リフェルトの花に誓う

おきょう

文字の大きさ
上 下
35 / 39

12-⑤

しおりを挟む
「でもこの作戦、王子様の案だぜ?姫様とセイン王子の婚約話が出た半年前くらいに俺宛に指示が出たんだし」
「はっ?」
「姫様の婚約って話が流れればあの人が動くって予想して、事前に作戦立ててたんだ。直前に動いても警戒されるから半年かけて徐々に信頼を得て行ったってわけ。おかげで今みたいな重要拠点も任せられるくらいの奴の右腕的立場にまで出世した。さすが俺!」
「彼の簡単に相手の懐に滑り込める技量は買っていたからな。一番に敵方へ接触するように仕向けてもらった」
「……私、本当に蚊帳の外だったのね」

婚約の話も、自分の騎士が何をしていたかも、セインが動いていたことも。
半年以上前からすべては動いていたのに、ロザリアは何一つ知らなかった。
知らないままに守られて、知らない間に全てが終わっている。

その全てがロザリアにかかわることなのに。
守られてばかりで、本当に何も出来ない王女なだと、ロザリアは本気で痛感した。

「そんなに頼りない?……ううん、分かってる。私は王家の血を持ってる跡継ぎだから大事にしてもらえてるだけなのよね。私自身は全然だめだめで、守ってもらうような価値もないのに」
「……ロザリアがするべきことが、俺たちのするべきことと違うだけだ」
「意味が分からない」

肩を落として項垂れるロザリアの頭に、ジンの大きな手が載せられた。
そして彼の大きな手に乱雑に撫でられる。

「あんなに国民に好かれて、活気ある城下町を作ってんのは姫様の力」
「……?」

首をかしげるロザリアを見てジンの言うことをまったく理解していないと悟ったセインが、面倒臭そうに説明した。

「民の支持を集めるのによその国の王族たちがどれほどの苦労をしているか分かって言っているのか。ロイテンフェルトが大規模な反乱や反旗の心配なしでいられるのはロザリアが頑張ってるからだ」
「私、何もしていないわ」
「あれだけ民と気軽に仲良く出来る王女がどこにいる。流行り病や情勢の悪化などで人が不安定になるたびに毎日のように通って手を握って。あんなに目に見える民と同じ場所で民に尽くす王女なんて、俺は今のところ1人しか知らない」
「………あれは…だって…そんな大層なものじゃないわ」

ロザリアには頭を使った政務なんてとても出来ないから、せめて泣いている人が居れば元気になる手伝いをしたいと思っただけ。
王女なのにそんな小さくて誰にでも出来ることしか出来ない自分が、恥ずかしくて仕方がないのに。

(なのに、セインが褒めるようなことを言ってる)

いつだってロザリアを否定してばかりの彼が、ロザリアのそんなところを認めているなんて思ったこともなかった。
なんだか恥ずかしなって、俯いて思いっきり過振りを振る。

「ロザリア?」
「おい、姫様ー?」

呼びかけにぱっと顔を上げてから、ロザリアは自分の手を握りこんで意気込んだ。

「私、頑張るから!少しくらい政務も出来るように勉強するわ!」

王女・・としての自信が、ロザリアにはかけらも無かった。
けれど認めてくれる人がいた。それがセインと、ジンだった。
嬉しくて、だったらもっと頑張ろうと張り切るロザリアにセインは眉をひそめてゆるゆると首を振る。

「………いや、別にいい。変に張り切られても面倒事に発展しそうだ」
「な、なにそれ!」

ロザリアが声を上げて反論する。
それに対してセインはきっとまた意地悪なこというのだろうと思った。
けれど彼の身体はふらりと傾き、ロザリアを頼るようにロザリアの背に手を回すのだった。

「セイン!」
「あー…さすがに限界だな。馬で帰るのは無理か。おい!馬車の用意してくれー。あと屋敷内へ横になれる場所したくして」

ジンが敵方の男たちへ縄をかけていた騎士に命じる。

「…ジンがいるのに、どうしてこんなになってまで駆け付けたわけ?」

味方であるジンや、ほかにも騎士が潜入してるとセインは知っていた…と言うか彼らを指揮をしたのがセインだ。
ロザリアを護る騎士たちが側についていると分かっていたのに、どうしてこんな状態の身体でわざわざ出てきたのだ。
訪ねてみたけれど、ロザリアに支えられながらも彼はそっぽを向いてしまう。
それを見たジンが思わずと言った風に吹き出す。

「居ても立ってもいられなかったんだろ。その辺の男心にはやっぱり鈍いんだよなー」
「えーっと…すっごく心配してくれたってこと?」
「そうそう。すっごくすっごく心配だったんだよ」
「…………」

ロザリアは思わずセインの顔を凝視する。
青みを帯びていた顔に朱が走っているように見えるのは、たぶん気のせいじゃない。

「ジンの話、本当?」

でも素直じゃない王子様は、予想通り答えてはくれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

先生×生徒、恋愛なんてありえない!

楠こずえ
恋愛
高山 流星、イケメンだけどちょっとヘタレ教師。 西森夏菜、恋愛経験ゼロの優等生。「勉強だけの青春なんて、さみしすぎる!」ということで、先生と生徒の秘密の擬似恋愛レッスンが始まるのですが・・・? この恋の気持ちは本物か偽物か、ドキドキ・ラブコメディー

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。 2度目の離婚はないと思え」 宣利と結婚したのは一年前。 彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。 父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。 かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。 かたや世界有数の自動車企業の御曹司。 立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。 けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。 しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。 結婚から一年後。 とうとう曾祖父が亡くなる。 当然、宣利から離婚を切り出された。 未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。 最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。 離婚後、妊娠に気づいた。 それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。 でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!? 羽島花琳 はじま かりん 26歳 外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢 自身は普通に会社員をしている 明るく朗らか あまり物事には執着しない 若干(?)天然 × 倉森宣利 くらもり たかとし 32歳 世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司 自身は核企業『TAIGA自動車』専務 冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人 心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

処理中です...