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ローゼルのハイビスカスと安期生

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 まさかローゼルの父親が脱獄するとはのう。
 北獄は一度入れば、二度と出られん監獄じゃ。
 まあ、あそこで生まれた女児は九つの歳で追い出されるがの。
 ローゼルのように。


「お前がローゼルか?『扶桑樹の護り』家の者で間違いないな?」

「は、はい。お役人様。間違いございません」

「お前の父が北獄から逃げた。行方を言いなさい」

「は?! 父とは五年前に別れたきりでございます。行方と言われましても、皆目見当もつきません」

「ローゼルよ、言わねばお前を脱獄幇助の罪で処刑せねばならん。さあ、言いなさい!」

「ひうっ! お役人様! 父には、祖母を訪ねてこの地に行くようにと言われて参りましたが、一族は南獄に連れて行かれたと聞き及んでおります故、私には、父を助けることなど出来ません!」

「娘よ。勘違いするでない。お前が助かる道が父親の行方を言うことのみなのだ」

「そ、そんな……。父には本当に五年間、会わずに過ごして参りました。行方と言われましても、本当に分からないのでございます」

「そうか、娘、残念だが規則なのだ怨むで無いぞ!」

 ザシュ!

「!! ローゼルーーッ!」


 落ちたローゼルの首とともに、扶桑樹の赤い花々が一斉に落下して、辺りが真っ赤に染まる。



 儂の修行が足りんかったのかのう。
 じゃが北獄から逃げ出せた者はかつておらなんだ。
 ましてその家族がどのような罪に問われ、処されるかなど、前例も無い。
 まさかその場で切り殺すとはのう。
 すまなんだなローゼルよ。
 せっかく儂の子も孕んだと言うのに、守ってやれなんだ。
 地の汚れを受けた扶桑樹はもう駄目じゃろう。

 この地は辛過ぎるから、久しぶりに旅に出るとしようかのう。



 ん?! この気配は?! ローゼルか?!

「待っておれ、ローゼルよ。今、安期がお前のもとに参じようぞ! 今度こそ、守り貫いて見せようぞ!」


「なんとこの地は魔素が溢れておる! む?! ここか?!」

「旅のお方でしょうか? 旦那様にお取り次ぎいたしますので、こちらにどうぞ」

「ふむ。待たせて貰おう」


「ああ!! 貴方様は、ひょっとして安期先生ではありませんか?!」

「うむ。安期生であるが、そのほうは?」

「いやあ、お変わりありませんねえ、さすが神仙様ですね。私は、幼少の頃、先生に指導賜ったエーベンハルトですよ~!」

「ん? べん坊か?! 久しいのう! 元気にしておったか?」

「ええ。安期先生の修行のおかげですね。こうして息災にしておりました」

「ところでのう、べん坊。ここに若いおなごがおろう?」

「若いおなごですか? 使用人は若くは無いですねえ……。いや、先生からすれば、若いか?」

「べん坊、そなた、失礼なことを考えておろう。普通に若く可愛いおなごじゃ」

「可愛いおなごですか? それなら、私の娘、マリアがおりますが、何用ですか?」

「お前の娘? まあ良い。合わせて見せなさい。話しはそれからじゃ」


「お、おお! 正しくこのおなごじゃ~! 「ギュッ!」 ンゲッ!」

「あ、安期先生?! ご無事ですか? ミクルの『瞬殺』がヒットしてましたが?!」
 
「グッ、ぬおおお! 何じゃこの物騒な生き物は?!」

「私の娘、マリアの乳母でございますよ? ほら、乳をやっているでしょう?」

「コヤツは雄じゃろう!! いや、乳?! 何じゃコヤツは?!」

「はあ、マリアの母親は亡くしてしまいましたが、彼女が生前認めた乳母ですので、何よりマリアもなついておりますし。ミクルと言いまして、こう見えて、S級の魔獣ですので強いですから、乳母にうってつけでしょう?」

 べん坊、コヤツ相変わらず豪胆な性格をしておるな。
 しかし、この赤ん坊はローゼルじゃ。
 どうしたものかのう?
 せめて口吸いぐらいはしたいのう。

「!!」

「ギュッ!」

「あ、危ない奴じゃ! やめんか!」

 う、コヤツが邪魔じゃ!
 どうしてくれよう!

「安期先生?! ミクル?! どうしたんですか?!」

「旦那様、お客様ですか?」「エーベンハルト卿、何事ですか?!」

「「「「?!」」」」

 伏兵がこんなにおったのか?!

「のう、べん坊、お前の娘に教育係はいらんかのう?」

「安期先生が見て下さるんですか?! 是非ともお願いしたいのですが、娘はまだ乳飲み子ですが?」

「良いではないか、良いではないか。幼いうちから色々と教えてしんぜよう」

「はあ、ではよろしくお願いします安期先生」

「ギュッ?!」「旦那様?!」「エーベンハルト卿?!」

「ん? どうした? 安期先生は素晴らしい先生だぞ? 先生、世話係のシーボルディーと、護衛のゲオルグ将軍です」

「ふおっ、ふおっ、ふおっ。皆、よろしく頼むぞい」


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