リフェルトの花に誓う

おきょう

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8-③

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 治療を終えたセインの眠る寝室に通されたのはロザリアと侍女のミシャ、アーサーとグロウ。
 そしてセインの治療にあたっていた老齢の医師と、彼の助手を担う2人の若い女性だ。
 国王エリックやジンは、招待客への対応に追われているらしくこの場には来られないらしい。

「心配はありません。解毒は成功いたしましたし、経過も順調です」
「よかった…」

 医師のその一言に、誰もが安堵の息を吐いた。

「セイン様!ご、ご無事で良かった…!」

 側付きのアーサーに至っては涙まで流している。
 余程セインのことが心配だったのだなと、ロザリアは案外強いらしい主従の絆に関心した。

「ニーチェ国の王族には幼少からいくつかの毒に身体を慣らしておく習慣があるらしい。ですからある程度の耐性も働いたのだと思われます。2.3日は発熱するでしょうが1週間もすれば全快されるでしょう」
「毒に…?」

 少量ずつ毒を頓服し、耐性をつくる。

 慣れるまでには身体を蝕む毒の効能に何度も何度ももがき苦しみ耐え抜くと聞いたことがある。
 耐え切れずに死に陥る人間も多い、ある意味もろ刃の剣と言っていい身の守り方だ。

(そんなのがニーチェの習慣としてあったなんて知らなかった。セインは一度だってそんなこと言ってなかった)

 再びセインの蒼白な顔を見て、その苦しみを想像してぞっとした。
 ロザリアが想像していたよりずっと、彼は死に近いところにいたのだ。
 不安を振り払うように慌てて傍らのミシャに顔を向けた。

「招待客の方々が口にされた分は大丈夫だったのかしら」
「えぇ。毒物の混入があったのはお二人のグラスのみのようです」
「そう…。果実酒を飲んだのがセインだけだったから…。私は毒への耐性なんてまったくないもの。もしも私だったなら、助かったかどうかさえ分からないのよね」

 飲んですぐに症状が現れたのだから、相当強い即効性の薬だったことは言うまでもない。
 それこそ招待客へ振る舞われた料理に入っていたりしたなら、あれくらいの騒ぎでは済まなかったはず。
 自国の貴族だけでなく他国の重臣や王族までいたのに。
 場合によっては宣戦布告と取られても仕方がない状況になってしまうところだった。

 ベッドの脇に経つ医師がこほんと咳をして、室内にいる全員の方を振り返る。

「あとは休息を取っていただいて回復を待つしかありません。騒々しいと休まりませんから、皆様本日はお引き取りください」

 もう夜も更けていて、窓から見える空には三日月が昇っている。
 いつもならそろそろ眠りに落ちる時間だ。
 でも今日は叔父との騒動や婚約の義、毒薬の混入などと、色々ありすぎて緊張と混乱でロザリアの頭はどうにかなりだった。

(どうやっても落ち着いて眠れる気がしない。---どうせ眠れないなら…)

 ロザリアは眠るセインの青白い顔を見下ろす。
 胸の奥がぎゅっと縮まって、小さな痛みさえ感じた。

「…セインの傍についていてはいけないかしら。大丈夫ってわかっても心配だもの」

 考えるよりも早く自然に滑り出てきた言葉に、ロザリアは思わず自分の口元に手をあてる。
 周りを見るとこの場に居る全員の驚きに満ちた表情がこちらへと集まっていた。
 普段セインのことを「嫌だ嫌だ」と言っているロザリアがセインについていたいと言いだすなんて、誰も思わなかったのだろう。

「…だ、駄目かしら。だって私の隣で倒れたのよ?気になって当然じゃない」

 予想以上の注目を浴びてたじろぎつつ、おそらく駄目だろうなと諦めを含んだ息がロザリアから漏れる。
 若い女性が夜遅くに男性の寝室に居座るなんて、誰からも反対されてしまうことだ。
 たとえよその令嬢よりも自由にさせて貰っているロザリアであっても、止められるに決まっている。

「いいえ。ロザリア様はセイン王子の婚約者ですもの。駄目なことなんてありませんわ」
「そう…なの…?」

 ミシャの台詞にロザリアは驚いて紫の眼を瞬かせた。
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