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28 そのお話は突然に。
しおりを挟むどうして泣いてしまったのだろう。
会う時、どんな顔をして会えばいいのか......。
「はぁ......」
朝から深い溜め息に、珍しく邸宅で朝食をしている謙三は、
「なんだ、どうした?」
と、訊ねる。
「ここ三日ばかり、こうなのです」
と、芳江。
「大好きなだし巻き玉子焼きも召し上がっておりません」
謙三は新聞をたたみ、伊吹の膳を見てみた。
「確かにな、身が持たないぞ」
「ご心配には及びません。わたしよりも、お姉さまはどうしました?」
「.........家出中だ」
「え?」
「だからわたしもここで朝食を取っている。少しは父親らしい事をしろと、お母様に言われたよ」
母の依子は黙々と朝食を取っている。
(ケンカでもなさったか.........。お父様が様子を伺っている)
「大丈夫なのですか? お姉様は?」
(あんな政治活動みたいな事をして......)
「まぁ心配するな。遠野家のところにいるから」
「遠野家......。ああっ! ゴッドハンドの軍医ですか?」
「息子ではないのか......」
「え? 確か、大尉の......? あまり感じはよくありませんね」
少し間が開く。
「そ、そうか」
「だから、なんです? 以前も意味ありな話しをして......」
「忘れたのならそれでいいではありませんか、あなた」
依子はピシャリと言う。
「矛盾なさっています」
(お母様の空気が怖い)
「うーん、だがな......。いい話ではないか」
「あなた! 伊吹は立派な軍人ですよ! 今さら何ですか?!」
(えっ? 喧嘩......)
「戦地では戦死者や負傷者も出ているんだ!」
(話が見えてこない)
「お父様、お母様、落ち着いて下さい!」
士官学校の時のように、声を上げる。
「まず、一個づつ説明して下さい。わたしと、その遠野大尉とはどんな関係なのです」
「話すぞ」
と、依子に聞く。
依子は謙三をしっかりと見る。
「あいつとは仲がよかったものでな、家族ぐるみで付き合っていた」
「はぁ」
「お前は6才で、彼は10才だった。よく懐いていたんだ」
「そうでしたか......」
「その頃伊吹は色々あったからな」
「......わたしの初恋...?」
「さあな。二人で手を繋いでやってきてな、結婚するんだ、と、嬉しそうに言ってきた。純は、あの頃、十歳だったから......。本気だったかも知れん」
「そんな記憶......」
伊吹は傾げる。
「まだ六才だったから」
「だからあんな態度......」
そうすると納得する。
「お、お姉様はどうして......?」
「その経緯が、わたしにも分からん」
謙三は溜め息をつく。
伊吹は青ざめた。
「純からは心配なさらず、の声だ」
(巻き込まれたわけではあるまいな......)
伊吹はパクリとだし巻き玉子焼きを食べた。
「おっ、食べる元気が出たか?」
「食べないと体力が持たないですよ」
想いをはせて気力を無くしている場合ではない。そうしておかわりをした。
「そして、......お見合いの申し出が彼からあってな」
「......は?」
聞き慣れない言葉だ。
伊吹は依子を見た。
依子は優しい眼差しで見る。
「お、お見合い?」
「二週間後の日曜日なんだ。断るもないよな?」
断るもないよな、なんて圧力だ。
わなわなと身体が震えだす。
その日は裕太郎と遊園地に行く日だ。
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