19 / 46
19
しおりを挟む
「エリーは王族の方々の華やかな衣装を作りたくてここに来たって言ってたでしょ? ここで思いっきり箔をつけて、上に登ってやりなさい! 誰もが認める素敵なドレスを作ってみせて、今度は王妃様や姫君方に指名して貰うんだってくらいの気合いでねっ!」
励ましの言葉と同時にポンッと、背中を叩かれた。
「シンシアさん。――有り難うございます! 私、頑張って素敵なドレス作ります!」
「期待しているわ」
エリーが思っていた以上に、シンシアは仲間想いな良い先輩だったようだ。
* * * *
神龍の巫女である美湖のパーティードレスを担当することになったその日の夜。
仕事から家に帰ったエリーは、ベッドの下に頭を突っ込んでいた。
暗い視界の中、捜し物を求めて手を探らせる。
「あ、あった! んー……よっこいしょお!」
力を込めて引っ張り出したのは、中に紙の束が入った木の箱だ。
紙はかなりの量なので重さも結構なものだった。
「とりあえず、全部だしてより分けちゃお」
箱の中の紙を、床の上に敷いたラグに適当に広げていく。
「お姉ちゃん、おかえりなさーい」
そこへ扉を開いてひょっこり顔を出したは、この家の末っ子のマーシュだった。
六歳の彼は、同年代の子よりもふくよかな体型だ。
性格ものんびり屋で、エリーの顔を見るなり、ふにゃりと嬉しそうに顔を緩ませた。
「ただいま、マーシュ」
「お姉ちゃん。お姉ちゃんだぁ」
エリーが仕事を始めてから、マーシュが寝た後の時間になって帰宅する生活になっていた。
だから今は十日に一度の休み以外、ほとんど顔を合わせられないでいる。
「お姉ちゃんのお顔みれて、うれしいなぁ」
「まぁ。私も嬉しいわ。相変わらずマーシュはいい子ね。大好きよ」
「えへへー」
数日ぶりに会う姉の姿に、マーシュはこうして手放しで喜んでくれる。
生意気なばかりのもう一人の弟のブランとは、まったくもって大違いな反応だ。
おさがりの少し大き目の寝間着を着た彼は、ゆっくりとした足取りで、エリーの隣に歩いてきた。
そしてそのまま、当たり前のようにラグに座っていたエリーの膝の上に乗ってしまう。
「マーシュ、まだ寝てなくて大丈夫なの?」
「きょー、お昼寝、いっぱいしたからっ」
ぱっちり目を開けた弟は、どうやら完全に目が覚めてしまっているらしい。
(結構、遅い時間なのになぁ。早く寝かさないと、明日の朝起きられなくなっちゃう)
エリーは同じ方向を向く形で乗っているマーシュのお腹に手を回す。
柔らかな身体を抱き抱えながら、手で優しくお腹のあたりをポンポンと叩いてリズムをとった。
同時にゆっくり体を揺らしつつ、とにかく彼が眠くなるまでの間、あやしつつ付き合うことにする。
「んふふふー」
嬉しそうに甘えながら、マーシュはエリーに頭を摺り寄せて来た。
エリーのほっぺにふわふわの茶色いクセッ毛が触れて、少しこそばゆいけれど、柔らかくて暖かくて、気持ちも優しく柔らかくなってくる。
……エリーは珍しい桃色の髪だが、マーシュを含めた他の家族はみんな茶色い髪だ。
亡くなった祖母の一族が桃色だったらしいので、隔世遺伝というやつだろう。
そんな髪をすり寄せてきながら、マーシュは上半身だけを振り返らせ、上目遣いでエリーを見つめた。
「ねー、お姉ちゃん」
「なあに?」
「これ、なーに?」
子供ならではのフクフクの手が、広げられた紙を指す。
エリーは彼のお腹を叩いていた手を離すと、その手で紙を一枚拾って彼に渡した。
「デザインを描いた紙よ」
広げていたのは、エリーが子供のころから描き溜め続けていたデザイン画。
ドレスや刺繍、編みものなど、こんなものを作ってみたい。
こんなのが有ったら可愛いと、想像して描いてきたものだ。
確か六歳か七歳くらいから始めたから、相当な量になっている。
実はさっき引っ張り出した箱以外にも、まだまだデザイン画が詰まった箱がいくつもあるのだ。
励ましの言葉と同時にポンッと、背中を叩かれた。
「シンシアさん。――有り難うございます! 私、頑張って素敵なドレス作ります!」
「期待しているわ」
エリーが思っていた以上に、シンシアは仲間想いな良い先輩だったようだ。
* * * *
神龍の巫女である美湖のパーティードレスを担当することになったその日の夜。
仕事から家に帰ったエリーは、ベッドの下に頭を突っ込んでいた。
暗い視界の中、捜し物を求めて手を探らせる。
「あ、あった! んー……よっこいしょお!」
力を込めて引っ張り出したのは、中に紙の束が入った木の箱だ。
紙はかなりの量なので重さも結構なものだった。
「とりあえず、全部だしてより分けちゃお」
箱の中の紙を、床の上に敷いたラグに適当に広げていく。
「お姉ちゃん、おかえりなさーい」
そこへ扉を開いてひょっこり顔を出したは、この家の末っ子のマーシュだった。
六歳の彼は、同年代の子よりもふくよかな体型だ。
性格ものんびり屋で、エリーの顔を見るなり、ふにゃりと嬉しそうに顔を緩ませた。
「ただいま、マーシュ」
「お姉ちゃん。お姉ちゃんだぁ」
エリーが仕事を始めてから、マーシュが寝た後の時間になって帰宅する生活になっていた。
だから今は十日に一度の休み以外、ほとんど顔を合わせられないでいる。
「お姉ちゃんのお顔みれて、うれしいなぁ」
「まぁ。私も嬉しいわ。相変わらずマーシュはいい子ね。大好きよ」
