61 / 77
61 さくらんぼ色は誠実
しおりを挟む
レコードは順調に進み、爆発的な大ヒットとなり、【赤いルージュ劇場】は、日夜大盛況となっている。
裏口から出れば、大勢の女性たちが裕太郎を待ち構えていて、プレゼントを渡そうと必死である。
「あんな売れるとはなぁ」
マスターは感心する。
「あれじゃあ、一緒に帰れないじゃないか」
伊吹は不満そうに、珈琲を飲んだ。
「朝は一緒なんだろ?」
「そうだけどさ、朝もほとんど会話なんてない」
伊吹は膨れた。
「そうか」
「女性陣が裕太郎を見るようになったから、話ずらくて......」
「健気な伊吹だな」
マスターは微笑んだ。
「いいじゃないか。男装軍人と裕太郎で騒がれたら」
マスターは珈琲を飲む。
「騒がれたくないのはおじさんじゃないのかい?」
「これだけ仲がよければなぁ......」
マスターは苦笑いをする。
(そういえば、あのご令嬢あれ以来ご無沙汰なしだが、どうしてるだろうか)
公園での出来事から、半月は経っている。
母親でも連絡がないなんて.....。
ふと疑問に思う伊吹だ。
「珈琲も飲んだし、わたしは帰ろう」
「そうかい」
マスターの返事に、伊吹は頷く。
もう夜も更けて、11時を過ぎている。
「少し顔色がよくないが、大丈夫か?」
マスターは伊吹の顔色を見て心配する。
「ここ最近、色々忙しいからかな」
「朝も早いし?」
と、マスター。
接吻をした事を思い出し、頬がさくらんぼ色になる。
「なんだ! なんかあったのか?」
おじさんは嬉しそうだ。
「ゆ、裕太郎は誠実な男だ! 色男だと言われてるがな」
おじさんはニヒルな顔をして、
「なんだよ、接吻くらいしたか」
と言ってのける。
「ば、な、何言ってるんだ!! おじさんでもそれは言えるか、気持ち悪い!!」
伊吹は頬を膨らませた。
(恋をすると可愛くなるもんだな)
おじさんは微笑み、一口珈琲を飲む。
伊吹は挨拶をして、部屋から出た。
昨日からだるさを感じるのは確かだ。
(そんな柔な身体じゃない)
と、自負している伊吹だ。
「あれなら家まで送るぞ」
「え? いいの?」
嬉しそうに言う伊吹。
「いつものことだ」
すると、ドアのノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ドアが開くと裕太郎が戻ってきたのだ。
「裕太郎!!」
伊吹は嬉しそうに駆け寄った。
「舞台の時に伊吹を見たら、寂しそうだったからね。戻ってきたんだ」
(目も当てられんな)
と、二人のいちゃつきぶりに思うマスター。
「もう行け行けっ!」
マスターは、ふぅっと溜め息。
「そう言えば、静子様が来られないが、何かあったのか? レコードを出せば、きっと駆けつけると思うのだが......?」
二人はギクリとした。
「何かあったのか?」
マスターは怪訝な顔をするも、
「まぁ、お前らのいちゃつきぶりをみれば、分からなくもないが.........。何かあったら、擁護はしてやる」
「大丈夫です。俺たちで乗り切りますよ」
裕太郎がそう言う。
金のためなら相手を蹴落としても、そっちへなびくマスターだ。
軽くあしらっておくのが一番だろう。
「そうか......。それでも相手は一流企業のご令嬢だからなぁ」
と、言うマスターに、裕太郎は微笑むだけ。
「それに対して、逃げるつもりはない」
と、伊吹はきっぱり言う。
「頼もしいな」
と、マスター。
(そんなわけあるか。ご令嬢の方へ行くんじゃないかと、いつもやきもきしているんだ)
伊吹は口にはしなかったが、そう思った。
「帰るか」
と、伊吹が言うと、
裕太郎がエスコートした。
すると、伊吹の身体が傾いてしまい、伊吹は壁に手をついた。
「大丈夫か?!」
と、心配する二人。
「心配ない」
ふわふわしたが、そう言って苦笑する。
「やはり車で送るぞ......」
「大丈夫。裕太郎がいるし」
「そうだが、距離があるだろう?」
「俺も心配だ。マスターに送ってもらった方がいい。門から邸宅まで距離があるし、そこで倒れたりしたらどうするんだ」
