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マスター榛名、ギルドに行く

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「え~と、普通の人等が得られる情報から、カントウ圏の管理範囲を調べられないか?」

 このアバターには人の一般常識は備わっているようで、まずは一般アバターがアクセスする公式ページで、何故か相談窓口に入っていくハルナ。
 しかしGMコールしてもお助けアバターが現れるわけでもなく、

「調査いたします」
 のメールが来ただけで、ハルナの希望に沿うものではなかった。
 GMはあくまでも人なので、AINPCの困り事まではすぐ解消できなかったようだ。

 でも、普通にカントウ圏外に出れば何とか他のサーバーマスターに会えるのではという淡い期待を胸に、ハルナは移動手段を求めて出発地点の町のギルドを訪れる。

「御予算はおいくらほどでしょうか?」

 砂色の巻き髪を片方の肩上で束ねたギルドの受付嬢に告げられた一言に愕然をする。
 サーバーマスターの資産はすべて旧アバターが持ち逃げしていた事に今更気付いた。
 つまり新アバターハルナは無一文。

「のんびり馬車の旅と、鳥籠飛脚便がございますが、ともに有料です」

「あの……チューブ圏のサーバーマスターに会いに行きたいんだが、カントウ圏のサーバーマスターの管理権限でどうにかできないか?」

「……サーバーマスターの管理権限行使でよろしいですか?」

 なんか受付嬢の言葉が急に機械的になった。
 でも、頼るものが何もないハルナは頷く。

「……ではサーバーマスター確認を行いますので、こちらへ」

 なぜかカウンターの中に通されるハルナに周りの一般アバターがざわめいた。
 カウンター奥のギリギリカウンターの外から見える位置に後ろ向きに置かれたソファーに促されて座る。
 どうするのか知らないのでハルナの顔には不安が張り付いている。

「貴方様がサーバーマスターであるならば、何も御心配には及びません。
 口をあけてベロを出して見せてください」

「口をあけるって、のどの奥に何かあるのか?」

「確認ですので、お願いします」

 仕方なく風邪を引いた子供が内科診察しているような気分で、口をあけるハルナ。
 何故か反射的に目を閉じている。
 ハルナの座るソファーの背に手をかけ、そこに顔を近づける受付嬢。

「失礼いたします。ぱくっ」

「んむっ!?」

「「「「「!!!!!」」」」」

 その様子をちらちら見ていた一般人達が声にならない声を上げて立ち上がっていた。

「んんっんはっ!?」

 目を開けたハルナの目の前には、ドアップの受付嬢の顔。
 そして、ハルナが出していた舌は受付嬢の口の中に吸い込まれて舐めまわされていた。
 何だかピリピリする。
 次第に根元まで舌が伸ばされ、必然的に唇が合わさる。

 それと共に頭の中にあふれてくる情報。
  ・シンジュと周辺の地理情報。
  ・シンジュ内のギルド職員AIの配置情報。
  ・受付嬢カイナの個人情報。
 なんだこれ!!

「情報受け渡し完了いたしました。これを持ちまして当ギルドでのサーバーマスターハルナのアップデート登録完了でございます」

 色っぽい顔をして口を離した受付嬢の口から、事務的な言葉がこぼれる。
 恥ずかしくて赤くなるべきか、いきなりの情報開示に青くなるべきか悩んだハルナは無表情だった。

「なんでキスした?」

「はい、AI同士の情報交換は一般アバターの様に紙に表示いたしません。
 脳に当たる記憶野に直接焼き付けます。
 その為には直接接触して記憶野までの道を引き出す必要があり、双方で敏感な粘膜接触が効率的なのです」