「えへへー」
数日ぶりに会う姉の姿に、マーシュはこうして手放しで喜んでくれる。
生意気なばかりのもう一人の弟のブランとは、まったくもって大違いな反応だ。
おさがりの少し大き目の寝間着を着た彼は、ゆっくりとした足取りで、エリーの隣に歩いてきた。
そしてそのまま、当たり前のようにラグに座っていたエリーの膝の上に乗ってしまう。
「マーシュ、まだ寝てなくて大丈夫なの?」
「きょー、お昼寝、いっぱいしたからっ」
ぱっちり目を開けた弟は、どうやら完全に目が覚めてしまっているらしい。
(結構、遅い時間なのになぁ。早く寝かさないと、明日の朝起きられなくなっちゃう)
エリーは同じ方向を向く形で乗っているマーシュのお腹に手を回す。
柔らかな身体を抱き抱えながら、手で優しくお腹のあたりをポンポンと叩いてリズムをとった。
同時にゆっくり体を揺らしつつ、とにかく彼が眠くなるまでの間、あやしつつ付き合うことにする。
「んふふふー」
嬉しそうに甘えながら、マーシュはエリーに頭を摺り寄せて来た。
エリーのほっぺにふわふわの茶色いクセッ毛が触れて、少しこそばゆいけれど、柔らかくて暖かくて、気持ちも優しく柔らかくなってくる。
……エリーは珍しい桃色の髪だが、マーシュを含めた他の家族はみんな茶色い髪だ。
亡くなった祖母の一族が桃色だったらしいので、隔世遺伝というやつだろう。
そんな髪をすり寄せてきながら、マーシュは上半身だけを振り返らせ、上目遣いでエリーを見つめた。
「ねー、お姉ちゃん」
「なあに?」
「これ、なーに?」
子供ならではのフクフクの手が、広げられた紙を指す。
エリーは彼のお腹を叩いていた手を離すと、その手で紙を一枚拾って彼に渡した。
「デザインを描いた紙よ」
広げていたのは、エリーが子供のころから描き溜め続けていたデザイン画。
ドレスや刺繍、編みものなど、こんなものを作ってみたい。
こんなのが有ったら可愛いと、想像して描いてきたものだ。
確か六歳か七歳くらいから始めたから、相当な量になっている。
実はさっき引っ張り出した箱以外にも、まだまだデザイン画が詰まった箱がいくつもあるのだ。
12
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~
蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。
【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。
王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
私の騎士がバグってる! ~隣国へ生贄に出された王女は、どうにか生き延びる道を探したい~
紅茶ガイデン
恋愛
セダ王国の王女リディアは、かつての敵国であった隣国ラダクール王国の王太子と婚約していた。そして婚前留学をするよう命じられたリディアの元に、護衛騎士となる男が挨拶に訪れる。
グレイ・ノアールと名乗った男の顔を見て、リディアは不思議な気分になった。
あれ、私この顔をどこかで見たことがあるような?
その事に気付いて倒れてしまったリディアは、この時に前世の記憶を蘇らせてしまう。
ここが昔遊んだ乙女ゲームの世界であること、推しキャラだったリディアの護衛騎士、クレイに殺される運命にあることに気が付いて途方に暮れる。
でも、ちょっと待って。グレイって誰?
リディアの護衛騎士はクレイ・モアールだったよね?
そこでリディアは嫌なことに気付いてしまった。
あの乙女ゲームには、クレイだけに起きる致命的なバグ、「バグレイ」というものが存在していたことを。
*タイトルはこんな感じですが、シリアスなお話です。
*他の小説サイトでも投稿しています。
転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
王命なんて・・・・くそくらえですわ
朝山みどり
恋愛
ティーナは王宮薬師の下っ端だ。地下にある自室でポーションを作っている。自分ではそれなりの腕だと思っているが、助手もつけてもらえず一人で働いていた。
そんなティーナが王命で公爵と結婚することになった。驚くティーナに王太子は公爵がひとめぼれからだと言った。
ティーナだって女の子。その言葉が嬉しいし、婚姻届にサインするとき会った公爵はとても素敵だった。
だが、それからすぐに公爵は仕事だとかで一度も会いに来ない。
そのうえ、ティーナの給料の大半が公爵家に渡される事になった。ティーナにはいるのは端数の部分だ。
お貴族様っていうのはほんとに民から金とるしか考えてないねとティーナは諦めて休みの日も働いて食いつないだ。
だが、ある日ティーナがプッツンとなる出来事が起きた。
働いたって取り上げられるなら、働くもんかと仕事をやめて国一番の歓楽街のある町に向かう事にした。
「わたしは都会が似合う女だからね」
やがて愛しいティーナに会えると戻ってきたジルフォードは愕然とする。
そしてすぐに追いかけたいけどそれも出来ずに・・・・
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
恋愛
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる