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番外編など

子供でいるって難しい。少しだけ大人になれたかな。 <ライナス視点⑥>

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そうして伯父上に教えてもらいながら書いた資料請求のお願いの手紙で取り寄せた文書を見て驚いた。

「ルイ兄とリオ姉がお腹にいるときに母上は追い出されたの!? なんて酷い……!」

いきなり家を出て行けって言うなんて信じられない。
だって今だって母上は一人で外出もしないし、出かけるときは馬車を使う。
いきなりそんなこと言われて、どうしたらいいのってすごい困ったはずだ。

「そのときたまたま助けてくれたのがイクスなんだよ」

「父上が!?」

門の前で母上が困っているところに大丈夫ですかって声をかけてくれたのが父上なんだって。
母上と父上のまさかの出会いに驚く。
それで母上は無事に伯父上のところに帰って来れたんだって。良かった。

「そうだよ、それが縁でイクスはリオンとルイスに時々会いに来ていてね。
いつしかレインと想いを通わせ恋人になったんだ」

「そうだったんだ」

なんだか不思議な感じ。
お腹に赤ちゃんがいる女の人を追い出すなんてあっちゃいけないことだけど、それがなかったら僕は生まれてなかったかもしれないんだ。

「でも兄上たちのお父様は酷いね。
生まれてからも一回も会おうとしなかったなんて」

こういうの知ってる。
認知しないで逃げたクズ男って言うんだ。
調理場の誰かが言ってた。お友達がそんな男に泣かされたって。
調理場の女の人たちが話しててたまたま聞こえちゃった。悪い言葉だから口にしちゃダメだって言われたから内緒だけど。

「なのに兄上と姉上が大きくなってから急に会いに来たの?
しかも自分の後継ぎがいないからって理由で。
自分勝手な人だね」

見たこともない人だけど、この文書を読んだだけで嫌いだ。
母上に酷いことしただけじゃなくルイ兄とリオ姉のことも全然大事だと思ってない。
最後まで読んでミオン先生が言ってた二度と会えないの意味がわかった。
こんなことをしたのなら会っちゃいけなくなるの当然だと思う。


手にした書類を机に戻す。
母上と兄上たちのお父様との離縁届。
ルイ兄とリオ姉の出生届。それから『精霊のいとし子』である可能性について報告する文書。
二人が生まれてから起こった不思議なことについて書かれてた。

……そうだったんだ。
リンゴっていつも生ってるものじゃないんだ。
初めて知った。
いや、ちゃんと本で生る時期が秋から冬って見たことあるけど。
ウチではいつも生ってるから本が間違ってるんだと思ってた。
もしくは気候の違いかなって。

出生届を置いて事件の報告書を手に取る。
突然屋敷に見たこともない人が現れて父親だって言われたなんてルイ兄もリオ姉もとっても驚いたよね。
報告書にはその人がどのような言動を取ったのか書かれている。
『二人いるなら一人寄越せ!』なんて、少しでも相手のことを大事に思ってたら出てこない言葉だ。
兄上たちを物みたいに……。大っ嫌いだ、この人。

勝手に膨れてくる頬を両手でグニグニして元に戻す。

「伯父上、ありがとうございます」

感謝を伝えると伯父上はにやりと笑った。

「それで、知った感想は?」

ちょっと考えたけど答えは一緒だった。
知る前と何も変わらないかなって。

「知れてよかったです。
でも、なにも変わらないなって思いました」

これからもルイ兄とリオ姉は僕の兄上と姉上で、家族だし。
僕が父上を好きなのと同じくらいリオ姉とルイ兄も父上を好きだと思う。
家族じゃないなんて思ったことがないくらい自然に家族だった。
だから何も変わらない。

満足気な伯父上の笑顔に僕も笑顔を返す。
話して終わりにすることもできたのに、自分で知る方法を教えてくれた。
勉強になったし、伯父上に聞いてよかった。
でも、多分だけどこの件で一番怒ってたのは伯父上だ。
なんとなくそんな気がした。



伯父上の部屋を後にして廊下を歩いていると、ルイ兄が反対側から歩いてきた。
にこ、と笑うルイ兄にいきなり核心を突かれる。

「ライナス、聞いたんだ」

「えと、うん」

どうしてわかったんだろう。
鋭すぎる。
もしかしてルイ兄は秘密にしてたかったのかな。
ちょっと心配になる。

「兄上は知られたくなかった?」

「ううん、別に? いずれは知ることだから」

そのうち他の家と交流するようになれば嫌でも耳に入るし、母上もその前には話しておくつもりだったと思うよ、とルイ兄。

「ライナスは俺の大切な弟だよ、それは何があっても変わりない」

そう言って頭を撫でてくれるルイ兄はカッコいい大人の男の人だった。

「兄上みたいなカッコいい大人になりたいな」

なれるかな?と聞くともちろんと力強く言ってくれた。

「ライナスは父上の血を引いてるんだから格好良くならないわけがないよ。
俺が知ってる中で一番格好いい人はイクス父上だから」

ルイ兄の目には誇らしさがあって僕が父上を自慢に思ってるのと同じ気持ちだとわかる。
俺も父上の子で生まれたかったけどこれはどうにもねと笑うルイ兄が少し寂しそうで、そんなことないって全力で否定する。兄上も父上の子でしょって。

「だって兄上も父上に似てるもん」

当たり前のことのように言った。
血が繋がってないことなんて関係ない。
疑問を浮かべるルイ兄に笑ってみせる。

「家族って似てくるって言うでしょ。
兄上と姉上を育てたのは父上と母上だから、会ったこともなかった人より父上に似てるのは間違いないよ」

びっくりしたのか大きく目を開けたルイ兄が僕を見つめる。
思ってもみないことを言われた、と呟いた声は柔らかくて嬉しさに満ちていた。

「そっか、なんだかライナスはちょっと大人になったかな」

励まされちゃったねと頭を撫でられる。
すぐに手が離れたのは残念だけど、ちょっと大人って言われたのはうれしい。
手も繋がないで隣を歩く。
ゆっくりと歩いてくれるルイ兄に並びながら、まだまだ背の高いルイ兄と同じペースで歩くのは大変だなと思う。
でも今はちょっと大人だから並んで歩きたい。
あ、でもでも抱っこも頭撫でてくれるのも大好きだからね!
ちょっと大人の時間が終わったら、またしてね。

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