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敗者は肉と化す
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オレ達が里に入ると入り口付近で大和と長門、神楽が中心となって、馬人族数名と戦っていた。純粋な力では、馬人族の方が上のようだが、数と連携、速さで大和達が圧倒していた。
『此処は、大和達に任せて大丈夫そうだ。』
オレ達は、入り口の馬人族達を大和達に任せて、火の手が上がっている民家の方へと向かった。
「きゃあぁぁ」
向かう途中、女の子の悲鳴が聞こえた。オレ達が悲鳴の方へ急いで向かうと服を剥(む)かれ倒れ込んだ苺が馬人族に詰め寄られていた。オレは、すぐさま剣を抜いて応戦しようとしたが、その前に桜が馬人族に向かって行った。
「苺ちゃんから離れろ!!」
桜の蹴りが馬人族の腹に入る。馬人族は、後ろに少し下がったが、あまり効いていないようで、蹴られた場所を手で払うと
「おう、いてぇいてぇ。威勢がいいなぁ、ねぇちゃん。」
と言って、見下した。そして、
「あん、よく見たら、武盧芭様の女じゃねぇか。上手く逃げてきたんだな。…ふんっ、丁度いい。武盧芭様のお下がりは、みんな壊れちまった後だからな。たまには、壊れる前のいい女を抱いてもバチはあたらねぇよな。」
と言って、ニヤニヤしながら、桜に近づいて行った。だが、急に馬人族の足が止まる。それは、桜が馬人族に殺意のこもった鋭い眼差しを向けながら手を翳していたからだ。
「その耳は飾りか?苺ちゃんに近づくなって言ってんだよ。」
いつもの桜の口調ではない。出会った頃の桜を見ているようだ。逆立った尻尾が桜の怒りを表している。桜が馬人族に向けていた手を握る。すると、馬人族の周囲を風が取り巻き、徐々にその勢いを増していく。
(ぷしゅっ…)
風の刃が馬人族の皮膚を切り裂いていき、風で巻き上がった血が雨の様に降ってくる。痛みに耐える馬人族の目に先程の余裕はなかった。
「このクソ女(あま)がぁ、調子にのんなぁぁ!!」
馬人族は、無理矢理風の牢獄から抜け出すと桜に襲いかかった。だが、そんな馬人族に対し、桜は、再び手を翳すと風の塊をぶつけて吹っ飛ばした。辛うじて地面に着地した馬人族に今度は、撫子が攻撃する。
「貴方こそ覚悟しなさい。私達の里に手を出したらどうなるか、身をもって知りなさい。……そして、死ね。」
撫子は、そう言い放つと馬人族を火だるまにした。苦しむ馬人族を無視して、撫子と桜は、苺に歩み寄る。
「もう大丈夫だよ。」
桜は、そう言うと涙を溢す苺に自分の着ていた上着をかける。苺は、恐怖で言葉を失ったようで、俯(うつむ)きながらも感謝を伝えるように何度も頷いた。それを見た桜が里の中央に目を向ける。
「永遠ちゃん、行こう。アイツら、絶対許さないんだから。」
桜が決意と共に立ち上がると里の中央から誰かが歩いてきた。見覚えのある姿に撫子も桜も走り出す。不知火だ。撫子と桜が不知火に抱きつく。不知火は、2人を受け止めると
「撫子、桜、無事だったのね。良かったわ。そういえば、こっちに1人行ったみたいだけど…もう片付いたみたいね。中央の奴らは、私が狩ったからもう大丈夫よ。」
と言って、2人の顔を見た。里の危機が去った事に安心したのか、撫子も桜も目が潤んでいる。そこに入り口の馬人族を排除し終えた大和達も合流した。不知火は、皆の無事を確認すると
「皆、よくやってくれました。おかげで、奴らを退かせる事ができました。ですが、里の被害は甚大です。無事な者は、負傷者を見つけ次第、中央広場に集めなさい。神楽は、何人かを選抜して、里の被害状況を確認。長門は、兵士を連れて、再度襲撃がないか、警戒にあたってちょうだい。」
と指示をした。皆が不知火の指示に従って散らばって行く。オレは、長門について里の入り口へと向かった。入り口の付近には、長門達が殺した馬人族が十数体転がっていた。そして、放置していた武盧芭も息絶えていた。長門は、部下達に指示して、馬人族達の死体を入り口の外に放り投げさせ、門番だった者達の死体を丁重に葬った。
