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27 裕太郎は魔性の男です①

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「それじゃあ、土曜日は何時の待ち合わせなんだ?」
 と、裕太郎。 
 裕太郎は二杯目の珈琲を頼んでいた。
 甘くて食べれなかった裕太郎は、パルフェを伊吹にあげていた。二皿ともペロリと食べている。「遊園地が10時に開くから、その時間らしい」
「そうか。少し遠回りして7時なんてどうだ?」
「えっ?」
「赤いルージュ劇場で待ち合わせだ」
「どうして?」
「マスターが車を貸してくれるみたいでね。ドライブなんてどうだ?」

 ドライブ? 

 裕太郎と......? 
 視界がぼうっとした。

「いいのか?」
「代役を立ててくれるそうだ」
 ウィンクをした。
「おじさんもやる時はやるな」
「ハハッ、そうだな」
 裕太郎はくしゃりと笑う。
(あんな笑顔も出すのか......)
「免許持ってるんだな」
「マスターが取らせてくれた。売れなかった時のためにね」
「へぇ」
「必死だった。運転手なんてごめんだったから」
「努力したんだな」 
「舞台に立ったら、そこそこに売れたよ」
「歌もダンスもすごいからな」
「そうか?」
「すごい魅せられる」
「嬉しい事を言ってくれるね」  
「いや......」
 裕太郎は壁掛け時計を見る。
「もう行かないと」
「わたしもだ。夕方から士官学校の指揮官をしてくれと、頼まれた」
「そうなのか?」
「たまに見習いで、行くんだけどな」
「だからあの軍人......」
 裕太郎は苦笑する。
「ああ。結構苦労する。晒しやがって」
 そう言うと、裕太郎はクスクス笑った。
「すごい怒りのオーラだったから、よく覚えている。あと、クリームを付けながら、男らしく振る舞っていたのがなんとも」
「嗤うな......」
「いや、すまない。ほら......」
 裕太郎の指が口端に伸びて触れる。

「.........」

 指に付いたクリームを舐めると、
「甘いな」
 と言って、顔を歪める。
「甘いのを苦手なのに舐めるな」
 二人は異様な空気に、周囲を見る。

 えっ? 同性なのに? や、二人とも素敵だのに残念だわ、裕太郎様ってそうでしたの? などなど、と言う声が入ってきた。
 
 伊吹は目を丸くする。
 そうして、二人は笑いを抑えた。

 お会計では、
「ここはわたしが出すから」
 と伊吹が言う。
「男前だな」
「ここは貫かないとな。同性として」
 女給も伊吹に憧れの眼差しを向けながら、対応する。
「あ、しまった」
「どうした?」
「小遣いがすっかりなくなってしまった」
「エリートのくせにか?」
 意地悪な口調になる。
「お前が食べれもしないパルフェを頼んだからだろう」
「すまんな」
 裕太郎は耳元で囁く。耳がぞわぞわした。
「意地悪をするなっ」
「怒るなよ」
 裕太郎はくすくす笑う。

 またも周囲の女性の的に。あんな風に囁かれてみたいわ、なんて声や、軍人さんが赤くなってる。初デイトかしら、などなど。 
「男色家ではないぞっ!」
 伊吹は周囲の女性に訴える。
 女性たちは頬を赤らめた。
 裕太郎はウィンクを女性たちにプレゼント。
 素敵。と言う溜め息に、伊吹は、
「そのウィンクをやめろっ、目障りだっ」
 と、腹いせに言って、店を出た。

「なんだ、あの上だ、下だというのは。失礼過ぎるぞ」
「そうゆうもんだ。妄想で潤う。嫌だったならすまない」
 間が開く。
「......嫌じゃない...」
「そうか。俺も、楽しかった」
「忠告するが、耳元で囁くのはよせよ」
「女らしい伊吹も見たいから、つい」
 伊吹はむぅとして、
「ひっぱたくぞ」
 と、拗ねた。
 すたすた歩いてしまうと、裕太郎が呼び止める。
「伊吹」
 伊吹は立ち止まって振り向く。
「赤いルージュはあっちだから」
 と、指を指した。
「あぁ、そっか......」
「楽しみにしてる」
 裕太郎は微笑んだ。
「じゃあな」
 伊吹は手を振って別れた。
 そして振り向いてみると、まだ裕太郎がいた。
 頬が赤くなった。
   
 明日も、明後日もない。
 会うのは再来週の日曜日だけ。
 その後はわからない。
 公園に行ったって、きっといない。
 あのお嬢様の側だ。
 涙が零れた。
 伊吹は驚いて、涙を拭う。
 裕太郎の驚く顔。裕太郎は一歩前へ出たが、伊吹は振り返って走った。
「伊吹!」
 裕太郎の呼ぶ声が、
 ......切ない。

 追いかけてこないのだから。

 お嬢様がいなかったら、
 追いかけてくれただろうか。
 
  
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