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「エリーは王族の方々の華やかな衣装を作りたくてここに来たって言ってたでしょ? ここで思いっきり箔をつけて、上に登ってやりなさい! 誰もが認める素敵なドレスを作ってみせて、今度は王妃様や姫君方に指名して貰うんだってくらいの気合いでねっ!」
 
 励ましの言葉と同時にポンッと、背中を叩かれた。

「シンシアさん。――有り難うございます! 私、頑張って素敵なドレス作ります!」
「期待しているわ」

 エリーが思っていた以上に、シンシアは仲間想いな良い先輩だったようだ。



* * * *



 神龍の巫女である美湖のパーティードレスを担当することになったその日の夜。
 仕事から家に帰ったエリーは、ベッドの下に頭を突っ込んでいた。
 暗い視界の中、捜し物を求めて手を探らせる。

「あ、あった! んー……よっこいしょお!」

 力を込めて引っ張り出したのは、中に紙の束が入った木の箱だ。
 紙はかなりの量なので重さも結構なものだった。
 
「とりあえず、全部だしてより分けちゃお」

 箱の中の紙を、床の上に敷いたラグに適当に広げていく。

「お姉ちゃん、おかえりなさーい」

 そこへ扉を開いてひょっこり顔を出したは、この家の末っ子のマーシュだった。
 六歳の彼は、同年代の子よりもふくよかな体型だ。
 性格ものんびり屋で、エリーの顔を見るなり、ふにゃりと嬉しそうに顔を緩ませた。

「ただいま、マーシュ」
「お姉ちゃん。お姉ちゃんだぁ」

 エリーが仕事を始めてから、マーシュが寝た後の時間になって帰宅する生活になっていた。
 だから今は十日に一度の休み以外、ほとんど顔を合わせられないでいる。

「お姉ちゃんのお顔みれて、うれしいなぁ」
「まぁ。私も嬉しいわ。相変わらずマーシュはいい子ね。大好きよ」
「えへへー」

 数日ぶりに会う姉の姿に、マーシュはこうして手放しで喜んでくれる。
 生意気なばかりのもう一人の弟のブランとは、まったくもって大違いな反応だ。

 おさがりの少し大き目の寝間着を着た彼は、ゆっくりとした足取りで、エリーの隣に歩いてきた。
 そしてそのまま、当たり前のようにラグに座っていたエリーの膝の上に乗ってしまう。

「マーシュ、まだ寝てなくて大丈夫なの?」
「きょー、お昼寝、いっぱいしたからっ」

 ぱっちり目を開けた弟は、どうやら完全に目が覚めてしまっているらしい。

(結構、遅い時間なのになぁ。早く寝かさないと、明日の朝起きられなくなっちゃう)

 エリーは同じ方向を向く形で乗っているマーシュのお腹に手を回す。
 柔らかな身体を抱き抱えながら、手で優しくお腹のあたりをポンポンと叩いてリズムをとった。
 同時にゆっくり体を揺らしつつ、とにかく彼が眠くなるまでの間、あやしつつ付き合うことにする。
 
「んふふふー」

 嬉しそうに甘えながら、マーシュはエリーに頭を摺り寄せて来た。
 エリーのほっぺにふわふわの茶色いクセッ毛が触れて、少しこそばゆいけれど、柔らかくて暖かくて、気持ちも優しく柔らかくなってくる。

 ……エリーは珍しい桃色の髪だが、マーシュを含めた他の家族はみんな茶色い髪だ。
 亡くなった祖母の一族が桃色だったらしいので、隔世遺伝というやつだろう。
 そんな髪をすり寄せてきながら、マーシュは上半身だけを振り返らせ、上目遣いでエリーを見つめた。

「ねー、お姉ちゃん」
「なあに?」
「これ、なーに?」

 子供ならではのフクフクの手が、広げられた紙を指す。
 エリーは彼のお腹を叩いていた手を離すと、その手で紙を一枚拾って彼に渡した。

「デザインを描いた紙よ」

 広げていたのは、エリーが子供のころから描き溜め続けていたデザイン画。
 ドレスや刺繍、編みものなど、こんなものを作ってみたい。
 こんなのが有ったら可愛いと、想像して描いてきたものだ。
 確か六歳か七歳くらいから始めたから、相当な量になっている。
 実はさっき引っ張り出した箱以外にも、まだまだデザイン画が詰まった箱がいくつもあるのだ。

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