「また襲って来ますかね、アイツら。」
オレが長門に聞くと、長門は、入り口の先を眺めて
「まず来ないでしょうな。奴らは、おそらく馬人族でも先鋭の存在だったはずです。それが敗れ、死体が無惨に放置されている。少なくとも次に来る奴らの戦意は、かなり落とされるはずです。それに奴らは、次の行動で敗北すれば、駆逐される事が分かっているはず。力を失った部族は、他の部族の食い物にされるのが、生き物としての絶対的摂理ですから。まあ、儂等の里に被害が出た以上、黙っているつもりもないですがね。」
と言った。長門の言葉を表す様に目の前に転がっている死体を源獣種や源鳥種が啄みに来ている。人型の死体が食い散らかされる様に吐き気を覚え、そして思い知らされる。
『弱肉強食。オレが生きてきた世界は、人間が頂点で生物的弱者になる事は、考えられなかった。だが、世界が変われば、人間だって弱者に位置付けられる。オレに力がなければ、あそこに転がっていたのは、オレの死体だったかもしれない。撫子と桜は、武盧芭に玩具の様に弄ばれていたかもしれない。オレは、大切な者を守る為に強者でいられるだろうか…。』
オレが物思いに耽っていると長門は、兵士達が持ってきた麻袋の中身を確認していた。颯の変わり果てた姿を見て、長門は
「馬鹿野郎が…」
と一言呟いて、他の兵士達と一緒に葬る様に部下達に指示をした。里の兵士達の葬いが終わった頃、陽は沈みかけ、夕暮れが辺りを包み始めていた。今夜は、交代で見張りをつけるとの事だったので、オレは、破壊された門の代わりに"アースウォール"で大地の壁を築き上げた。
オレは、大地の壁を築き上げると中央広場に向かった。中央広場では、不知火が重傷度別に患者を振り分けて、重傷の患者には、誾が何かを飲ましていた。撫子と桜も患者の手当を手伝っている。オレの存在に気づいた撫子が近寄ってくる。
「お疲れ様でした、永遠様。入り口の方は、大丈夫でしたか?」
撫子の言葉にオレは、入り口の状況を説明し、撫子達と一緒に負傷者の手当てを手伝った。陽が暮れた後も負傷者の数は、増えるばかりで、オレ達は、患者を近くの公民館に移動させ、夜通しで治療を続けた。
『此処は、大和達に任せて大丈夫そうだ。』
オレ達は、入り口の馬人族達を大和達に任せて、火の手が上がっている民家の方へと向かった。
「きゃあぁぁ」
向かう途中、女の子の悲鳴が聞こえた。オレ達が悲鳴の方へ急いで向かうと服を剥(む)かれ倒れ込んだ苺が馬人族に詰め寄られていた。オレは、すぐさま剣を抜いて応戦しようとしたが、その前に桜が馬人族に向かって行った。
「苺ちゃんから離れろ!!」
桜の蹴りが馬人族の腹に入る。馬人族は、後ろに少し下がったが、あまり効いていないようで、蹴られた場所を手で払うと
「おう、いてぇいてぇ。威勢がいいなぁ、ねぇちゃん。」
と言って、見下した。そして、
「あん、よく見たら、武盧芭様の女じゃねぇか。上手く逃げてきたんだな。…ふんっ、丁度いい。武盧芭様のお下がりは、みんな壊れちまった後だからな。たまには、壊れる前のいい女を抱いてもバチはあたらねぇよな。」
と言って、ニヤニヤしながら、桜に近づいて行った。だが、急に馬人族の足が止まる。それは、桜が馬人族に殺意のこもった鋭い眼差しを向けながら手を翳していたからだ。
「その耳は飾りか?苺ちゃんに近づくなって言ってんだよ。」
いつもの桜の口調ではない。出会った頃の桜を見ているようだ。逆立った尻尾が桜の怒りを表している。桜が馬人族に向けていた手を握る。すると、馬人族の周囲を風が取り巻き、徐々にその勢いを増していく。
(ぷしゅっ…)
風の刃が馬人族の皮膚を切り裂いていき、風で巻き上がった血が雨の様に降ってくる。痛みに耐える馬人族の目に先程の余裕はなかった。
「このクソ女(あま)がぁ、調子にのんなぁぁ!!」
馬人族は、無理矢理風の牢獄から抜け出すと桜に襲いかかった。だが、そんな馬人族に対し、桜は、再び手を翳すと風の塊をぶつけて吹っ飛ばした。辛うじて地面に着地した馬人族に今度は、撫子が攻撃する。
