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豚人族(オーク)襲来。

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過去を思い出し、桜が自分の胸を触る。永遠の危機は、分かっているが、授乳という行為が思春期真っ只中の桜を躊躇(ちゅうちょ)させる。
「桜。貴方、永遠様の為なら何でもするって言ったわよね。貴方が頼りなのよ。……私だって…私だって出せるなら今直ぐにでもあげたいのよ。」
涙ぐむ目で説得する撫子の姿に桜も決心して、永遠の口を自分の胸へと近づける。
「あっ、ん。」
永遠が桜の乳首に吸いつき、桜から甘い吐息が漏れる。生物の本能による不随意運動。永遠の口が桜の乳首から母乳を得ようと小刻みに動く。抑えられない昂(たかぶ)りが桜の喘(あえ)ぎ声となってタープ内にこだまする。
(じわっ)
永遠に吸われていない乳首から母乳が滲み出て、桜の下着を濡らす。
(ごくっ…ごくっ…)
母乳を飲む永遠の喉が動く。撫子は、それを確認すると桜の頭を抱きしめ
「ありがとう、桜。これできっと永遠様も大丈夫なはずよ。」
と言葉をかけた。桜は、顔を火照らせながら頷くと母乳を吸い続ける永遠の頭をグッと引き寄せた。撫子は、その姿を複雑な表情で見つめると
「永遠様の事は、頼んだわよ。私は、これから来る奴らの相手をしてくるから。」
と言って、タープの外に出た。自分の不甲斐なさと桜への嫉妬から足が重い。撫子が軽く息を吐く。
「ほんと私って嫌な女ね。」
撫子は、そう呟くとこれからの戦いに集中する為に自分の頬を叩いた。そして、目を閉じると耳を研ぎ澄ませ、周囲の状況を感じ取った。
『あっちは、距離があるけど大群ね。この状況で戦うのは、面倒だわ。問題は、後ろの監視者ね。また近づいて来ているけど、殺気は感じない。タープで蓮華の姿も隠したから機を探(さぐ)っているって所かしら。とりあえずは』
撫子は、目を開くと胸元から鉄扇を取り出して、数十メートル先の監視者に殺気を向けながら火の矢を放った。木々を潜り抜け、的確に監視者に向かうが届かない。
『残念ね。仕留めたかったのだけど。でも、これで牽制にはなったかしら』
撫子は、後ろの監視者を警戒しながら、地響きと共に近づいてくる大群に備えた。騒つく森の異変にタープから桜が出てくる。
「なぁちゃん……」
桜は、上着を整えながら、撫子を心配する。
「桜。永遠様の様子は?」
撫子の言葉に桜は、タープの中を見ると
「さっき寝たところだよ。呼吸も落ち着いてきたと思う。」
と答えた。撫子は、桜の答えを聞いて、一度頷くと
「そう。それは、良かったわ。なら、桜は、そのまま永遠様と蓮華を守ってちょうだい。私は、其方(そっち)まで気を回せそうにないから。」
と言って、鉄扇を握る手に力を込めた。
徐々に足音が大きくなる。そして、草木を荒らしながら現れたのは、豚人族(オーク)の集団だった。次々と現れる豚人族達が撫子の前に壁となって立ち塞がる。数十じゃない。先の見えない数に撫子も歯軋(はぎし)りをしてしまう。その光景に桜が
「なぁちゃん、私も…」
と言って、タープを離れようとするが、撫子は、
「桜は、そこに居なさい。」
と言って、留(とど)めさせる。そして、改めて鉄扇を握る手に力を込めると豚人族達に向けて殺気を放った。
「おう、おう。ひでぇ殺気だべ。」
そう言いながら、歩みを止めた豚人族の中から一際(ひときわ)デカい豚人族が出てきた。大型の豚人族は、前衛の部下達に武器を構えさせ、撫子を牽制すると、撫子を尻目に忍び装束の少女の前で仁王立ちした。その大型豚人族の手には、首根っこを掴まれ、ボロボロになった青年の姿がある。
「朱李(しゅり)……。」
青年が少女にか細くなった声で話しかける。青年の声に反応して朱李が意識を取り戻す。
「うっ、……。たく…ろう?…!拓朗。」
朱李は、弱りきった拓朗を目の当たりにし、助けようと踠(もが)くが、桜にキツく縛られていて身動きが取れない。そんな朱李の姿を嘲笑(あざわら)う様に大型豚人族が見下す。そして、手に持っていた拓朗を朱李の前に投げると
「残念だったべな。そん姿じゃ、もう暗殺は、無理。失敗だべ。ブヒッヒッヒ。喜べ。今日からオメエは、オラたちオークの繁殖奴隷だべ。」
と言って、大笑いした。同調した豚人族もゲラゲラと騒ぎたてる。悔しさで唇を噛みしめる拓朗。その時だった。
「うっっ、熱い。熱いよ、拓朗。」
朱李の切ない声と同時に内腿に刻まれた従紋が徐々に青白い隷紋へと変わっていった。朱李の悲痛な訴えに拓朗は、
「うわぁぁぁぁぁ!!」
と叫ぶと近くに落ちていた小太刀を手に取って、大型豚人族に襲いかかった。
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