「裕太郎がそう言うなら......」
「裕太郎は一人で帰れるよな」
と、マスター。
「途中まで一緒でいいよね、おじさん」
色艶のある声に、マスターはドキリとした。
「ん? んん......。姪っ子の頼みを聞いてやらないとな」
「ありがとう、おじさん」
伊吹は微笑み、裕太郎と寄り添うように歩いた。
裏口から出れば、大勢の女性たちが裕太郎を待ち構えていて、プレゼントを渡そうと必死である。
「あんな売れるとはなぁ」
マスターは感心する。
「あれじゃあ、一緒に帰れないじゃないか」
伊吹は不満そうに、珈琲を飲んだ。
「朝は一緒なんだろ?」
「そうだけどさ、朝もほとんど会話なんてない」
伊吹は膨れた。
「そうか」
「女性陣が裕太郎を見るようになったから、話ずらくて......」
「健気な伊吹だな」
マスターは微笑んだ。
「いいじゃないか。男装軍人と裕太郎で騒がれたら」
マスターは珈琲を飲む。
「騒がれたくないのはおじさんじゃないのかい?」
「これだけ仲がよければなぁ......」
マスターは苦笑いをする。
(そういえば、あのご令嬢あれ以来ご無沙汰なしだが、どうしてるだろうか)
公園での出来事から、半月は経っている。
母親でも連絡がないなんて.....。
ふと疑問に思う伊吹だ。
「珈琲も飲んだし、わたしは帰ろう」
「そうかい」
マスターの返事に、伊吹は頷く。
もう夜も更けて、11時を過ぎている。
「少し顔色がよくないが、大丈夫か?」
マスターは伊吹の顔色を見て心配する。
「ここ最近、色々忙しいからかな」
「朝も早いし?」
と、マスター。
接吻をした事を思い出し、頬がさくらんぼ色になる。
「なんだ! なんかあったのか?」
おじさんは嬉しそうだ。
「ゆ、裕太郎は誠実な男だ! 色男だと言われてるがな」
おじさんはニヒルな顔をして、
「なんだよ、接吻くらいしたか」
と言ってのける。
「ば、な、何言ってるんだ!! おじさんでもそれは言えるか、気持ち悪い!!」
伊吹は頬を膨らませた。
(恋をすると可愛くなるもんだな)
おじさんは微笑み、一口珈琲を飲む。
伊吹は挨拶をして、部屋から出た。
昨日からだるさを感じるのは確かだ。
(そんな柔な身体じゃない)
と、自負している伊吹だ。
「あれなら家まで送るぞ」
「え? いいの?」
嬉しそうに言う伊吹。
「いつものことだ」
すると、ドアのノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ドアが開くと裕太郎が戻ってきたのだ。
「裕太郎!!」
伊吹は嬉しそうに駆け寄った。
「舞台の時に伊吹を見たら、寂しそうだったからね。戻ってきたんだ」
(目も当てられんな)
と、二人のいちゃつきぶりに思うマスター。
「もう行け行けっ!」
マスターは、ふぅっと溜め息。
「そう言えば、静子様が来られないが、何かあったのか? レコードを出せば、きっと駆けつけると思うのだが......?」
二人はギクリとした。
「何かあったのか?」
マスターは怪訝な顔をするも、
「まぁ、お前らのいちゃつきぶりをみれば、分からなくもないが.........。何かあったら、擁護はしてやる」
「大丈夫です。俺たちで乗り切りますよ」
裕太郎がそう言う。
金のためなら相手を蹴落としても、そっちへなびくマスターだ。
軽くあしらっておくのが一番だろう。
「そうか......。それでも相手は一流企業のご令嬢だからなぁ」
と、言うマスターに、裕太郎は微笑むだけ。
「それに対して、逃げるつもりはない」
と、伊吹はきっぱり言う。
「頼もしいな」
と、マスター。
(そんなわけあるか。ご令嬢の方へ行くんじゃないかと、いつもやきもきしているんだ)
伊吹は口にはしなかったが、そう思った。
「帰るか」
と、伊吹が言うと、
裕太郎がエスコートした。
すると、伊吹の身体が傾いてしまい、伊吹は壁に手をついた。
「大丈夫か?!」
と、心配する二人。
「心配ない」
ふわふわしたが、そう言って苦笑する。
「やはり車で送るぞ......」
「大丈夫。裕太郎がいるし」
「そうだが、距離があるだろう?」