「貴方こそ覚悟しなさい。私達の里に手を出したらどうなるか、身をもって知りなさい。……そして、死ね。」
撫子は、そう言い放つと馬人族を火だるまにした。苦しむ馬人族を無視して、撫子と桜は、苺に歩み寄る。
「もう大丈夫だよ。」
桜は、そう言うと涙を溢す苺に自分の着ていた上着をかける。苺は、恐怖で言葉を失ったようで、俯(うつむ)きながらも感謝を伝えるように何度も頷いた。それを見た桜が里の中央に目を向ける。
「永遠ちゃん、行こう。アイツら、絶対許さないんだから。」
桜が決意と共に立ち上がると里の中央から誰かが歩いてきた。見覚えのある姿に撫子も桜も走り出す。不知火だ。撫子と桜が不知火に抱きつく。不知火は、2人を受け止めると
「撫子、桜、無事だったのね。良かったわ。そういえば、こっちに1人行ったみたいだけど…もう片付いたみたいね。中央の奴らは、私が狩ったからもう大丈夫よ。」
と言って、2人の顔を見た。里の危機が去った事に安心したのか、撫子も桜も目が潤んでいる。そこに入り口の馬人族を排除し終えた大和達も合流した。不知火は、皆の無事を確認すると
「皆、よくやってくれました。おかげで、奴らを退かせる事ができました。ですが、里の被害は甚大です。無事な者は、負傷者を見つけ次第、中央広場に集めなさい。神楽は、何人かを選抜して、里の被害状況を確認。長門は、兵士を連れて、再度襲撃がないか、警戒にあたってちょうだい。」
と指示をした。皆が不知火の指示に従って散らばって行く。オレは、長門について里の入り口へと向かった。入り口の付近には、長門達が殺した馬人族が十数体転がっていた。そして、放置していた武盧芭も息絶えていた。長門は、部下達に指示して、馬人族達の死体を入り口の外に放り投げさせ、門番だった者達の死体を丁重に葬った。
「また襲って来ますかね、アイツら。」
オレが長門に聞くと、長門は、入り口の先を眺めて
「まず来ないでしょうな。奴らは、おそらく馬人族でも先鋭の存在だったはずです。それが敗れ、死体が無惨に放置されている。少なくとも次に来る奴らの戦意は、かなり落とされるはずです。それに奴らは、次の行動で敗北すれば、駆逐される事が分かっているはず。力を失った部族は、他の部族の食い物にされるのが、生き物としての絶対的摂理ですから。まあ、儂等の里に被害が出た以上、黙っているつもりもないですがね。」
と言った。長門の言葉を表す様に目の前に転がっている死体を源獣種や源鳥種が啄みに来ている。人型の死体が食い散らかされる様に吐き気を覚え、そして思い知らされる。
『弱肉強食。オレが生きてきた世界は、人間が頂点で生物的弱者になる事は、考えられなかった。だが、世界が変われば、人間だって弱者に位置付けられる。オレに力がなければ、あそこに転がっていたのは、オレの死体だったかもしれない。撫子と桜は、武盧芭に玩具の様に弄ばれていたかもしれない。オレは、大切な者を守る為に強者でいられるだろうか…。』
オレが物思いに耽っていると長門は、兵士達が持ってきた麻袋の中身を確認していた。颯の変わり果てた姿を見て、長門は
「馬鹿野郎が…」
と一言呟いて、他の兵士達と一緒に葬る様に部下達に指示をした。里の兵士達の葬いが終わった頃、陽は沈みかけ、夕暮れが辺りを包み始めていた。今夜は、交代で見張りをつけるとの事だったので、オレは、破壊された門の代わりに"アースウォール"で大地の壁を築き上げた。
オレは、大地の壁を築き上げると中央広場に向かった。中央広場では、不知火が重傷度別に患者を振り分けて、重傷の患者には、誾が何かを飲ましていた。撫子と桜も患者の手当を手伝っている。オレの存在に気づいた撫子が近寄ってくる。
「お疲れ様でした、永遠様。入り口の方は、大丈夫でしたか?」
撫子の言葉にオレは、入り口の状況を説明し、撫子達と一緒に負傷者の手当てを手伝った。陽が暮れた後も負傷者の数は、増えるばかりで、オレ達は、患者を近くの公民館に移動させ、夜通しで治療を続けた。
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