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4 運命を受け入れましょう
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ゲームのエリーゼはドSだった。
だから、誰かを罵るだなんて自分の立場が悪くなるだけだと理解していても。
あの虐めがいのあるヒロインを虐めることをやめられなかったのだ。
「お姉さま? 黙り込んでしまって、いかがされましたか? やはりお加減が悪いのでは」
自分の性癖を理解してしまった衝撃に打ちのめされているエリーゼに、ベッドを囲む少女の一人が一歩前へでて、身をかがめ、心配そうに顔を覗き込んでくる。
肩につかない程度の茶色の髪を赤いリボンで飾った、垂れ目でおっとりとした雰囲気が特徴の子。
たしか同級生でクラスメイトだ。
「……心配なんていらないわ。余計なお世話よ」
しかし心配して掛けてくれた優しさにも、エリーゼはツンっとそっぽを向いて辛辣な台詞を吐き捨てた。
「も、申し訳ありません」
エリーゼに声をかけて来たその少女は縮み上がってしまった。
プルプルと震えている。
エリーゼは横目でその様子を眺め楽しむ。
ふわふわ可愛い小動物系の乙女が、冷たく当たられて頬を赤く染め震える様は、やっぱりどうしてもエリーゼの胸をくすぐるのだ。
目元に涙をためて見つめて来る瞳の、なんと愛らしいことか。
「お、おねえさま……本当に、申し訳ありません。どうか、どうか見捨てないでくださいませ。お姉さまに嫌われてしまっては、私はもうどうすればいいのか……」
胸の前で両手を絡ませ、涙目でエリーゼへ訴えてくる。
「そうねぇ……」
あからさまに冷えた溜め息を吐いて見せながら、エリーゼは手をシーツについて身を起こした。
そして、ゆっくりと。目の前で震える彼女に手を伸ばした。
エリーゼは白く長い指で、赤く染まる彼女の頬をそっと包む。
「っ、おおおおおおねえさま!」
びくりと身体を大きく跳ねさせたが、彼女はすぐにとろけるように目元を下げる。
エリーゼは彼女に身を寄せ、耳元に顔を近づける。
そうして容姿と同じく氷の様だと評されている冷たい声で、吐息とともに囁いた。
「ねぇ、アンナ」
「わ、わたくしの名前を!?」
「もちろん、知っているわ。クラスメイトですもの。なによりひときわ愛らしい子猫の名前を、覚えないわけがないでしょう?」
「つっ……こ、光栄です!」
茶色い瞳を潤ませて涙を浮かべるアンナという少女に、エリーゼは冷たく微笑んでみせた。
とても冷静に優雅な仕草と口調で対応しているが、しかし内心は大変なことになっている。
(ああぁぁ、どうしよう。ヒロインのサクラも良かったけど、この子、アンナの反応もいいなぁ。虐めるとプルプル震えて、褒めるととたんにパッと嬉しそうにするの。表情がコロコロ変わってすごく楽しい。飴と鞭の使い分け重要だ! すっごく楽しいよ……!)
ドS気質のエリーゼにとって、赤くなって震える子羊や子兎のような少女たちを侍らすことは幸せ以外の何物でもない。
(うん。まぁ、もうルート修正出来そうにもないし。思いっきり楽しもうかな。国外追放ってだけで、死ぬわけじゃないし。何とかなるなる、うん)
エリーゼは、あっさりと運命に抵抗することを諦めた。
ほんの少しゲームと違う所があるものの、シナリオ自体はゲーム通りに進んでいる。それは間違い無い。
この他人を虐げて喜ぶ性格のために、近い将来自分は破滅するだろう。
後で苦労するのだと分かっていても、今目の前にある快楽を捨てる事がどうしても出来なかったのだ。
せめて最後の最後まで悔いの残らない様にヒロインと、この少女たちを苛めて楽しもうと、エリーゼは固く心に決めたのだった。
だから、誰かを罵るだなんて自分の立場が悪くなるだけだと理解していても。
あの虐めがいのあるヒロインを虐めることをやめられなかったのだ。
「お姉さま? 黙り込んでしまって、いかがされましたか? やはりお加減が悪いのでは」
自分の性癖を理解してしまった衝撃に打ちのめされているエリーゼに、ベッドを囲む少女の一人が一歩前へでて、身をかがめ、心配そうに顔を覗き込んでくる。
肩につかない程度の茶色の髪を赤いリボンで飾った、垂れ目でおっとりとした雰囲気が特徴の子。
たしか同級生でクラスメイトだ。
「……心配なんていらないわ。余計なお世話よ」
しかし心配して掛けてくれた優しさにも、エリーゼはツンっとそっぽを向いて辛辣な台詞を吐き捨てた。
「も、申し訳ありません」
エリーゼに声をかけて来たその少女は縮み上がってしまった。
プルプルと震えている。
エリーゼは横目でその様子を眺め楽しむ。
ふわふわ可愛い小動物系の乙女が、冷たく当たられて頬を赤く染め震える様は、やっぱりどうしてもエリーゼの胸をくすぐるのだ。
目元に涙をためて見つめて来る瞳の、なんと愛らしいことか。
「お、おねえさま……本当に、申し訳ありません。どうか、どうか見捨てないでくださいませ。お姉さまに嫌われてしまっては、私はもうどうすればいいのか……」
胸の前で両手を絡ませ、涙目でエリーゼへ訴えてくる。
「そうねぇ……」
あからさまに冷えた溜め息を吐いて見せながら、エリーゼは手をシーツについて身を起こした。
そして、ゆっくりと。目の前で震える彼女に手を伸ばした。
エリーゼは白く長い指で、赤く染まる彼女の頬をそっと包む。
「っ、おおおおおおねえさま!」
びくりと身体を大きく跳ねさせたが、彼女はすぐにとろけるように目元を下げる。
エリーゼは彼女に身を寄せ、耳元に顔を近づける。
そうして容姿と同じく氷の様だと評されている冷たい声で、吐息とともに囁いた。
「ねぇ、アンナ」
「わ、わたくしの名前を!?」
「もちろん、知っているわ。クラスメイトですもの。なによりひときわ愛らしい子猫の名前を、覚えないわけがないでしょう?」
「つっ……こ、光栄です!」
茶色い瞳を潤ませて涙を浮かべるアンナという少女に、エリーゼは冷たく微笑んでみせた。
とても冷静に優雅な仕草と口調で対応しているが、しかし内心は大変なことになっている。
(ああぁぁ、どうしよう。ヒロインのサクラも良かったけど、この子、アンナの反応もいいなぁ。虐めるとプルプル震えて、褒めるととたんにパッと嬉しそうにするの。表情がコロコロ変わってすごく楽しい。飴と鞭の使い分け重要だ! すっごく楽しいよ……!)
ドS気質のエリーゼにとって、赤くなって震える子羊や子兎のような少女たちを侍らすことは幸せ以外の何物でもない。
(うん。まぁ、もうルート修正出来そうにもないし。思いっきり楽しもうかな。国外追放ってだけで、死ぬわけじゃないし。何とかなるなる、うん)
エリーゼは、あっさりと運命に抵抗することを諦めた。
ほんの少しゲームと違う所があるものの、シナリオ自体はゲーム通りに進んでいる。それは間違い無い。
この他人を虐げて喜ぶ性格のために、近い将来自分は破滅するだろう。
後で苦労するのだと分かっていても、今目の前にある快楽を捨てる事がどうしても出来なかったのだ。
せめて最後の最後まで悔いの残らない様にヒロインと、この少女たちを苛めて楽しもうと、エリーゼは固く心に決めたのだった。
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