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61 さくらんぼ色は誠実

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 レコードは順調に進み、爆発的な大ヒットとなり、【赤いルージュ劇場】は、日夜大盛況となっている。 
 裏口から出れば、大勢の女性たちが裕太郎を待ち構えていて、プレゼントを渡そうと必死である。

「あんな売れるとはなぁ」
 マスターは感心する。
「あれじゃあ、一緒に帰れないじゃないか」
 伊吹は不満そうに、珈琲を飲んだ。
「朝は一緒なんだろ?」
「そうだけどさ、朝もほとんど会話なんてない」
 伊吹は膨れた。
「そうか」
「女性陣が裕太郎を見るようになったから、話ずらくて......」
「健気な伊吹だな」
 マスターは微笑んだ。
「いいじゃないか。男装軍人と裕太郎で騒がれたら」
 マスターは珈琲を飲む。
「騒がれたくないのはおじさんじゃないのかい?」
「これだけ仲がよければなぁ......」
 マスターは苦笑いをする。

(そういえば、あのご令嬢あれ以来ご無沙汰なしだが、どうしてるだろうか)
 公園での出来事から、半月は経っている。
 母親でも連絡がないなんて.....。
 ふと疑問に思う伊吹だ。

「珈琲も飲んだし、わたしは帰ろう」
「そうかい」
 マスターの返事に、伊吹は頷く。
 もう夜も更けて、11時を過ぎている。

「少し顔色がよくないが、大丈夫か?」
 マスターは伊吹の顔色を見て心配する。
「ここ最近、色々忙しいからかな」
「朝も早いし?」
 と、マスター。

 接吻をした事を思い出し、頬がさくらんぼ色になる。
「なんだ! なんかあったのか?」
 おじさんは嬉しそうだ。
「ゆ、裕太郎は誠実な男だ! 色男だと言われてるがな」

 おじさんはニヒルな顔をして、
「なんだよ、接吻くらいしたか」
 と言ってのける。
「ば、な、何言ってるんだ!! おじさんでもそれは言えるか、気持ち悪い!!」
 伊吹は頬を膨らませた。

(恋をすると可愛くなるもんだな)
 おじさんは微笑み、一口珈琲を飲む。 
 伊吹は挨拶をして、部屋から出た。

 昨日からだるさを感じるのは確かだ。
(そんな柔な身体じゃない)
 と、自負している伊吹だ。
「あれなら家まで送るぞ」
「え? いいの?」
 嬉しそうに言う伊吹。
「いつものことだ」
 すると、ドアのノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
 ドアが開くと裕太郎が戻ってきたのだ。
「裕太郎!!」
 伊吹は嬉しそうに駆け寄った。
「舞台の時に伊吹を見たら、寂しそうだったからね。戻ってきたんだ」

(目も当てられんな)
 と、二人のいちゃつきぶりに思うマスター。
「もう行け行けっ!」
 マスターは、ふぅっと溜め息。
「そう言えば、静子様が来られないが、何かあったのか? レコードを出せば、きっと駆けつけると思うのだが......?」
 二人はギクリとした。

「何かあったのか?」
 マスターは怪訝な顔をするも、
「まぁ、お前らのいちゃつきぶりをみれば、分からなくもないが.........。何かあったら、擁護はしてやる」
「大丈夫です。俺たちで乗り切りますよ」
 裕太郎がそう言う。
 金のためなら相手を蹴落としても、そっちへなびくマスターだ。
 軽くあしらっておくのが一番だろう。
「そうか......。それでも相手は一流企業のご令嬢だからなぁ」
 と、言うマスターに、裕太郎は微笑むだけ。
「それに対して、逃げるつもりはない」
 と、伊吹はきっぱり言う。
「頼もしいな」
 と、マスター。

(そんなわけあるか。ご令嬢の方へ行くんじゃないかと、いつもやきもきしているんだ)
 伊吹は口にはしなかったが、そう思った。

「帰るか」
 と、伊吹が言うと、
 裕太郎がエスコートした。 
 すると、伊吹の身体が傾いてしまい、伊吹は壁に手をついた。
「大丈夫か?!」
 と、心配する二人。
「心配ない」 
 ふわふわしたが、そう言って苦笑する。
「やはり車で送るぞ......」
「大丈夫。裕太郎がいるし」
「そうだが、距離があるだろう?」 
「俺も心配だ。マスターに送ってもらった方がいい。門から邸宅まで距離があるし、そこで倒れたりしたらどうするんだ」 
「裕太郎がそう言うなら......」
「裕太郎は一人で帰れるよな」
 と、マスター。
「途中まで一緒でいいよね、おじさん」
 色艶のある声に、マスターはドキリとした。

「ん? んん......。姪っ子の頼みを聞いてやらないとな」
「ありがとう、おじさん」
 伊吹は微笑み、裕太郎と寄り添うように歩いた。
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