「さっきのピリピリしたのがそうかな?」

「気持ちいいとチリチリしたりピリピリしたりホワホワしたりするそうです」

「気持ちい……くさせられてたのか!」

 ハルナは事態がわかって顔に熱が増す。
 受付嬢はニッコリ微笑んでいる。

「サーバーマスターのお相手が出来るなんて光栄でございます」

「恥ずかしくはないのか?」

「より私を気持ちよくしていただければ受け取る情報量も増えると思われますので、私でよろしければどうぞ」

 受付嬢はハルナの前の椅子に座り、舌をちょろりと出した口を突き出してきた。
 頬がほんのり色づいている。
 凄い色っぽい。

 カウンターの向こうの一般人達も、受付嬢のキス待ち顔に息を飲んでいる。
 そこに椅子を片手に別の受付嬢が寄ってきて、ハルナの前に座った。

「情報でしたら、別の者からもらった方が効率がよろしいですよ。
 私は生体分布を担当していますので、どうぞ」

 二人目の受付嬢のオレンジ色の肩に掛かる髪が、前屈みになるので顔の横に流れる。
 二人並んで舌を出す様子は……卑猥だ。

「……じゃあ君」

 オレンジの子の肩を叩くと、ニッコリ微笑んでハルナの首に両腕を回してきた。
 さっきの子、情報によるとカイナさんは恥じらいがあったが、この子は貪欲にむさぼってくる。
 こっちから行くのもなと思っていたから助かる。
 お返しにハルナも受付嬢の頭をつかんで固定し、こちらからも絡んでいく。

「んふっはぁんんっマスターごいっ!」

「もっと、情報、出せるんだろ?」

「ふぁいっ! んちゅっ」

 レロレロしてたら向こうの方が顔をトロンとさせ始めた。
 肩の力が抜けそうだったので頭を離さないでいたら、寄り掛かってきて唇が合わさり、情報が流れてくる。
  ・町の中の主要建築物情報。
  ・シンジュの外のモンスター分布。
  ・シンジュ周辺の薬草類の分布。
  ・受付嬢カミウの個人情報。
 なるほど。

「町の中の情報もお渡しできました~うふ」

「これは助かるよ。ありがとうカミウさん」

「マスターハルナ。身分証をお作りしました」

 カミウさんと微笑み合っていたハルナに、カイナさんがお盆に乗せたカードを差し出す。
 そちらを向くと、カミウさんがほっぺを膨らました。

「端末情報を確認しましたが、旧マスターハルナはギルド登録されていないようです。
 ですので、カントウギルドに関しましてはマスターハルナの管理下に置かれますことをご報告いたします」

「それは朗報だ。ありがとうカイナさん」

「いいえ、当然の事をしたまでです」

「これを持っているとどんな効果があるんだい?」

「はい、ギルド内情報と交通手段の料金の無料化。
 AIが商いを行っている店での買い物の無料化。
 ギルドへの貢献報酬と買取報酬が五倍になります」

「……凄いな」

「でも、金銭を得るためには一般アバターと同じように仕事をしていただかなければいけません。
 お助けできず申し訳ありません」

「これだけでも凄いよ。
 後は、ここから一番近い中部圏の町の情報があればバッチリだ」

「はーい! それは私の担当でーす」

 カミウさんが元気に手を上げた。
 そして擦り寄ってくる。

「もう一回情報交換します~?」

「いや、その情報は地図で欲しいな」

「わかりました~! 少しお待ちくださいねっ!」

 元気に立ち上がって机の上をかき回し始める。
 あれで探しているのだろうか?
 心配そうな顔をしていたからか、カイナさんが微笑んだ。

「あれはエフェクトですのでご心配なく」

 机の上を粗方かき回した後、机の中から大きなアルバムのようなものを取り出すカミウさん。
 頑張ってるふりか!

