上 下
5 / 90

第5話 現実逃避

しおりを挟む
 今までの年月がまるで走馬灯の様に脳裏に映し出されている。

 ようやっとだ。

 ようやっと皇女様が表舞台へと戻ってくる。

 そして私は娘の手を握りながら、気がつけば涙を流していた。




「は?……い、今何と……言った?イプシロン」

 今現在私はイプシロンの一言により一気に全身から脂汗が出始め、喉が渇き始める。

 いやそんなバカな。

「これから四時間後にて天空城の住民達へ主様のお目覚めを知らしめる為にも庶民達への謁見用のバルコニーにて演説を行なって貰います」

 単なる聞き間違いだと一縷の望みを胸に今一度聞いてみるのだが、そんな私の気持ちなど知る由もないイプシロンは思わず惚れてしまいそうな程美しい笑顔で再度私へと、先程と同じ事を言うではないか。

「いきなり演説とか言われても何を言って良いかも分からなければ話す内容も何も無いんだけど?」

 そもそも私は先程死んだと思ったらこの、ゲームに酷似した世界で生きている訳で、まだその事を飲み込み切れていないのだ。

 そこへいきなり演説だ何だと言われてもどだい無理無理のカタツムリである。

 まぁ、例えシラフの状態だったとしても急過ぎて無理なのには変わりないのだが、逆に言えばただでさえ無理な事なのに状況もこの状況では出来るわけが無い。

「えっと、それって私じゃ無いとダメなの……かな? こんなおばさんなんかよりも他に適任な人物がいると思うんだけれども?」
「そんな事はありませんっ! 我が主様であり、この帝国の皇女殿下様であるタカヤナギ・ミサト様以外あり得ませんっ!! それに、主様のお言葉ならば例え何を言っても皆その声を聞けるだけで、その在りし日と変わらぬそのお姿を見せるだけで、我々には十分でございますっ!! むしろ十分過ぎると言っても過言では無いでしょうっ!!」

 どうやらあり得ないらしいし。

 しかしながら、いくらなんでも私は過言だと思うなー。

 私は、単なる独身独り身OLであり社畜という社会歯車の一つでしか無いのだから。

 そして私は「そういえばハンネ考えるの面倒だしプレイ当初は軽い気持ちで始めた為本名で登録したんだったんだなー。思い出したわー。あの時はまさかここまでハマるとは思わなかったからなぁー。ここまでハマると知っていたらしっかりとハンネも考えたのになー」と現実逃避をし始めるのであった。





「ささ、ミサト皇女陛下様、お風呂入りますよー」
「マッサージも致しましょう」
「ドレスはこれが似合うかしら?」
「いえいえ私は、ミサト皇女陛下にはコレが似合うと思います」
「何着ても似合うから迷います」
「お化粧は、元々の美しいお顔を隠したく無いので薄めで行きましょう」
「アクセサリーはどれにしましょうか?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

ズボラな私の異世界譚〜あれ?何も始まらない?〜

野鳥
ファンタジー
小町瀬良、享年35歳の枯れ女。日々の生活は会社と自宅の往復で、帰宅途中の不運な事故で死んでしまった。 気が付くと目の前には女神様がいて、私に世界を救えだなんて言い出した。 自慢じゃないけど、私、めちゃくちゃズボラなんで無理です。 そんな主人公が異世界に転生させられ、自由奔放に生きていくお話です。 ※話のストックもない気ままに投稿していきますのでご了承ください。見切り発車もいいとこなので設定は穴だらけです。ご了承ください。 ※シスコンとブラコンタグ増やしました。 短編は何処までが短編か分からないので、長くなりそうなら長編に変更いたします。 ※シスコンタグ変更しました(笑)

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...