上 下
73 / 97

第73話関わりたく無い目

しおりを挟む
 因みに先輩おばさんの仕込みから揚げまで手がけた唐揚げが一番柔らかくて美味しいと思うのだが、作り方のどこがどう違うのか未だに分からないでいる。

 先輩おばさん曰く愛情が隠し味とわりと本気で言っていた。

 そしてみんなで天丼を、小太りマダムは私達が天丼を作っている間に唐揚げも作って休憩室へと向かう。

 時刻は昼のピークを少し過ぎた十三時半前後である。

 ここからは夜のピークが来るまで回転率が悪くなる為どうしても皆同じタイミングで入る人が多い。

 その関係で休憩室には長テーブルが三つ置かれており先客が、鮮魚コーナー担当や精肉コーナー担当達がそれぞれのグループで纏まっていたり、古株同士で纏まってパイプ椅子に座り各々テレビ見たり談笑したりしている。

 そして私達はいつもの場所へ行くとパイプ椅子へと座り賄いをテーブルに置いて一息つく。

 因みに決まってはいないのだが入り口から近い順に精肉コーナー、鮮魚コーナー、惣菜コーナーの人達が決まって座っており、テレビに近い席は古株が陣取っている。

 しかしながら別段どの席もメリットデメリットはあるので皆不平不満は無いらしい。

 一番前は直ぐに座れ直ぐに退室出来る代わりに扉開けた時の外気温をモロに喰らうので夏は暑く冬は寒い。

 真ん中は二つのテーブルに挟まれて少し窮屈なのだが自販機とテレビが近い。

 一番奥はそこまでたどり着くのに少し面倒なのだが夏は涼しく冬は暖かい。

 といった感じだそうだ。

 因みにレジや品出し係などの人達の休憩スペースはまた別の場所に作られていたりする。

 そもそも私の休憩室の床まで油汚が染み込んでテカッているのを見るとなんと無く分けられている理由を察してしまう。

「ささ、食べましょ食べましょ。頂きます」
「お腹空きましたねー。頂きまーす」
「唐揚げが覚める前に早く食べてあげませんといけませんわね、頂きますわ」
「ハイッ、皆さん注目っ!」

 そんな事を考えながらさぁ空きっ腹に天丼を入れていくぞと口を開けた瞬間、店長がそんな事を言いながら入って来るので休憩室の空気はピタッと止まり静寂が訪れる。

「今日は都心から転勤して来た社員さんがいるので先に紹介だけしておきます」
「皆様初めまして。本日初めてこの県へ配属されました───」

 そして、店長の横にはスーツを着た男性が一人立っており、店長の合図でハキハキと元気良く爽やかな感じで自己紹介をしていく。

 初めは好青年だなと好印象であったのだが彼はいつの間にか視線を私に向けて喋り始めていたのに勘付き、私の知っている、そして今一番嫌悪感を抱いている関わりたく無い目をしており、その左手薬指は銀色に光っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

鎌倉古民家カフェ「かおりぎ」

水川サキ
ライト文芸
旧題」:かおりぎの庭~鎌倉薬膳カフェの出会い~ 【私にとって大切なものが、ここには満ちあふれている】 彼氏と別れて、会社が倒産。 不運に見舞われていた夏芽(なつめ)に、父親が見合いを勧めてきた。 夏芽は見合いをする前に彼が暮らしているというカフェにこっそり行ってどんな人か見てみることにしたのだが。 静かで、穏やかだけど、たしかに強い生彩を感じた。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る

通りすがりの冒険者
ライト文芸
高校2年の安藤次郎は不良たちにからまれ、逃げ出した先の教会でフランチェスカに出会う。 スペインからやってきた美少女はなんと、あのフランシスコ・ザビエルを先祖に持つ見習いシスター!? ゲーマー&ロック好きのものぐさなフランチェスカが巻き起こす笑って泣けて、時にはラブコメあり、時には海外を舞台に大暴れ! 破天荒で型破りだけど人情味あふれる見習いシスターのドタバタコメディー!

La vie en rose 〜人生の夜明けはパリの街で〜

ライト文芸
上司からのパワハラや嫌がらせ、恋人の浮気と、人生上手く行かず疲れ切った岸本美玲は死ぬことを決意する。しかし、せっかくだから死ぬ前にずっと行ってみたかったフランスへ行くことにした。そこで高校時代のクラスメイトである、中川誠一と再会する。 誠一との再会、同じツアーで出会った新しい友人、壮大な歴史的建造物など、日本であったことなど忘れて思いっきり旅行を楽しむ美玲。 これは美玲がゆっくりと生きる希望を見つける物語。 La vie en rose:読み方は「ラヴィアンローズ」です。フランス語で薔薇色の人生という意味です。 楠結衣様(X:@Kusunoki0621)から素敵な表紙をいただきました! ありがとうございます!

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

処理中です...