バツイチ子持ちとカレーライス

第19話犯した罪の深さ

　そしてマナは高城にキリンの人形を買ってもらっている姿が遠くから見えた。

　あんなに泣かされた事など真奈美の中にはもう記憶から無くなってしまったのだろう。

　そうやってあの人の事も忘れてしまうのだろうか？

　養育費は慰謝料と相殺の為払っていないという事にはなっていので元夫には真奈美と会う権利は確かにある。

　あるし、親権を争ったのだから会わないという選択肢は取らないはずだと思うものの、もしかしたら真奈美に会いたいという思いよりも私に会いたくないという気持ちの方が大きいかもしれない。

　だから元夫は真奈美と縁を切りたくないがために親権を争ったのかもしれない。

　何て最低な事を、この期に及んで元夫を貶める様な事を考えてしまう。

「さ、帰るか」
「かえるよおかあさん」

　そう思っていた時高城に声をかけられる。

　声をかけられるまで近づいていた事に気付けない程私は考え込んでしまっていたらしい。

　こんな事ではダメだ。

　今は真奈美の為にもネガティブな事を考えない様にしなければ、と思うものの心にさしている影の色は薄くなるものの消えてはくれなかった。

　そして私達は食器やら何やらとコレから共に生活をするに当たって必要な物を大型スーパーで買ってから帰る。

　帰宅後、大型スーパーまでは元気いっぱいでお菓子などを強請っていた真奈美は流石に動物園に大型スーパーにと来てはその無尽蔵だと思われていた体力も無くなってしまったのか家に帰り着く前に眠ってしまっていた。

　眠って終えば大人しいものである。

「ほら、真奈美着いたよっ！　起きてっ！　ご飯食べてお風呂入ってから寝ないとっ」
「…………ここおうちじゃないよ？　…………ぱぱは？　もうすぐ帰る？　ぱぱにおかしあげるの」

　そして娘は瞼を眠たそうに擦りながら起きるとずっと握っていたのかパッケージの中でドロドロに溶けた某アンパンのキャラクターだった物のチョコレートをさして元夫にあげるからいつ帰るのかと聞いてくる。

　自分が一番食べたいであろうに、むしろ自分が一番食べたい物だからこそプレゼントすれば元夫は帰ってくると思っているのかも知れない。

　それと共に高城の言葉が胸に刺さる。

　どうして今ここに元夫が居ないのかは分からないと思うのだが、もしかすればもう元夫は帰ってこないというのを彼女なりに感づいてしまっているのかも知れない。

もしかしたら不倫してから離婚するまでの期間でどちらかとはもう会えなくなるのかも知れないと、仮面夫婦である事に感づいて既に意識していたのかもしれない。

そして真奈美はこの日以降『ぱぱ』の事は聞かなくなった。

私が真奈美の中で『ぱぱ』を言ってはいけない言葉にしてしまったのだという事実に改めて自分の犯した罪の深さを思い知らされたのであった。