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それぞれの葬

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リリアナが去ると再び風精霊がオレ達に語りかけてきた。
(…我が主人の命により、あなた達の生命は取りません。ただし、この屍の処理に手を貸しなさい。)
『何故だろう。リリアナ様よりこの風精霊の方が強気なのは…』
(何か?)
オレの考えを読んだのか、風精霊が絡んでくる。
(いいえ、何でもないです。)
オレの返答に風精霊は、まだ不満そうな態度を見せながらも
(まあ、いいでしょう。そこの娘達も面をあげなさい。)
と言って、オレ達の頭上へと浮上していった。撫子達は、風精霊の言葉に頭を上げるが、まだ畏れているのか、オレの後ろに控えている。浮上した風精霊は、周囲を確認する。そして、朱李を見つけると
(あの娘は、あなた達の仲間ですか?そうでなければ、始末しますが)
とオレに尋ねてきた。風精霊の物騒な問い。オレの返答を待たずして風精霊は、既に朱李に風の刃を向けている。その緊迫した状況に桜がオレの腕を掴む。オレは、腕を掴む桜の手を触ると
「分かってるよ。」
と一言返し、風精霊に
(その娘もオレ達の仲間です。)
と返答した。風精霊は
(そうですか。)
と言って、朱李に向けた風の刃を消していった。そして、改めて周囲を確認すると
(それでは、始めましょうか。)
と言って、淡々と話を進めていった。
(これだけの屍です。放置すれば、腐敗し、森を汚します。何とかしなさい。)
(………。)
しばらくの沈黙。
(どうしたのですか?早くしなさい。)
(……?早くしなさいって。何か指示はないんですか?こうするとか、ああするとか?というか、最初にオレ達も此処の糧になれとか言ってませんでした?あの後どうするつもりだったんですか?)
オレの質問攻めに風精霊は、動揺した様に上空でウロウロし始める。そして、音量を下げて
(それは、私の能力で細切れにすれば何とかなるかなと…)
と呟く。今までの風精霊とは違う態度にどう見たらいいのか分からない。そんなオレ達の視線に気付いたのか、風精霊は、急にオレ達の目の前まで降りてきて
(だいたい予想外に多かったんです。あなた達が1部族くらい殲滅させるから。だから、責任とって下さい。)
と言って、開き直った。
『完全にノープランだった…』
(……それが何か?)
オレ達の心を読んで再び風精霊が反論する。オレ達は、風精霊に首を振ると4人で集まった。
「永遠様。この際ですし、私の魔法で丸ごと焼却しましょうか?」
「でも、あの数だよ。なぁちゃんの魔法で燃やしたら、森も燃えちゃうんじゃない?」
「それは、まずいわね。精霊様のいる前で森を燃やしたら、今度こそ生きて帰れないですわ。」
「それに永遠ちゃんのあの魔法、あれって溶かせるの?いちお普通の氷っぽいけど。」
風精霊のポンコツぶりを目の当たりにしたせいか、撫子と桜の緊張が解けたようにみえる。刻々と時間が過ぎるが、なかなか結論が出ない。風精霊が言うようにこれだけの屍を処理するのは、苦労しそうだ。その時だった。蓮華がオレの手を掴む。
「永遠様。死んだ人は、お墓…がいいと思う。」
蓮華の言葉にハッとさせられる。命を奪いに来た敵を弔うという発想がなかった。それも命を狙われた本人から出た言葉。オレが蓮華を誉めようとするとその前に桜が蓮華を抱きしめて
「そうだね、蓮華ちゃん。えらいね。」
と応えた。桜の胸に包まれる蓮華。もうオレの入る隙間がない。オレは、平静を保つかのように
「そうだな。蓮華の言う通り埋めてしまおう。」
と言って、改めて豚人族達の屍の山を見た。
