意地っ張りの片想い

紅と碧湖

文字の大きさ
上 下
208 / 230
15.業務展開

200.おうちの幸せ

しおりを挟む
 今日もモバイル持って帰宅した。
 丹生田が用意してくれてたメシ食って、イイ感じに用意されてた風呂入ったあと、こうやって仕事してる。タバコふかしながら。

「藤枝、コーヒーと麦茶とペプシ、何を飲む」

 くわえタバコでモバイル睨んでたら丹生田に聞かれ、
「ん~~、ペプ……」
 本能はペプシと言っている。
 けど今はアタマハッキリさせなきゃだ。

「……いやコーヒー……ん?」

 そう言って眉根に皺寄せた。なぜかすぐにコーヒーのカップを置かれたのだ。
「え?」
 顔を上げると、丹生田はちょい嬉しそうに目を細めてる。

「予測が当たった」
「は……サンキュ。おまえの分は」
「俺はコッチを飲む」

 なんつってペプシも持って来てた。くそっ、超カワイイじゃんよ!

「なんだよソレ。予測とかじゃねえじゃん」
「麦茶は持って来てない」

 なんか、してやったりな顔してるからニヤニヤしちまう。
 一気に疲れ吹き飛んだわ。なんだコレ。やっぱ俺って安いなあ~、とか思いながら、ククッと笑ってコーヒーをひとくち飲む。

「う~、うま~」

 思わず声を出してた。なんつうか、うまさ倍増だっつの。
 したら丹生田の手が肩に乗り、そこを撫でる。

「仕事を続けろ。しかしあまり無理はするな」

 なんて言いながら、首の付け根とか肩とか揉み始めた。

「うん。でもキレのイイとこまでやんねえと……は、気持ちイイそれ」
「そうか」

 肩の手が二の腕に降り、ソコも揉んでくれる。そっから背中も。

「寝るときにマッサージしてやる」
「うん、サンキュ。もうちょいで終わるよ」
「分かった」

 なんつって手を放し、丹生田は向かいのソファに座ってペプシ飲んでる。
 フッと鼻から息を漏らして笑いながら作業を続けた。

 六田家具はまだ発展途上もいいとこだ。ちょっとは分かってくれる人が増えてきてるけど、知名度はまだまだだし、経営も安定してるとは言い難い。
 社長の家具を置いてくれる家具店とか、ネット通販とか、うちのワークショップとかは、わりと順調に動いてるけど、それって俺たち営業がしっかり機能しようと努力してるからなんだ。

 うちの家具を置いてくれるようなショップは、店員さんがきちんと商品知識を蓄えてるトコが多いんだけど、六田家具がそういう店舗に置いてるのは小物だけ。
 ドレスラック、つまりハンガーを掛けるラックとか、ちょっとした棚、小さなテーブル、スツール、時計や鏡や傘立てとかインテリア小物、そういうのだけ。

 工房そんな広くなくて、作業スペースが取れないんで大物を流れ作業で作るのが無理ってのもあるし、ソファなんかファブリック入る場合は外注にもなる。原材料から妥協しないから、どうしても単価は高くなるんで、売れるか分からないものに経費をかけないってのが、今現在の六田家具の方針。つまり大物家具は既製品にしてない。
 店舗に置かせてもらってるパンフレット見て、注文したいお客さんがいたら呼んでもらって詳細打ち合わせるし、可能ならワークショップに来て貰ったりショールームで実物に触って貰ったりして、具体的なイメージ探り、満足行くものを提供出来るように。

 ネットで注文受けるときも、どういうモノが欲しいかってのをサイズやデザインだけじゃ無く、色や触感まで相談した上で受注する。
 で、それは営業の仕事だ。

 最近、そういう発注を受けることが多くなってて、営業の負担が重いってのは部長も社長も分かってるんだ。けど正直、今の営業部に新人をイチから育てる余裕が無い。人を増やすにしても、即戦力が欲しいわけで、そんなひとはなかなかいない。
 てか部長は部長で大車輪だし、社長も仕事に妥協せず目一杯やってるんで、そもそも面接とか求人とかに割ける時間が少ない。
 ホントはそういうトコで佐藤さんを頼りたいんだけど、去年くらいからすごく忙しいらしいくて、
「もうちょっと待って」
 と言われ続けてるんだよね。

「ふぅ~、終わった~」
「そうか」

 モバイル閉じながら言うと、丹生田は俺の飲みかけコーヒーとペプシを手に台所に消える。

「マッサージしてやる。ベッドに行ってろ」
「う~い」

 台所から聞こえる声に軽く癒やされながら寝室に入り、ベッドに倒れ込んだ。

「はぁ~~。なんつうか極楽? そういう奴なんじゃね、コレ」
「なにを言ってる」

 笑いを含んだ声と共に、丹生田もベッドに上がってきて、首やら背中やら腕やら撫で始める。
 てか昔からマッサージ上手かった気ィするけど、最近はもっともっと上手くなってると思う。超気持ちイイ。
 背筋に添って揉み始めた手の心地よさに目を閉じ、………いつのまにか眠っていた。


  ◆   ◇   ◆

「………………」

 健朗は、今日も眠ってしまった藤枝の背中を撫でながら、ため息をつく。

 旭川の社員旅行から帰って以来、藤枝は非常に多忙になった。
 本来日曜が休みの筈なのだが、店舗へ呼ばれることが多くなり、祭日だろうが日曜だろうが飛んでいく。部屋にいるときでもネットでの注文に応じて、今日のようなことになる。

 つまり、二ヶ月もセックスしていない。

 若い頃のように理性を失うことこそ無くなったが、だからといって性欲が治まったわけではない。

 抱きたいのだ。藤枝を。

 しかしこんなに疲れ切るほど打ち込んでいる仕事を邪魔する気は毛頭無い。
 ゆえにせめてもと、身体を触っている。マッサージなどと理由をつけて。だから健朗の手は、眠った藤枝の背中や尻や太ももなどを撫で続けている。
 そして髪を撫で、そこにキスを落として、寝顔が安らかであることに安心しつつ、リビングに戻って灰皿の始末をし、テーブルを拭いて、自分も眠る支度をするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

異世界転生しすぎたコイツと初めての俺のアルファレードぐだぐだ冒険記

トウジョウトシキ
BL
前世の記憶を思い出した。 「これ、まさか異世界転生ってやつ……本当にこんなことがあるなんて!」 「あー、今回は捨て子か。王子ルートだな」 「……え、お前隣の席の葉山勇樹?」 「今気づいたんだ。お前は夏村蓮だろ? 平凡な少年ポジか、いいところだな」 「え、何? 詳しいの?」 「あ、なんだ。お前始めてか。じゃ、教えてやるよ。異世界転生ライフのキホン」 異世界転生1000回目のユウキと異世界転生初心者の俺レンの平和な異世界ぐだぐだ冒険記。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...