リフェルトの花に誓う

おきょう

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13-①

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「トーマス公爵も無事に捕縛完了って報告が今届いた。指揮を取ってもらったニーチェの側近の2人には後で礼を言わないとなー」

そんなことを言いながら、ジンはやけに意味ありげな笑みを湛えたまま馬車の扉をしめた。
ロザリアの隣には、うだる気に寄りかかっているセインが居る。
向かい側の席ではなく隣に座らせたのはセインはふらふらで放って置けば席から転げ落ちてしまいそうだったからだ。

王宮へとむけてゆっくりと動き出した馬車の中。
ロザリアは隣のセインの顔を心配そうにうかがう。

「何だ」

目をつむって寄りかかっていたセインが、視線に気づいてうっすらと目をあける。
潤んだ金色の瞳がロザリアを映した。

「誘拐犯って、トーマス公爵だったのね」

犯人が誰かを、ジンもセインも今まで一度だって口にしたかった。

「……さすがのロザリアでも予想がついていただろう」
「そうね。…すんなりと納得出来ちゃったわ。あの人、あきらかに可笑しかったもの。…お母様のことを殺したのも、叔父様なのね」

誰も何も言わなかったけれど、5年前と手口がまったく同じだ。
タイミングも王妃の懐妊と王女の婚約と言う、現王家が活気ずく時を完全に狙っていた。
たいして頭のまわらないロザリアにも、これはさすがに分かる。

「………あぁ」

セインの肯定で、自分の予想が間違っていないことを確信して、ロザリアは唇をぎゅっと閉じてうつむく。

気づくとセインがロザリアの手を握っていた。
でもそれに恥ずかしがる余裕は、今のロザリアには無い。


-----そしてしばらくの沈黙が落ちる。

いつもと違って無口なロザリアに、セインは何も言わなかった。

「………………」
「…………」

ガタンガタン、と。

時折揺れる馬車の中で2人は寄り添い、ただ過ぎる時間を己の頭の中を落ち着けるために使う。

ずいぶん長い時間そうしてから、ふいにロザリアが呟く。

「………ねぇ」
「ん」
「------寝て無くていいの?膝貸すわよ?

さすがに具合を悪くしている人にはロザリアだって優しくなる。
それに助けに来てくれたのは感謝しているから、お礼に快方くらいはしたかった。
なのにセインの眉間には皺が出来た。物凄く嫌そうだ。

「…平気だ」

青い顔色をしていた、息も整っていないくせに。
何を強がっているのだろうと呆れた。
そしてふと気になって、何となく言ってみる。

「セインって、私のこと結構すきだったりするの?」
「…………そんなわけないだろうが。馬鹿」

ふいっと向こうを向いてしまったセインの表情は、ロザリアには見えなくて、意味が分からず首をかしげるばかりだ。

(だったら、どうして?)

好きじゃないと言うくせに、どうして体調が悪い状態で身を挺してまで助けにきてくれたのか。
いつだって馬鹿だと罵るくせに、どうして今も傍にいるのか。
セインの言葉と行動は正反対で、たくさん考えても理解ができなかった。
思ったことをそのまま口にしてしまうロザリアには、本心と真逆なことを言うセインの考えが本気で分からない。

心の赴くままに自分を出してしまった方が楽なのに。
彼はどうしてか意地悪な台詞と嘘ばかりを吐くのだ。

(どうしてこんな面倒くさいのかしら)

こんなに素直になれない性質の彼のことは、きっとずっと、何十年たったって理解できないと断言できる。
出会って10年以上たっても変わらないのだから、これからだって絶対にそうなはず。

(ほんっとうに…セインの考えてることなんて全然分からないわ。…でも)

ロザリアは泣き出してしまわないようにきゅっと目元に力を入れる。

「ロザリア?どこか痛むのか?」

顔を歪めたロザリアの変化に誰よりも早く気づくのはやはりセインだった。

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