リフェルトの花に誓う

おきょう

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4-①

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「…セイン殿下ぁ、どうしてあんな挑発するような発言するんですか。ロザリア様すっげぇ怒ってらっしゃいましたよ?」 

 案内された部屋に入って一息ついていたセインは、ニーチェ国から護衛として連れてきた側近のグロウに言われて顔を上げる。

 カウチソファに腰かけたセインの傍らに立っているグロウは、緩く波打つ髪を薄茶色に脱色していて、ロイテンフェルトまでの道中の一か月半で伸びた根元部分だけが地毛の濃い色合いを見せていた。
 色素の薄い垂れ目で軟派な印象で、立ち姿も猫背。
 一応騎士らしく胸当てと肘当てのみの簡易鎧を着けているにも関わらず、完全にだらけている。

「別にこれくらいの発言でどうにかなるような不安定な仲じゃない。それよりグロウ、婚約披露の時までに切って染め直しておけよ。だらしない」

 セインはシャツの胸元のボタンを一つ二つと順番にはずしながら、グロウが指先に絡めて遊んでいる髪を指す。

「えー。このルーズさ良くないですか? 結構気に入ってるんですけどぉ」
「駄目だ」


 間髪言わず否定すると、グロウは毛先を指先にくるりと巻きつけて口を尖らせた。

 いい大人のくせに子供のような仕草がやたらと似合っている。


「ちぇ。結構緩いお国柄みたいだからいけると思ったんだけどなぁ。まぁ仕方ないから了解でっす。んで、なんでロザリア様にだけあんな態度なんです?」
「特に普段と変わらないが」
「俺達には、でしょう。でも幼馴染といえど他国の王女様ですよ? いつもなら爽やか笑顔取りつくって相手をほめたたえるところでしょう。それくらいの演技力持ってるじゃないですか。なのに怒るようにわざとつっついて。らしくないですよぉー」
「……お前は顔も態度も性格も適当なくせに、どうしてそんな細かいところを気にするんだ」
「んんー。人生経験の差ってやつ? 重要なところでびしりと決めますよって感じで」
「意味が分からん。年も言うほど変わらないだろう」
「え、俺今年四十になりますよ?」
「よっ!?」

 セインは思わず声を上げてまじまじと値踏みするようにグロウを眺めてしまう。
 皺もシミも見当たらなければ、長旅の直後であるのに肌の張りと艶も失われていない。
 どう見繕っても二十代だろうと勝手に思っていたから、なおさら衝撃だった。

「あぁ…そういえば俺が物心ついたころには普通に父上の傍についていたな」

 よくよく思い出してみれば、軽く十五年は前に国王の近くに仕えていたのだ。

 ある程度の年齢であることは少し考えればわかるはずだった。

「何なんだ、その気味の悪いほどの若づくりは」
「色々努力してるんですよぅ。でっ! 俺が鋭いってことはぁ、ロザリア様を特別扱いしてるってことで間違いないんですね! きゃー、青春!!」
「……違う」
「またまたぁ。あれでしょう?好きな子を前にすると恥ずかしくてつい意地を貼っちゃうってやつ!」
「…だから、違うと言っているだろう」

 反論してみるものの、一人で盛り上がっているグロウの耳には届いていない。

「だめですよぅ、女の子には優しくしないと。俺みたいに!紳士に!ならないと!」
「…………」

 セインは何やら色々決めつけて喜んでいるグロウをもう放って置くことに決めた。

(何を言ったって通じる気がしない)

 ため息を吐いてカウチソファに深く背を預けた。
 ずっと馬車に揺られていたため、疲労も濃く身体が重い。
 服地を挟んで感じる柔らかなソファの感触は心地よく、目をつむると眠りに落ちてしまいそうだ。
 しかし室内に響いたノックの音に、落ちかけていたセインの瞼は再び持ち上げられた。

「失礼いたします」
「…アーサーか」

 入ってきたのは銀縁のメガネが印象的な背の高い男。
 長い髪を後ろでゆるく結わえており、少し釣り目気味で神経質そうな顔立ちだ。


「王子、湯殿の支度ができたと侍女が知らせにまいりましたが。直ぐにお入りになりますか?」
「そうだな。入って置こうか。夜に催されるロイテンフェルト国王との晩餐までに身支度を整えなければならないし」

 セインはグロウにつられて緩んでしまっていた気持ちを首を振って振り払い、立ち上がる。
い。


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