「こちらになります」

 カミウさんに差し出された厚い本は、各ページが四つ折りになっているせいで厚くなっている地図帳だった。

「最初のページが世界地図になります。
 今回のアップデートで各圏内に町が一つずつ追加されていまして、地図も更新されています」

 世界地図は日本地図を一回上下に潰してから上辺の中心点と左辺の中心点を強制的にくっつけたような形をしている。
 だから左上に大きな湾が出来ている。

「カントウ圏はこの地図だと右下に位置します。
 拡大図はこちらに~」

 と言って二ページめくる。
 そこにはいくつもの町とつなぐ街道が描かれていて、大きめの四角が七つある。

「四角いのが主要都市で、メーバとウツノは山岳地、ミットとチバンは海沿いの平地が多いです」

「それで、今いるこの町は?」

「ここです。名前はシンジュです。
 貿易拠点となっていまして、一般アバターさん達も拠点にしたがる町なんですよ」

「この地図には現在公開されている町がすべて乗っているんだな?」

「はいです」

「じゃあ、世界地図とカントウ、チューブ、トーホクの地図もコピーしてもらえるか?」

「了解しました! 少々お待ちください」

 カミウさんは机に戻ると、おもむろに地図帳の背表紙で机の上の物を掃き落として行った。
 見かねてカイナさんの顔を見ると、微笑んでいたが少し口元が引きつっているように見えた。

「一応はエフェクトですので、ご心配なく」

 どうやら、周りがドン引きしようとも、使えるエフェクトはどんどん使っていく性格のようだ。
 キレイになった机の上に世界地図を広げると、両手をかざす。

「ギルド員権限行使。サーバーマスター専用地図複製」

 カミウさんがそうつぶやくと、かざした両手の上に光のエフェクトが現れ、それが集まって一枚の地図になった。
 それを四つ折りにして、別のページでも複製をして、四枚の地図を作り出した。

「地図のコピー完成しました」

「今の、詠唱? あれだと俺専用って事になるのか?」

「はい。一般のアバターですと、レベル1から完全地図を持つことは出来ませんから」

「そういう事か。気を使ってくれたんだな、ありがとう」

「いいえ、お役にたてて嬉しいです」

 ニッコリするカミウさんに地図の説明を受ける。

「シンジュからの距離がチューブ圏で一番近いのはウェーノハラです。
 ここですね。
 カントウ地図の端にも書かれていまして、街道も通っています。
 マスターハルナはここを目指すことになりますね」

「そうなるか。
 後、地図以外に必要なものはわかるか?」

 そう言うと、横から麻で出来た背負い袋を差し出された。
 カイナさんが立っていた。

「地図を入れるのにお使いください。
 町に出たら装備と鞄を購入することをお勧め致します。
 持ち物がかさばると移動や戦闘に支障が出て参りますので」

「そうだな」

「マスターハルナは時間停止機能付きの拡張鞄を速攻買うといいです。
 二重底機能が付与されていて、『開け』と念じないと普通の鞄に偽装されいて、持ち主以外に開くことが出来ないんですよ」

「今の説明だと拡張鞄の説明ですね。
 時間停止機能は温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま保存できます。
 注意が必要なのは、自己修復機能のある物を入れると修復されない事です。
 生き物は強制睡眠状態に移行され収納可能ですが、傷や怪我は修復されません。
 一般には生物収納不可能と情報公開されています。
 この設定でないと植物も収納出来なくなりますので」

「そのデメリットに気を付ければ良い物なんだね」

「はい。一般アバターの初めの目標と言われています」

「そうか。わかったよ」

「装備が整ったらギルドにお戻りください。
 町の外にはレベル1で出ない事を推奨いたします。
 ギルドに戦闘訓練のクエストがありますので、それを受講していただきたいのです。
 見合った戦闘スキルと回復薬が二つもらえますので」

「初心者には手厚いんだな」

「一般アバターさんには楽しんでもらいたいですからね」

 カミウさんが言うと、カイナさんも頷いた。
 ハルナも初心者という事だ。
 話を聞いて、ハルナは受付カウンターから出て、町に繰り出した。

  ※主人公の名前は関東にある榛名神社からいただいております。
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