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第十五話
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息を切らしてリカルドが自宅であるグランメリエ侯爵邸へ帰宅したのは、まだ夕刻前のことだった。
普段は日付を超えた深夜に帰宅する主人の思いがけない帰宅に、使用人たちは慌てて玄関に駆けつけて出迎えた。
「まぁ、本日はお早いのですね。おかえりなさいませ、旦那様」
しかしそんな使用人たちの声は聞こえないのか、リカルドは答えることもせず、玄関を足早に通り過ぎる。
「旦那様?!」
ただならぬ主人の様子に、使用人たちは後を追うこともできなかった。
もともと近づきがたい顔なのに、今日はさらに近づきにくい雄々しいオーラを迸らせている。
屋敷に仕えている者達はすでに主人が無暗やたらと怒るような人物でないと分かっていたが、それでも関わりたくないと思うほどに、リカルドから来る無言の圧迫感は大きかったのだ。
まずリカルドが向かったのは、ティナが好きなように使えるように用意した一番日当たりのよい2階の角部屋だ。
勢いよく扉を開いて、妻の名を呼ぶ。
「ティナ!!」
しかしそこには、ティナの姿は無かった。
居たのはティナに付けた侍女、神秘的な黒い髪と瞳が印象的なロザリー。
どうやら部屋の片づけをしていたようで、ふきんを手に持ったままの状態だ。
(……?)
部屋を見渡して、リカルドは不可思議な違和感に首をひねる。
閑散としていて、室内が少し寂しい感じがした。
どうやら物が一気に減っているようだ。
ただの日常の掃除にしては片付けすぎではいないか。
「まぁ、旦那様?どうなさいました?」
目を見開いてリカルドに向かてくるロザリーに、室内を見渡していたリカルドは目を向けた。
ロザリーが怯えたようにびくりと後ずさる。
それに気づいて、自分の顔が強張っていていつもにも増して女子供を怯えさせる表情をしているのだと自覚した。
でも今はそんなことに気をつかってやる余裕は持ち合わせてはいない。
とにかくティナと話し合わなければと、急いた口調でロザリーに尋ねる。
「ティナは?どこへ行った」
「……ティナ様、ですか」
とたんに曇ったロザリーの表情に、リカルドは胸騒ぎを覚える。
片付きすぎた部屋といい、なんだかおかしい。
焦燥感から、リカルドは無意識に言葉を荒げてしまう。
「どうした。どこに居るんだ。お前なら知っているだろう!」
「は…はい…実は、ティナ様よりこれをお預かりしております」
ロザリーが示した封書に書かれた文字に、リカルドは絶句した。
封書を開くまでもなく、宛名を書くべき場所に『離縁状』と書かれている。
普段は日付を超えた深夜に帰宅する主人の思いがけない帰宅に、使用人たちは慌てて玄関に駆けつけて出迎えた。
「まぁ、本日はお早いのですね。おかえりなさいませ、旦那様」
しかしそんな使用人たちの声は聞こえないのか、リカルドは答えることもせず、玄関を足早に通り過ぎる。
「旦那様?!」
ただならぬ主人の様子に、使用人たちは後を追うこともできなかった。
もともと近づきがたい顔なのに、今日はさらに近づきにくい雄々しいオーラを迸らせている。
屋敷に仕えている者達はすでに主人が無暗やたらと怒るような人物でないと分かっていたが、それでも関わりたくないと思うほどに、リカルドから来る無言の圧迫感は大きかったのだ。
まずリカルドが向かったのは、ティナが好きなように使えるように用意した一番日当たりのよい2階の角部屋だ。
勢いよく扉を開いて、妻の名を呼ぶ。
「ティナ!!」
しかしそこには、ティナの姿は無かった。
居たのはティナに付けた侍女、神秘的な黒い髪と瞳が印象的なロザリー。
どうやら部屋の片づけをしていたようで、ふきんを手に持ったままの状態だ。
(……?)
部屋を見渡して、リカルドは不可思議な違和感に首をひねる。
閑散としていて、室内が少し寂しい感じがした。
どうやら物が一気に減っているようだ。
ただの日常の掃除にしては片付けすぎではいないか。
「まぁ、旦那様?どうなさいました?」
目を見開いてリカルドに向かてくるロザリーに、室内を見渡していたリカルドは目を向けた。
ロザリーが怯えたようにびくりと後ずさる。
それに気づいて、自分の顔が強張っていていつもにも増して女子供を怯えさせる表情をしているのだと自覚した。
でも今はそんなことに気をつかってやる余裕は持ち合わせてはいない。
とにかくティナと話し合わなければと、急いた口調でロザリーに尋ねる。
「ティナは?どこへ行った」
「……ティナ様、ですか」
とたんに曇ったロザリーの表情に、リカルドは胸騒ぎを覚える。
片付きすぎた部屋といい、なんだかおかしい。
焦燥感から、リカルドは無意識に言葉を荒げてしまう。
「どうした。どこに居るんだ。お前なら知っているだろう!」
「は…はい…実は、ティナ様よりこれをお預かりしております」
ロザリーが示した封書に書かれた文字に、リカルドは絶句した。
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