上 下
43 / 46

43

しおりを挟む


 今のエリー自身が持つ、技術と知識の全てを注ぎ込んだドレス。
 それを着た美湖は、本当に嬉しそうに笑ってくれた。

「本当に有り難う、エリーさん」

 初めての大仕事をやり遂げた達成感に、エリーは満たされていた。
 肩から力が抜けて、口元が緩む。

「いいえ。こちらこそ、美湖様が指名してくれなかったら、私がドレスを任せて貰えるのなんて、きっと何年も先の話でした。凄く楽しかったし、凄く勉強になりました」
「そう、良かった。でもねぇ、ーーーーねぇ、エリーさん?」
「はい?」

 ぱちりと新緑色の目を瞬いて見た美湖は、まるで何かをたくらんでいるような、悪戯心を覗かせた顔していた。
 その様子に、エリーは首を傾げる。
 
「エリーさんに、素敵なドレスのお礼をさせて欲しいの」
「お礼? ドレスの端切れをいただきましたけど」

 あの端切れのおかげで、長いことの胸のつっかえが取れたのだ。

「本当に助かりました」

 お礼を言ったのに、何故か美湖は頬を膨らませだした。
 お姫様みたいな綺麗な格好をしてるのに、子供みたいに地団駄を踏む。

「もう!」
「美湖様?」
「あれが本当にお礼になるはずがないでしょう!? 私は何もしてないじゃない!」
「はぁ」
「ディノスさん! 例のブツを!」

 美湖の声が向けられた方を振り返ると、そこには大きな箱を持ったディノスが居た。
 相変わらずの無精ひげに、伸びっぱなしの髪。
 いつも思うが、せめて前髪を横へ良ければいいのに。
 さすがに視界が狭すぎやしないだろうか。目が悪くなってしまう。

「ほら」

 ぶっきら棒に、ディノスに箱を差し出された。
 それは彼には似合わない、可愛いレースリボンで飾られたもの。

「あの、これは?」

 首をかしげるエリーの腕に、美湖が手を絡ませてくる。温かくて、いい匂いがした。

「私からの贈り物よ。ほとんどはディノスさんが作ったけれど、私も出来る部分は手伝ったの! 開けてみて?」
「…………」

 エリーは、大きな箱をテーブルに置かせてもらう。
 そして、そっと手を掛けたリボンの端を引いて、ほどいてから蓋を開ける。
 箱の大きさと重さ、形状から薄々さっしていたけれど。

「これ……ど、どれす……?」

 声が、震えた。

 一瞬息が、止まった。
 箱の中にはとても綺麗で繊細な、紺色のドレスが入っていたのだ。
 おそるおそる手に持って広げてみる。
 
「可愛い……」

 思わず呆けて呟いてから、はっと我に返った。
 さっきこれを、美湖はプレゼントだと言っていたではないか。

「あのっ、でもこれ……こんなの……」

 世界で一番の裁縫師が、一から仕立てたドレス。
 ありえないほど美しく、くらくらするくらいに見惚れてしまう。
 エリーが美湖に作ったドレスは、自分たちと同じ年ごろの女の子がぱっと見て「可愛い!」と思うようなものだが。
 このドレスは、おそらく男女関係なく、それどころか老人から子供までもが美しいと思う、いわば芸術品のようなものだった。

「喜んでくれたみたいで嬉しいなぁ」
「いや、え……いやいやいやいや、こんなの畏れ多過ぎます! そもそも着る場面なんて無いですよ!?」

 自分には不相応すぎる。
 こんなの貰えるわけがない。
 使う場面だって一生ない。
 慌てて箱に戻して返そうとしたが、それを美湖は阻止してしまう。
 エリーの手に手を添えて、ぎゅっとにぎって、満面の笑みを見せた。なんだかとっても迫力のある笑顔だ。

「そんなことないわ。だって、今日のパーティーに出席予定の国一番の裁縫師さんは、まだお相手が決まっていないと聞いているんだもの。ねっ?」

 美湖のしたり顔に、エリーは緑の瞳を瞬いた。
 貴族でもなく、地位のある役職にもついていない、そんなエリーに城のパーティーに出る資格があるはずもなかった。
 しかし、出席予定の『地位のある役職者』のパートナーとしてだったら……。
 美湖からディノスへと視線をずらすと、彼は小さく嘆息しながらも頷いた。

「まぁ、自分の作った作品が日の目を浴びないのは忍びないからな」

 ーーーーディノスのパートナーとして、エリーのパーティーへの出席が決まったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...