むきは進められ、緑スライムは喜んで芋の皮を食べていた。
「美味いか?」
 ……緑スライムは上下に伸びてみせた。
 消化中の運動って消化を助けるのだろうか?

 あ、厨房から焦げ臭い臭いがしてきた。
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