18 / 47
卒業後
対立の表明
しおりを挟む
「私がそれを許すと思っているのか?」
一瞬でも動揺させられたことが不快だというように眉間に皺を寄せる父。
「許すだけの理由があれば許してくださるのでは?」
父は理に敏い。自分の思い描いていたものでなくても許す可能性はあると思っていた。
父親がリシアの言葉を鼻で笑う。
「お前如きがそんな物を提示出来るわけなかろう。
父娘の情で私は動かん」
今度はリシアがわずかに驚きに目を見開く。
「そんな台詞が出てくるような情があったんですか?」
ないでしょう、と言うと流石に無理があると思ったのか父親が口を閉じた。
「別に私はこの国を出ても良いのです。
幸い多少のつてならありますし」
ただ、先生が結婚しようと言ってくれたから、だからこんなしち面倒くさいことをしているだけで。
「しかし彼はこの国に仕事を持っていますし、そう簡単に家は捨てられないでしょう」
捨てさせる気もない。
「何も捨てる気がないからついて行こうと決めたんです。
お父様が認めないと言ったところで私の気持ちは変わりません」
妨害なんて最初から承知の上だ。
「私に相手を破滅させることが出来ないとでも?」
「ええ」
端的に答えると瞼が不快そうにぴくりと動いた。
「出来る出来ないではなく、したいと思わないようになりますよ」
「何?」
生意気な発言に父が怒りを露わに睨みつけてくる。
「先日カーミラ様と婚約なさった方」
リシアに婚約破棄を告げたあの人。
「あの方の家は型どおりだけれど堅実な統治をされるそうですね」
突然の話題転換に父は頭を巡らせて何を言うのか考えている。
「領地も栄えていて小さいとはいえ安定した所だとか」
ここまでは先生に教えてもらった。
「そうだ、お前の嫁ぎ先としても申し分ないと思って縁談を用意してやったのに」
まるで私のためだったように話す。
良く回る口だと呆れる一方で、これくらい出来なければ高位貴族なんてやっていられないのかもと思った。
「そこの領地では色々と・・・おもしろい物が採れるらしいですね?」
じっと父親の顔を見ながら言葉を並べていく。
無表情を崩さない父親の瞼が不自然に動いた。
表情を読む術は理解できると面白い。
未熟なリシアでさえわかる反応を見せた父親にふっと笑いかける。
「本来の目的はそちらではなかったのでしょうけれど、見つけた果実があまりに魅力的だった」
危険な橋を架けようとするくらいには。
「お父様が懇意にされている商会が彼の地に支店をだしたとか」
「だからなんだ。 いちいちそんなもの把握していない」
抑えようとしているけれど僅かに言葉が早い。
「農家と専属契約をして珍しい植物を取り扱おうとしているみたいですね」
問題はその珍しい植物だ。
商会も店舗で表立って売らないと思う。
禁制品ではないけれど近い扱いがされる物。
いざとなったら商会の一つや二つ見捨てるだろうけれど、無傷でいられるとは限らない。
「だからなんだと言うんだ! 私は知らん!!」
「別にお父様が主導したなんて言っていませんよ。
ただ、その中に近く規制が掛かる品物があったとしたら…」
父親が息を呑んだ。
「お父様の領地にも捜査が入るでしょう。
そのときに余計な物も見つけられてしまうかもしれませんね?」
笑みが深くなる。
一つ一つは大したことのない悪事でも数によっては深い傷になるだろう。
そして…。
「捜査をするのがお父様と対立する方だったら、罪も厳しいものになる可能性もありますね」
もしくは父と懇意にする方の政敵だったら。きっと徹底的に追及される。
「貴様…」
唸り声を上げる父親は、リシアを手駒ではなく敵として認識してくれたみたいだ。
思い通りになる気がないとわかってくれたならなにより。
「そんな顔をなさらないでください。 すべては可能性に過ぎないのですから」
少なくともこの先父親が商会の新しい商売に手を貸すことはないだろう。
まだ犯していない罪をどうすることも出来ない。
対応するべきことが出来てしまった父親はリシアを睨みつけている。
「ゆっくり考えてくださってかまいませんよ。
今日はお話ししたかっただけですから」
「白々しいことを…」
忌々しそうに父親が吐き捨てる。
「ああでも…、断りづらいような方との縁談は避けていただいた方がよろしいかと思います。
障りがあってはその後のお話も面倒ですものね?」
無理に力のある家と縁組を進めたらきっと破談にするために知恵を搾る。
縁談を結んだ後に瑕疵となる情報が出て来たりしたら、何らかの賠償をしなくてはならないだろう。
それこそ父親が最も望まないことだろう。しばらくは余計なことをせずに何が自分にとって有用か考えてくれればいい。
応接室を出ていく父親を見送ってリシアは詰めていた息を吐いた。
一瞬でも動揺させられたことが不快だというように眉間に皺を寄せる父。
「許すだけの理由があれば許してくださるのでは?」
父は理に敏い。自分の思い描いていたものでなくても許す可能性はあると思っていた。
父親がリシアの言葉を鼻で笑う。
「お前如きがそんな物を提示出来るわけなかろう。
父娘の情で私は動かん」
今度はリシアがわずかに驚きに目を見開く。
「そんな台詞が出てくるような情があったんですか?」
ないでしょう、と言うと流石に無理があると思ったのか父親が口を閉じた。
「別に私はこの国を出ても良いのです。
幸い多少のつてならありますし」
ただ、先生が結婚しようと言ってくれたから、だからこんなしち面倒くさいことをしているだけで。
「しかし彼はこの国に仕事を持っていますし、そう簡単に家は捨てられないでしょう」
捨てさせる気もない。
「何も捨てる気がないからついて行こうと決めたんです。
お父様が認めないと言ったところで私の気持ちは変わりません」
妨害なんて最初から承知の上だ。
「私に相手を破滅させることが出来ないとでも?」
「ええ」
端的に答えると瞼が不快そうにぴくりと動いた。
「出来る出来ないではなく、したいと思わないようになりますよ」
「何?」
生意気な発言に父が怒りを露わに睨みつけてくる。
「先日カーミラ様と婚約なさった方」
リシアに婚約破棄を告げたあの人。
「あの方の家は型どおりだけれど堅実な統治をされるそうですね」
突然の話題転換に父は頭を巡らせて何を言うのか考えている。
「領地も栄えていて小さいとはいえ安定した所だとか」
ここまでは先生に教えてもらった。
「そうだ、お前の嫁ぎ先としても申し分ないと思って縁談を用意してやったのに」
まるで私のためだったように話す。
良く回る口だと呆れる一方で、これくらい出来なければ高位貴族なんてやっていられないのかもと思った。
「そこの領地では色々と・・・おもしろい物が採れるらしいですね?」
じっと父親の顔を見ながら言葉を並べていく。
