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第42話 絵になる二人
しおりを挟むその為わたくしは本日のパーティーへ参加している貴族たちの驚いている表情を『りむじん』の中から安心して覗き見る事ができるという訳である。
「みんなこの車にくぎ付けのようだな。どうだ? 少しは溜飲が下がったか?」
そんなわたくしへソウイチロウ様が声をかけてくれる。
「えぇ、すこしではありますが……」
貴族たちの驚いた表情を見て確かに少しは溜飲が下がったのだけれども、あの日受けた屈辱がそれだけで全て水に流せるかと言われると首を縦に振る事は、できる筈がない。
「無実の罪を擦り付けられて、婚約破棄からの悪い噂しかない男爵へと拒否権も無く嫁がされて事実上の王都からの追放……とてもではないが、こんな程度では水に流すなどできるはずがないよな」
ソウイチロウ様はそう言うと、わたくしの背中を優しく撫でてくれる。
ちなみに頭ではなく背中を撫でてくれたのは、この日の為にセットした髪の毛が崩れてしまうからであろう。
「大丈夫。当然これだけで済ますはずがない。さぁ、行こうか。それとも、もし怖いのであれば引き返しても良いが──」
「ここまで来て引き返すなどあり得ませんし、そんな弱い女ではございませんわっ!」
「──うん、そうだな」
ソウイチロウ様はわたくしへ『馬車からでる勇気はあるか?』と問うてくるので、それを遮るようにわたくしは『問題ない』と力強く返事をする。
そしてわたくしの返事を聞いたソウイチロウ様が先に馬車を降りると、わたくしへ手を差し伸べてくるので、わたくしは差し出されたソウイチロウ様の手を取り馬車から降りる。
「なんだ? あの服装は……っ」
「男性の服装も女性の服装も見た事ないわね」
「それにしても、男性も女性もまるで一枚の絵画かと思える程絵になる二人だな」
「これほどの美男美女は王国貴族にいただろうか?」
「ねぇ、あなた。あの娘が来ている服、わたしも欲しいのだけれども、今度買ってきてくれるかしら?」
その瞬間周囲からはそんな会話が聞こえてくる。
初めこそもしかしたら直ぐにわたくしだとバレてしまうのでは? と思っていたのだけれども、どうやら誰一人としてわたくしだと分かった者はいないようである。
確かに、着ている服は桜の柄が施された着物に髪型も以前のウェーブのかかった髪の毛を流すようなものではなく、編み込んでアップにしており、しかもシノミヤ家にある髪専用の石鹸『しゃんぷー』と香油『りんす』のお陰でわたくしの髪の毛はシルクのような輝きを放っており、それだけでもかなり印象が違うだろう。
しかしながらそれだけではわたくしだと簡単にバレてしまうのだろう。
わたくしは今使用人たちによって『にっぽん』の化粧品を使い、わたくしが鏡で確認しても鏡に映っている人物が自分であると認識できないほどの別人、しかも超絶美人へと変貌を遂げているのだから、わたくし自身が認識できなかったのを誰が分かろうか。
それでも、ベースはわたくしのかおである以上面影などはある訳で、それに使用人たち曰く『元々かなり美人な素材を生かす化粧を施します』とも言っていた化粧が施されているためまじまじと時間をかけて眺められると、やはりすこしずつ気付く人は気づき始めたようである。
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