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16 - デニズリ貴族グルタル子爵
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デニズリ貴族グルタル子爵は、呼びとめられて豊かな腹を揺すりながらふりかえった。
「これはこれは、デヴェリ卿」
呼んだのは、ひょろりと背の高い髭の男だ。
「このところの議会の停滞ぶりはひどいもんですな」
「いや、まったく」
「メユヴェ王女派の連中は議会さえ機能していなければ、病床の王からそのうち宣下があると踏んで、まともに議論に応じないのですから」
「我らがアドゥ王子こそ後継にふさわしいことは疑う余地もないが、実際のところ王が最終的にどのような判断を下されるか微妙ですからな……」
デニズリの王が突然の病に倒れたのはつい先ごろ、しかし二人の子供による後継争いはそれよりずっと以前から続いており、ようやく近々王太子指名の宣下があるだろうと噂されていた。
その矢先に王が床についたため騒動が大きくなり、いまや姉のメユヴェ王女派と弟のアドゥ王子派の貴族ははっきりと目に見えるかたちで対立している。
女の王が二代続いたためしはないというのが王子を擁立するグルタルたちの主張だが、長子が世襲するのが慣例であるために王女が選ばれる可能性も否定できず、不安定な情勢だった。
ところで、とデヴェリ伯爵は声を低めた。
「例のものはどうなっていますかな」
「ええ、準備が整ってきました。手始めにバレーを襲わせる段どりですが、後の処理は伯爵にお任せしましたぞ」
「それはぬかりなく。それよりも、暗黒期でさすがに警戒が厳しいようです。くれぐれも事があかるみにでないよう用心していただきたい」
「それはもう……」
ひそりと交わされる二人の男の影は、まだしばらくその場から動きそうになかった。
「これはこれは、デヴェリ卿」
呼んだのは、ひょろりと背の高い髭の男だ。
「このところの議会の停滞ぶりはひどいもんですな」
「いや、まったく」
「メユヴェ王女派の連中は議会さえ機能していなければ、病床の王からそのうち宣下があると踏んで、まともに議論に応じないのですから」
「我らがアドゥ王子こそ後継にふさわしいことは疑う余地もないが、実際のところ王が最終的にどのような判断を下されるか微妙ですからな……」
デニズリの王が突然の病に倒れたのはつい先ごろ、しかし二人の子供による後継争いはそれよりずっと以前から続いており、ようやく近々王太子指名の宣下があるだろうと噂されていた。
その矢先に王が床についたため騒動が大きくなり、いまや姉のメユヴェ王女派と弟のアドゥ王子派の貴族ははっきりと目に見えるかたちで対立している。
女の王が二代続いたためしはないというのが王子を擁立するグルタルたちの主張だが、長子が世襲するのが慣例であるために王女が選ばれる可能性も否定できず、不安定な情勢だった。
ところで、とデヴェリ伯爵は声を低めた。
「例のものはどうなっていますかな」
「ええ、準備が整ってきました。手始めにバレーを襲わせる段どりですが、後の処理は伯爵にお任せしましたぞ」
「それはぬかりなく。それよりも、暗黒期でさすがに警戒が厳しいようです。くれぐれも事があかるみにでないよう用心していただきたい」
「それはもう……」
ひそりと交わされる二人の男の影は、まだしばらくその場から動きそうになかった。
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