「永遠様、いけそうですか?」
撫子がオレの顔を覗いて聞いてくる。オレは
「おそらく、ソルアの応用で穴を創る事はできると思う。あとは大きさかな。」
と答えた。オレの言葉に撫子は、
「それなら落とした屍は、私が燃やしちゃいます。落とした後なら周りに燃え広がる心配もないでしょうし。それと氷漬けなっているのは、桜と精霊様に細切れにでもしてもらえれば、穴も大きくしなくて大丈夫ではないでしょうか。」
と提案した。オレは、撫子の提案に頷くと地に手を着いた。頭に魔法の言葉は浮かんでこない。未来の経験で穴を創る事は無かったのだろう。完全にオレの創造力による魔法。オレは、目を瞑り、集中すると、できるだけ豚人族達の屍があった場所を沈ませるイメージで手に力を込めた。
(ズズズズズズズズズっ……。)
「永遠様!」
撫子が咄嗟に呼びかける。撫子の言葉に集中が途切れ、オレが目を開けるとオレの前には、六畳程ではあるが、十数メートルはある大穴が開いていた。
「永遠ちゃん、やりすぎだよ。」
桜がビックリして怯える蓮華を抱きしめながらオレを叱る。風精霊も気持ち引いている気がする。だが、もう戻せない。撫子は、呆れた様に
「もう本当に永遠様は、規格外ですわ。お婆様も土魔法を使いましたが、2メートル位が限界と言っておりましたのに。でも、これだけ大きな穴でしたら全部入りそうですわね。」
と言って、大穴を覗いた。予定とは違う形になってしまったが、オレ達は、屍の処理をし始めた。幸いだったのは、厄介そうだった大型の豚人族、ブゥトンが既に穴の底にある事だろうか。それにしても氷漬けの豚人族はともかく、他の豚人族達からは死臭が漂い始めている。まずはその屍から処理した方が良さそうだ。大穴から離れた屍は、オレが引きずり集め、その屍と大穴近くにあった屍を風精霊と桜が風で押し落としていく。そして、蓮華が草木を大穴に投げ入れ、撫子が火を放つ。見える限りの屍を大穴に落とし、続いて氷漬けの豚人族達の処理をしようとすると風精霊が
(まだです。あそこにも数体の屍があります。それも運んで下さい。)
と指示をする。風精霊に言われるがままに森の奥に進むと次第に死臭が強くなってくる。先程までの屍とは違う血生臭い臭い。正直、吐き気がする。そこには、撫子に焼かれた小型の豚人族2体と人の手足を握ったままの3体の豚人族の焼死体。そして、腑(はらわた)を喰い千切られ、四肢のない拓朗の遺体があった。無惨な死。これが、この世界、弱肉強食の世界で弱者に位置付けられた人族の末路なのかもしれない。オレが拓朗に手をかけようとすると
「やめて!」
と叫んで、朱李が駆け寄って来た。そして、拓朗の遺体の前に立ち塞がると
「拓朗に手を出さないで。こんな事言うのは都合がいいのかもしれない。でも、お願い…お願いします。拓朗をあんな奴等と一緒に埋めないで下さい。」
と言って、頭を下げた。朱李の切実な願いに応えてやりたいが、このままにする訳にもいかない。悩んだ末にオレは、
「分かった。この遺体は埋めない。だけど、このままにもできないし、この状態で運ぶわけにもいかない。せめて此処で火葬は行ってもらう。それでいいか?」
と答えた。朱李は、一瞬拒んだが、拓朗の無惨な遺体に目をやると無言で頷いた。オレは、ソルアで小さな火葬炉を創ると朱李と一緒に拓朗の遺体を中に入れた。朱李は、火葬炉に納まった拓朗の遺体を一度見ると
「ありがとうございます。後は、私がやりますから。」
と言って、頭を下げた。さすがのオレでも2人の関係は察する事ができる。オレは、拓朗の最期を朱李に任せ、豚人族達の屍を大穴へと引きずって行った。
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