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第32話 わたくしの意志でこうしているのですわ
しおりを挟むその建物は、わたくしが想像している以上に大きく、それがどれほど大きいのかと言うと商店街が一つすっぽりと入ってしまっている程の大きさであるにも関わらず五階建ての建物だと説明すれば分かりやすいだろうか?
これほど大きな建物は帝国広しと言えども見た事が無い程である。
しかしながらわたくしはその大きな建物を前にして、その大きさに驚く余裕は無かった。
何故ならば、今回ソウイチロウ様の故郷である『にんほん』へ行くとなった時、ミヤーコから『ソウイチロウ様へわたくしを異性として認識させる極意』なるものを教えて貰い、それをここでその極意を行動に移すからである。
初めそれを聞いた時は『女性からそんな事、恥ずかすぎる』とは思ったのだけれども『形式上は夫婦なのだから何を恥ずかしがっているのですかっ』と返されてはぐうの音も出なかった。
そして『にほん』では十五歳からの結婚は認められておらず、しかもここ最近では三十代で初婚というのも珍しくなく、その為ソウイチロウ様から見れば、まだわたくしは異性ではなく子供として見られている可能性が高いという事である。
それはなんだか、嫌だな……。と思ってしまう。
そんな事を思いながら一行はショッピングモールの中へと入って行くのだけれども、私は未だにミヤーコから教えて貰った極意を実践できずにいた。
頭ではソウイチロウ様が私を異性として認識していない以上わたくしから動かなければならないという事は理解しているのだけれども、だからといって行動に移せるかどうかはまた別の話である。
しかしながら、今のわたくしとソウイチロウ様は単なる男女ではなく夫婦なのである。
ミヤーコの言う通りここで躊躇して何だというのだ。例えミヤーコから教わった極意が通用しなかったとしも夫婦である事が解消されるわけではないのだ。
そう、ソウイチロウ様の妻はわたくしなのだ。何を怖がる必要がある。
そう思いわたくしは勇気を振り絞り行動へと移す。
「おぉ……っ」
「だ、ダメでしょうか……?」
「いや、シャーリーが良いのならば別にいいんだけど、もし『妻として』だとか『貴族へ嫁いだ者として』という考えならば無理にそうする必要はないぞ?」
「そ、そういうのではなくて……わ、わたくしはソウイチロウ様とこうしたいから、わたくしの意志でこうしているのですわ」
そしてわたくしはソウイチロウ様の腕にわたくしの腕を絡めると、ソウイチロウ様が『自分の意志でないならばしなくて良い』と言ってくれ、わたくしはそれに対して『自分の意志』だと返す。
恐らく今のわたくしの顔は火が出るのではないかと思える程に真っ赤になっているだろう。
その顔を見られたくない為わたくしは下を向いて顔を隠す。
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