無表情を崩さない父親の瞼が不自然に動いた。
表情を読む術は理解できると面白い。
未熟なリシアでさえわかる反応を見せた父親にふっと笑いかける。
「本来の目的はそちらではなかったのでしょうけれど、見つけた果実があまりに魅力的だった」
危険な橋を架けようとするくらいには。
「お父様が懇意にされている商会が彼の地に支店をだしたとか」
「だからなんだ。 いちいちそんなもの把握していない」
抑えようとしているけれど僅かに言葉が早い。
「農家と専属契約をして珍しい植物を取り扱おうとしているみたいですね」
問題はその珍しい植物だ。
商会も店舗で表立って売らないと思う。
禁制品ではないけれど近い扱いがされる物。
いざとなったら商会の一つや二つ見捨てるだろうけれど、無傷でいられるとは限らない。
「だからなんだと言うんだ! 私は知らん!!」
「別にお父様が主導したなんて言っていませんよ。
ただ、その中に近く規制が掛かる品物があったとしたら…」
父親が息を呑んだ。
「お父様の領地にも捜査が入るでしょう。
そのときに余計な物も見つけられてしまうかもしれませんね?」
笑みが深くなる。
一つ一つは大したことのない悪事でも数によっては深い傷になるだろう。
そして…。
「捜査をするのがお父様と対立する方だったら、罪も厳しいものになる可能性もありますね」
もしくは父と懇意にする方の政敵だったら。きっと徹底的に追及される。
「貴様…」
唸り声を上げる父親は、リシアを手駒ではなく敵として認識してくれたみたいだ。
思い通りになる気がないとわかってくれたならなにより。
「そんな顔をなさらないでください。 すべては可能性に過ぎないのですから」
少なくともこの先父親が商会の新しい商売に手を貸すことはないだろう。
まだ犯していない罪をどうすることも出来ない。
対応するべきことが出来てしまった父親はリシアを睨みつけている。
「ゆっくり考えてくださってかまいませんよ。
今日はお話ししたかっただけですから」
「白々しいことを…」
忌々しそうに父親が吐き捨てる。
「ああでも…、断りづらいような方との縁談は避けていただいた方がよろしいかと思います。
障りがあってはその後のお話も面倒ですものね?」
無理に力のある家と縁組を進めたらきっと破談にするために知恵を搾る。
縁談を結んだ後に瑕疵となる情報が出て来たりしたら、何らかの賠償をしなくてはならないだろう。
それこそ父親が最も望まないことだろう。しばらくは余計なことをせずに何が自分にとって有用か考えてくれればいい。
応接室を出ていく父親を見送ってリシアは詰めていた息を吐いた。
1
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたくてしかたない
野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、
婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、
婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、
自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。
『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』
初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。
政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。
しかし、結婚してから三年。
夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。
絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?
愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここに?
ましゅぺちーの
恋愛
シュベール王国では寵姫にのめり込み、政を疎かにする王がいた。
そんな愚かな王に人々の怒りは限界に達し、反乱が起きた。
反乱がおきると真っ先に王は愛する寵姫を連れ、国を捨てて逃げた。
城に残った王妃は処刑を覚悟していたが今までの功績により無罪放免となり、王妃はその後女王として即位した。
その数年後、女王となった王妃の元へやってきたのは王妃の元夫であり、シュベール王国の元王だった。
愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここにいるのですか?
全14話。番外編ありです。
私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります
せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。
読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」
結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。
この人は何を言っているのかしら?
そんなことは言われなくても分かっている。
私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。
私も貴方を愛さない……
侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。
そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。
記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。
この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。
それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。
そんな私は初夜を迎えることになる。
その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……
よくある記憶喪失の話です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ご都合主義です。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる