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蓮華強奪

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オレは、泣き謝る撫子を落ち着かせる様に背中を摩(さす)る。よく見ると服がボロボロなだけでなく、左手には血の滲んだ手拭いが巻かれている。撫子が傷を負って来るなんて余程の事があったのだろう。それに桜がいない事も気になる。オレは、撫子の顔を見ると
「謝らなくていい、泣かなくていいよ。この姿を見れば分かる。撫子は、頑張ったんだから。」
と声をかけた。撫子は、その言葉に無言で頷く。オレは、撫子の頬に残る涙を拭くと
「落ち着いたら教えてほしい。蓮華の事、それに桜の事も。」
と話した。撫子は、唇を噛み締め、何度か頷くと俯きながら丘での出来事を話し始めた。

3時間前 一本杉の丘
オレと朱李が里に向かってから暫くして馬に乗った一馬が現れた。そして、撫子達の目の前に近づくと
「お前達、こんな所に居たのか。此処は、やばい。早く離れろ。クレア様は、オレが連れて行くからこの馬に乗せろ。」
と命令した。急な一馬の登場に撫子も桜も警戒を強め、武器を構えると
「何言ってるの。永遠様にも言われたでしょ。貴方に蓮華は渡さないわ。さっさと失せない。」
と言って、蓮華を隠すように立ちはだかった。だが、一馬は、語気を強めると
「馬鹿かお前ら。そんな事言ってる場合じゃないんだよ。あの爆発を見なかったのか?イヴァイルがクレア様を狙ってるんだ。早くしろ。」
と再び撫子達に命令した。撫子達の頭に先程の爆発が過ぎる。だが、一馬の威圧的な態度に反発する様に撫子達は、武器を下さなかった。撫子達の強固な態度に一馬は、頭を掻き乱すと
「ゔぁぁ。分かった、分かったよ。俺が悪かった、悪かったから。とりあえず此処から離れてくれ。クレア様が捕まったらお終いなんだ。」
と言って、頭を下げた。一馬の必死な様子に撫子は、ようやく武器を下げると
「分かったわ。でも、貴方に蓮華は預けられない。安全な場所まで私達を連れてて。」
と提案した。一馬は、ため息をつくと
「…ぁぁ、分かったよ。」
と渋々承諾した。そして、馬を降りると
「悪いが馬は一頭だ。クレア様には、馬に乗ってもらう。だが、俺が一緒だと駄目なんだろ。お前達のどちらかが馬に乗れよ。」
と言ってきた。一馬の妥当な提案に撫子と桜は、目を合わせると撫子が頷き、
「私が乗るわ。」
と答えた。一馬は、その言葉を聞くと馬の手綱(たずな)を持って
「じゃあ、早く乗ってくれ。時間がないんだ。」
と撫子を急(せ)かした。撫子は、鐙(あぶみ)に足をかけると颯爽(さっそう)と馬に乗り、桜から蓮華を受けとると馬に乗せた。一馬は、蓮華が馬に乗ったのを確認すると桜に
「おい、お前。あの荷物はいいのか?」
と聞いてきた。一馬の唐突な問いに桜は、
「あっ、忘れてた。」
と言って、荷物に近づいた。その時だった。
「桜、荷物は…」
と撫子が桜に声をかけたその瞬間、
(チクッ)
撫子の足に何かが刺さった。
「えっ…」
急に身体の力が抜ける撫子。撫子は、何とか意識を保つ為に唇を噛むと
「くっ。…貴様ぁぁ!!」
と言って、一馬に薙刀を振り下ろした。だが、一馬は、その一撃を躱すと薙刀を掴み、そのまま撫子を馬から引き落とした。地面に落とされ、力無く倒れる撫子。その姿に蓮華は、
「撫子お姉様!」
と言って、馬から手を伸ばした。その勢いで馬から落ちそうになる蓮華だったが、一馬は、それ受け止めると撫子に刺した針と同じ物を蓮華にも刺し、意識を失わせ、そのまま馬に飛び乗った。一馬の手際の良い行動に撫子と蓮華の叫びに気づいた桜も間に合わず、一馬の乗った馬が走り出す。桜は、
「待て!蓮華ちゃんを返せ!」
と言って、風の刃を一馬に向けるが、巧みに馬を操る一馬と抱えられた蓮華の姿に放つ事ができなかった。何もできない桜に愉悦を感じた一馬は、桜から距離をとった場所で馬をとめると
「やはりお前達は、無能だったな。何がクレア様は私達が守るだ。笑わせる。安心しろ。クレア様は、優秀な俺達が守るからよ。あー、そうそう。そこに落ちてる奴は、寝てるだけだ。此処までクレア様を運んでくれた礼だ。受け取ってくれよ。じゃあな。」
と言って、東の森の奥へと消えて行った。悔しさに拳を握る桜。
「さく…ら。」
そんな桜にか細い声で撫子が声をかける。その声に桜は、
「なぁちゃん。なぁちゃん、大丈夫。」
と撫子を抱き起こす。撫子は、朦朧とする意識を薙刀の刃を握る手の痛みで保っていた。そして、できる限りの力で桜の裾を掴むと
「桜。貴方は、蓮華を追って。」
と言った。傷つきながら意識を保つ撫子に桜が
「でも、なぁちゃん……。」
と心配するが、撫子は、桜の頬を触ると
「私は、大丈夫。彼奴が言った通り、これは、命を奪う毒じゃない。少し休めば何とかなるわ。それより今は、蓮華よ。蓮華を救えるのは、桜、貴方だけなの。だから、行って。」
と返した。撫子の言葉に桜は、頷くと
「分かった、なぁちゃん。私、行くね。」
と言って立ち上がった。撫子は、それを見ると
「お願いね、桜。でも、気をつけて。彼奴は、何をしてくるか分からない。危ないと思ったら自分の命を優先するのよ。それとこれを」
と言って、丸い玉を渡した。そして、
「私は、動けるようになったら永遠様を呼びに行くわ。必ず永遠様と一緒に貴方達を迎えに行くから、それで場所を知らせてちょう…だい。」
と言うと気を失った。桜は、撫子を一本杉の麓(ふもと)に寝かすと撫子の傷ついた手に自分の手拭いを巻いた。そして、
「行ってくるね、なぁちゃん。」
と呟くと一馬達が消えて行った森に向かって走り出した。
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