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とっても短い婚約破棄
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「は?」
突然のことに令嬢らしからぬ声を上げてしまう。
「本当に申し訳ない、君との婚約を破棄させてもらう」
困惑に目の前の男性を見つめると視線をどう解釈したのか苦渋の顔で再度謝った。
「君が私の為に地方都市で花嫁修業をして待ってくれていたことも知っている。
それでも私は君とは結婚できない…! 他に愛する人がいるんだ!!」
男性の隣には一見淑やかそうな女性が寄り添っていた。
二人が立ち去った後で呆然と呟く。
「婚約自体初耳なんだけど」
花嫁修行って何の話だ。
この三年間、交換留学生として隣国の学園で学んでいたリシアが、この王国の地方都市に存在出来る訳がない。
全く意味のわからない話だったが、ひとつだけはっきりとわかったことがある。
「私、婚約破棄されたみたいですね?」
近くで見ていた人に向かって確認する。
「そうみたいだね」
何のフォローも入れてこなかった人は学園の教師で、リシアの動向をしるただ一人の人だった。
「良かった、良かった」
淡々とした声で喜びを口にする。
正直どうでもよかった。申し訳ないと言いながら一方的に関係の破棄を告げる男もその横にいたのが子供のころ散々リシアを苛めてくれた姉の取り巻きだったことも、心の底からどうでもいい。
「婚約破棄されて喜ぶのは君くらいのものだ」
「多分もう少しいますよ」
この世に望まぬ婚約をさせられた人はリシアだけではないので。
「それにしても花嫁修業ってなんですかね?」
「これかな」
先生が見せてくれたのは高等部に上がるときに父から贈られたペン。
留学するときに先生に預けたそれがなんなのか、答えはすぐに知れた。
ふたの奥に赤い石が嵌められている。これが持ち主の居場所を特定するという。
これを知り合いに持たせて国内にいるように見せかけていたらしい。
少々強引に預かると言ったのはこれが理由なのかと驚く。
「ありがとうございます、助かりました」
魔道具だとは気付かなかった。先生が持っていてくれなかったら面倒なことになったのは明白だ。
「しかし困ったねえ」
「そうですね」
本人に何も言わずに縁組を進めているとは思わなかった。
このまま隣国で就職してしまおうかと思っていたのに、それをすると厄介なことになるかもしれない。
半分だけとはいえれっきとした貴族の娘、肩書が邪魔で仕方ないけれど無視することは更なる厄介事を招くだけなのでそうもいかない。
真面目に困っていると先生が穏やかな声で言った。
「じゃあ、私と結婚しようか?」
「は?」
いきなり驚かされたプロポーズ?から3月後、本当に先生は私との婚約を整えた。
本当に結婚するつもりなのか聞くともちろん、と答えが返ってくる。
身勝手な権利を振りかざす親から逃げようともがく姿に絆されたという。
「先生はいいんですか、それで」
「ん? 愛していないとは言っていないよ?」
微笑みながらの台詞に誤魔化されそうになりながら気にしていることを聞く。
「そんな理由で私の実家を敵に回していいんですか?」
わざわざ妾腹の娘を引き取って養育していたのはどこか役立つ家に入れるためだったはずだ。
先生の申し出はありがたいし、もうここまで話が進んでいる以上後戻りはできないけれど、本当に良かったのだろうか。
「敵にはならないよ、大丈夫」
私の心配を杞憂だと笑う先生。
その真意を私が知るのはもう少し後になる―――。
突然のことに令嬢らしからぬ声を上げてしまう。
「本当に申し訳ない、君との婚約を破棄させてもらう」
困惑に目の前の男性を見つめると視線をどう解釈したのか苦渋の顔で再度謝った。
「君が私の為に地方都市で花嫁修業をして待ってくれていたことも知っている。
それでも私は君とは結婚できない…! 他に愛する人がいるんだ!!」
男性の隣には一見淑やかそうな女性が寄り添っていた。
二人が立ち去った後で呆然と呟く。
「婚約自体初耳なんだけど」
花嫁修行って何の話だ。
この三年間、交換留学生として隣国の学園で学んでいたリシアが、この王国の地方都市に存在出来る訳がない。
全く意味のわからない話だったが、ひとつだけはっきりとわかったことがある。
「私、婚約破棄されたみたいですね?」
近くで見ていた人に向かって確認する。
「そうみたいだね」
何のフォローも入れてこなかった人は学園の教師で、リシアの動向をしるただ一人の人だった。
「良かった、良かった」
淡々とした声で喜びを口にする。
正直どうでもよかった。申し訳ないと言いながら一方的に関係の破棄を告げる男もその横にいたのが子供のころ散々リシアを苛めてくれた姉の取り巻きだったことも、心の底からどうでもいい。
「婚約破棄されて喜ぶのは君くらいのものだ」
「多分もう少しいますよ」
この世に望まぬ婚約をさせられた人はリシアだけではないので。
「それにしても花嫁修業ってなんですかね?」
「これかな」
先生が見せてくれたのは高等部に上がるときに父から贈られたペン。
留学するときに先生に預けたそれがなんなのか、答えはすぐに知れた。
ふたの奥に赤い石が嵌められている。これが持ち主の居場所を特定するという。
これを知り合いに持たせて国内にいるように見せかけていたらしい。
少々強引に預かると言ったのはこれが理由なのかと驚く。
「ありがとうございます、助かりました」
魔道具だとは気付かなかった。先生が持っていてくれなかったら面倒なことになったのは明白だ。
「しかし困ったねえ」
「そうですね」
本人に何も言わずに縁組を進めているとは思わなかった。
このまま隣国で就職してしまおうかと思っていたのに、それをすると厄介なことになるかもしれない。
半分だけとはいえれっきとした貴族の娘、肩書が邪魔で仕方ないけれど無視することは更なる厄介事を招くだけなのでそうもいかない。
真面目に困っていると先生が穏やかな声で言った。
「じゃあ、私と結婚しようか?」
「は?」
いきなり驚かされたプロポーズ?から3月後、本当に先生は私との婚約を整えた。
本当に結婚するつもりなのか聞くともちろん、と答えが返ってくる。
身勝手な権利を振りかざす親から逃げようともがく姿に絆されたという。
「先生はいいんですか、それで」
「ん? 愛していないとは言っていないよ?」
微笑みながらの台詞に誤魔化されそうになりながら気にしていることを聞く。
「そんな理由で私の実家を敵に回していいんですか?」
わざわざ妾腹の娘を引き取って養育していたのはどこか役立つ家に入れるためだったはずだ。
先生の申し出はありがたいし、もうここまで話が進んでいる以上後戻りはできないけれど、本当に良かったのだろうか。
「敵にはならないよ、大丈夫」
私の心配を杞憂だと笑う先生。
その真意を私が知るのはもう少し後になる―――。
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