「俺も心配だ。マスターに送ってもらった方がいい。門から邸宅まで距離があるし、そこで倒れたりしたらどうするんだ」
「裕太郎がそう言うなら......」
「裕太郎は一人で帰れるよな」
と、マスター。
「途中まで一緒でいいよね、おじさん」
色艶のある声に、マスターはドキリとした。
「ん? んん......。姪っ子の頼みを聞いてやらないとな」
「ありがとう、おじさん」
伊吹は微笑み、裕太郎と寄り添うように歩いた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
朝敵、まかり通る
伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖!
時は幕末。
薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。
江戸が焦土と化すまであと十日。
江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。
守るは、清水次郎長の子分たち。
迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。
ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
夜珠あやかし手帖 ろくろくび
井田いづ
歴史・時代
あなたのことを、首を長くしてお待ちしておりましたのに──。
+++
今も昔も世間には妖怪譚がありふれているように、この辻にもまた不思議な噂が立っていた。曰く、そこには辻斬りの妖がいるのだと──。
団子屋の娘たまはうっかり辻斬り現場を見てしまった晩から、おかしな事件に巻き込まれていく。
町娘たまと妖斬り夜四郎の妖退治譚、ここに開幕!
(二作目→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/284186508/398634218)
大奥~牡丹の綻び~
翔子
歴史・時代
*この話は、もしも江戸幕府が永久に続き、幕末の流血の争いが起こらず、平和な時代が続いたら……と想定して書かれたフィクションとなっております。
大正時代・昭和時代を省き、元号が「平成」になる前に候補とされてた元号を使用しています。
映像化された数ある大奥関連作品を敬愛し、踏襲して書いております。
リアルな大奥を再現するため、性的描写を用いております。苦手な方はご注意ください。
時は17代将軍の治世。
公家・鷹司家の姫宮、藤子は大奥に入り御台所となった。
京の都から、慣れない江戸での生活は驚き続きだったが、夫となった徳川家正とは仲睦まじく、百鬼繚乱な大奥において幸せな生活を送る。
ところが、時が経つにつれ、藤子に様々な困難が襲い掛かる。
祖母の死
鷹司家の断絶
実父の突然の死
嫁姑争い
姉妹間の軋轢
壮絶で波乱な人生が藤子に待ち構えていたのであった。
2023.01.13
修正加筆のため一括非公開
2023.04.20
修正加筆 完成
2023.04.23
推敲完成 再公開
2023.08.09
「小説家になろう」にも投稿開始。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
ブラッドの聖乱 lll
𝕐𝔸𝕄𝔸𝕂𝔸ℤ𝔼
歴史・時代
ーーーー好評により第三弾を作成!ありがとうございます!ーーーー
I…https://www.alphapolis.co.jp/novel/621559184/960923343
II…https://www.alphapolis.co.jp/novel/621559184/959923538
いよいよ完結!ブラッドの聖乱III
今回は山風蓮の娘そして紛争の話になります。
この話をもってブラッドの聖乱シリーズを完結とします。最後までありがとうございました!
それではどうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる