上 下
4 / 9

04 - 主国シヴァスの騎士団

しおりを挟む
 主国シヴァスの騎士団といえば、精鋭との評判はほかの大陸までとどろいている。
 その騎士を司るシャルキスラ家は、近親婚をくりかえしがちな王侯貴族において『当主に愚者なし』といわれるほど代々聡明な人物が多く、当代ラザマン・シャルキスラも例外ではなかった。
 次代を担う子供たちもまた色濃く血を受け継いでおり、末子にいたってはある意味で至尊といってもいい神の御子として生まれたのである。
 アイディーン誕生以降、シャルキスラ公爵家はますます隆盛を極め、シヴァス国内でもっとも勢いのある一族のひとつとして春の時代を謳歌していた。
 ――アイディーン十四の年、いくつもの特例の承認のもと、教院に籍をおいたまま騎士となった。
 通常、騎士の称号はどれほど早くても成人未満には与えられない。
 国王より直々に剣を賜るため召喚された若者たちのなかで、アイディーンの姿がほっそりと小柄にみえたのは仕方のないことだった。
 同年代と比べれば上背も体格も並以上ではあったが、いままさに騎士になろうという心身ともに最盛の青年らは皆平均的な大人と比較しても筋骨たくましく、少年の域を脱したばかりのアイディーンではおよぶべくもない。
 しかし、緊張と興奮に支配されたままひざまずきこうべを垂れ王に拝する彼らのなかにあって、アイディーンは退屈とまではいかなくともなんの感慨もなさそうな平静さで、剣を下賜される順がきて名を呼ばれたときもそれは同じだった。
 「ラザマン・シャルキスラ公爵が子息、アイディーン・シャルキスラ」
 「はっ」
 均一に並んだ者たちの列から外れ玉座の前に片膝をつくと、シヴァス王は隣に立つ臣から大剣をとりアイディーンへ与えた。
 「騎士の称号を与える。伝統と誇りあるシヴァス騎士団の名を大いに高めよ」
 「謹んで拝命いたします」
 アイディーンは剣を捧げ持ち、ひと膝さがると左側へおき、右手で鞘からひきぬいた。
 刃先を自分へ向けたまま柄をさしだすと、王は剣をつかんで側面をアイディーンの肩へおしあてる。
 アイディーンは顔を伏せたまま言った。
 「変わらぬ忠誠と絶対の守護を我が王に捧げます」
 「許す」
 一片の曇りもない剣が音もなく鞘に戻される。
 この瞬間から、アイディーンはシヴァスの騎士となった。
しおりを挟む

処理中です...