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カラの巣穴

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 オッサンの巣穴が最近ずっとカラや。
 
 なんか、ねえちゃんがおかしい。
 急に泣きよるんや。

「うさぁ~。ひぃっく、ズジュ。うさぁ~」
 オレを抱えて突っ伏して泣きよるんや。
 ねえちゃん、何があったんや?

 ねえちゃんが『仕事』を辞めた。
 オレはずっとねえちゃんのそばにおるんや。
 けど、すぐに、どっかに行きよるんや。
 『仕事』の時はオレもついて行っとったのに、最近はずっと留守番や。



「うさ、ごめんなぁ、お母ちゃん、うさのこと恐いねんて。玄関におってな?」
 この婆ちゃんがねえちゃんの『お母ちゃん』?
 あのうっとおしいオッサンの番い?
 ふ~ん。
 オレが恐いんや? よう分かっとるやん。
 でも、なんでオレが『閉め出し』くらわなあかんねん! 入れてんか!
 
 ダン! ダダン! 

 スタンピングしても入れてくれへんのかい?!
「ブウ、ブウ、ブウ、ブウ!」
『ねえちゃん! 入れてぇやぁ~! オレだけ仲間外れにせんといてえな!』
 あかん。ガラス越しになんぼ言うても、戸を開けてくれへん。
 最後の手段や! オレは行くで!

 どぉりゃぁ~!

 ダン! バシュ! ズザザザザッ!

 どないや! 障子を突き破ったったで!

「う、うさ、?! あんた、そんな高いとこから入れるん?! ええぇ?! どんだけ跳べるん?!」

 ねえちゃん、どんだけ跳べる? 見たまんまや。
 玄関の内戸、半分上は障子や。
 『張り替え』の時ねえちゃんが破ってんのを見てたで。
 オレはあんなペラペラに負けへんで!
 せやけど……。
 今、足がな? 足がな。
 『びぃ~ん』って、なっとんねん。
 痺れとんねん。
 動けへんわ!
 
 オレは学んだで! ジャンプして高い所から落ちたら……。
 足が『びぃ~んスマッシュ』やて。


 
 最近、お客が、いっぱい来よる。
 ねえちゃんの『おねえちゃん』は、オレのお気に入りや!
 特別に抱っこさせたってんねん!
 『おねえちゃん』は片腕で器用にオレを『抱っこ』しよるんや。
 オレ、ねえちゃんにもそんなん、させへんで!
 お気に入りやから、特別なんやで?!

 下におる、犬ころが、恐いんとちゃうからな!


 ここのところ、ねえちゃんが、ほとんど帰って来んのや。
 でも、オレのエサは、用意してくれるし、撫でてから、どっかに行きよる。
 ねえちゃん? エサ食うとるか? どんどんやつれてきてるで?!
 

 婆ちゃんとねえちゃんと『おねえちゃん』が抱き合って揃って泣いとる。
 今日はみんな黒いねん。

 ねえちゃんの『お父ちゃん』が死んでもうたんやって。

 ねえちゃん? 泣かんとって。
 ねえちゃん? エサ食うてんか?!
 あかん。このままやと、ねえちゃんが死んでまう!

『ねえちゃん! オレ! オレが! ここにオレ! ここにおるで!』
「ブウ! ブウ! ブウ! ブウ!」
 ほら、オレがねえちゃんの周りをパトロールしたるで。
 ねえちゃん! 死んだらあかん!
 ほら! オレのエサ食うか?!
 なあ! なあて! 泣いてんと、エサ食うてんか!



 あ、婆ちゃんが来た。
「泣いとったらあかん。お父ちゃんを送らんならんからな」

 婆ちゃんも番いを亡くして辛いんやな?
 婆ちゃんもやつれとるし。

 でも、ねえちゃんが、婆ちゃんの持って来た三角のエサを食うてる。
 これで安心や。

 ねえちゃん! オレがついてるで!
 これからも、強いオレが、ねえちゃんを守ったるしな!


 
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