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 美湖との打ち合わせが終わったあと。
 エリーはディノスと肩を並べて、大神殿から城への道のりを歩いていた。


 ディノスは個人の作業室、エリーは服飾部本部になっている大部屋の作業室に帰るので、途中で別れることになる。
 初めてのドレスの打ち合わせがあれで大丈夫だったのかが心配で、エリーは隣を歩くディノスに、おすおずと声をかけた。

「どうでしたか? やり方、シンシアさんに聞いた通りにしてみたんですけど、間違ってませんでした?」
「別に、問題ない」

 ほっと息を吐いたエリーをちらりと見下ろしたディノスは、言葉を続ける。

「それぞれのやり方がある。最終的にこの国の服飾部が作ったものとして恥ずかしくないものになるのなら、何でもいい」
「そうですか。頑張ります」

 つまり、最終的にはこの国一番の服飾をつくる職人たちと同じくらいのレベルのものを出せということだ。
 一番の下っ端のお針子見習いには、かなりの重責だ。

(あー、緊張する。でも、うん、美湖様と話してたら、更にやる気もあがってきた)

 出来上がったドレスを想像して、美湖はきらきらと顔を輝かせていた。
 期待を裏切りたくないと、凄く思う。
 気合いを入れて頑張ろうと、エリーは自分を奮い立たせる。 

「おい」

 そこで、ディノスが立ち止まる。
 エリーは首を傾げて同じように足をとめたが、返事の前に少し前から気になっていたところをまず指摘してみることにした。

「あの、ディノス様」
「何だ」
「ずっと言いたかったんですけど、私には名前があります。新人とか、おいとかじゃなく名前で呼んでもらえませんか」
「……エリー・ベルマン」

 なぜフルネーム呼びなのかは不明だが。
 一応きちんと名前は覚えてくれていたのだと、少し嬉しくなって頬をゆるませ返事をする。

「何でしょうか、ディノス様」

 笑顔のエリーとは反対に、前髪の間から覗くディノスの目を含めた顔は、たいへん不愛想なものだった。
 これが通常の顔なのだとは、もう知っている。
 最初は怖いと思っていたけれど、顔だけで怯える事もさすがに無くなってきた。

「……ニ・三日、お前のデザイン画を借りてもいいだろうか」
「デザイン画? これをですか?」
「あぁ。巫女様のドレスに使うのは抜いてだ」
「別に、構いませんけど」

 ニ・三日くらい手元になくてもまったく構わない。

「どうぞ」
 
 エリーは素直に、美湖が気に入ったデザインの紙と、あとは少し気にかけていたように見えるものも何枚か抜いて、他の束をディノスに差し出した。
 エリーの手渡したデザイン画の束に、何故かディノスは大きく一人で頷き納得したあと。

「では、そろそろ昼休憩の時間だろう。お前は休憩に入れ」
「あ、はい。お疲れさまです」

 そのまま、彼の作業室がある方向とは違う、庭園の奥の方へと歩いて行ってしまった。

「何だろ?」

 遠のきつつある背中を見送りながら、エリーは彼の良く分からない行動に目を瞬かせるのだった。


* * * *




 エリーのデザイン画の束を小脇に挟みつつ、庭の奥へ歩いていたディノスは、そこで一人の人影を見つけた。

「――居た。あぁ、ランチ中か」

 探していたのは、人気の無い庭端のほとりで、木陰に腰かけ藤のランチボックスを広げている人物だ。
 近寄って行くとはっきりと見えるようになる、金髪に様々なカラフルな色のメッシュを入れている、派手な髪。
 そのうえ着ている服も様々な色を使い、個性的な柄布やリボンを組み合わせた、目立つ上に変わったものだ。
 華やかな恰好に加えて化粧もばっちり。
 そんな恰好なうえ、中世的な容姿なので性別を見分けるのは難しいが、いちおう生物学所は男だ。

 彼はこの城の服飾部代表であるディノスとは同期であり、国の裁縫師としてナンバー2の立ち位置に居る存在。
 彼の前に歩いて行ったディノスは、おもむろに声をかける。

「ブロッサム」
「はい? わざわざ休憩中にこんなところまで探しに来てくれたの? もしかして愛の告白? いやーん、困るわぁ」

 くねくねと身体を捩らせ、化粧をした顔をぽっと赤らめているが、声は低い。口調も女っぽい。しかし男だ。
 
「馬鹿言え」 
「ふふっ。で? ほんとは何の用?」

 目を愉快そうに細めて、ブロッサムは聞いて来る。

「……これを」

 ディノスは彼の隣に腰かけつつ、おもむろに持っていた紙の束を彼へ手渡した。

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