意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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8.二人きりの旅行

107.野上さんとはるひ

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「あら」
 ラウンジには野上サンとはるひがいた。
「よろしかったらご一緒なさいません?」
 にっこり呼ばれて一瞬迷う。
 だってはるひがいるし。当たり前だけど。
 つうかゆうべ突っかかられたとき、勝てない感ぱねえかったし、ちょい……いや、ビビってるわけじゃねえけど。
 けど丹生田が黙ってそっちに歩いてくから、黙ってついてった。
「えっと……イイんスか」
「もちろんですわ。おいやでなければ、ぜひ」
「いや、俺らはゼンゼン」
 丹生田もうっそり頷いて、誘われるまま野上サンの隣に座った。
 必然的に俺は、こっち見ずに黙々とメシ食ってるはるひの隣に座らざるを得ない。
 つうか野上さんの前にはご飯と漬け物、焼き魚とみそ汁。そんでやっぱはるひの前にはパンとオムレツとサラダ、オレンジジュースがある。洋風か和風か選べるようになってんのか、と思ってたら、野上サンと同じメニューが運ばれた。
 なんも言わなかったのにメシはどんぶりに激大盛りだ。
「うわ」
 思わず声漏らして丹生田を見ると、どんぶり見て苦笑い、そのまま手を合わせて食べ始めたんで、笑っちまいつつ
「いただきます!」
 俺も手を合わせた。
「てか先にテント立てるんだよな」
「ああ」
 おもっくそメシに集中しつつ答える丹生田は、照れてる感じでやっぱカッコカワイイ。
「へへっ」
 笑っちまいつつ俺も食う。
 魚、コレ鱒とかかな。みそ汁も具だくさんで食い応えあるし、すっげうまい!
 いいねいいね、日本の朝ご飯て感じで!
 そんで楽しむんだ!
 こっからあと三日、丹生田と一緒にキャンプやバーベキューや釣りや、そんで色々! メシ食いつつ、アタマん中にどんどん楽しいことが湧いてくる。
 そうだ、釣りするんだし、魚釣れたらそれ焼くとか! バーベキューやるつってたもんな~、うわめっちゃ楽しそう~~
 ……て、あれ? じゃ肉は? 野菜は? バーベキューったらそういうのいるんじゃ……やっべ!
 そこ考えてなかったーーっ!
「つうか材料どうするよっ」
 焦ってくちの中のもの飲み込んで言うと、丹生田は食い進めつつ目だけ上げた。
「だからバーベキューの」
 つったら「ああ」と声が返る。そんでそのまんま、また食う。
「スーパーとか行くか? バスで来る途中にさ、街通ったとき、あったよな」
「……だいぶ距離がある」
 それだけ言ってすぐ目を伏せ、メシをかっ込み焼き魚に箸伸ばした。
「その魚すっげうまいぜ。つうかチャリとか借りれるっしょ。そんで買い出しとかさ、そういうのもいんじゃね?」
「……なによバーベキューって」
 はるひがパンをかじりながら言った。
「なんだよ。おまえ関係ねえだろ」
「ケチ、関係なくても聞くくらいするし」
「うっせ。おまえには教えてやんねえ」
「……むかつく」
 なんかちょい勝った感じ。ニヤッとしちまった。
「あらあら、いつの間に仲良くなったの?」
「はあ? おばあちゃんバッカじゃないの? どこが仲良いって」
 なんかムキになってる。妹とは違うな、なんて思ってニヤッとした。コレなら勝てそうだ。
 丹生田は黙々とメシ食って、なにも言わない。つうかこっち見ない。つうかチラッとはるひを見てる。
「食材でしたら、すぐ近くに地元の農家さんの販売所がありますわよ」
「え、マジすか」
「ええ、マジですわよ」
 上品に食べながら、野上さんは「よろしければ、車でお送りしますわ」なんて言う。
「いや! 大丈夫っす」
 そう言うと、野上さんはちょっと箸を止めて「あら、残念」と言った。
「でもありがとうございます」
「いいえ」
 返った声は、なんかちょい冷たい感じがした。
 するとはるひがクスクス笑う。
「無駄よ、おばあちゃん。思い通りになんてならないから」
「……はるひさん」
 そう言ってはるひを見た目は、なんかちょい怖い。はるひはクスクス笑いっぱなしだし、なんだか微妙な雰囲気だけど、あんま気になんない。
 だってそれどこじゃねえし!
 丹生田とキャンプつうサイッコーのイベントなわけで、他のコト考えるなんてもったいねえてか。俺的には驚異的な早さでメシ食い切ったが、丹生田はもっと早く食い終えてて、野上サンにお茶注がれてた。
「バーベキューをなさいますのね。楽しそうですこと。わたくしたちもお邪魔してよろしいかしら」
「………………」
 あ~、断れねえんだな、と思って助け船出そうとしたら、さっきからなんだかずいぶん機嫌良いはるひが「おばあちゃん」鼻で笑ってるみたいな声出した。
「あたしは行かないよ。一人で行けば」
「……はるひさん」
「あんたたちも、おばあちゃんに捕まる前に行った方がイイよ」
 こっち見てニッと笑った感じが、ナンカヤバそうで「いや、つうか!」慌てて腰を上げつつ言った。
「すんません、野上さん、俺ら二人でやるんで!」
 上品な老婦人は柔和そうな笑顔で見上げてきた。
「ほら行こうぜ丹生田」
「あら、残念ですわね」
「……失礼します」
 さっと立った丹生田もキッチリ礼をして、あくまで笑顔の野上さんとこっち見ようともしないはるひを置いてラウンジを出る。
 まっすぐフロント行くと、テントだのはキャンプ場にあるから、まず準備をって言われ、礼を言って部屋戻る。
 部屋に入るの、なんか緊張したけど、ベッドはキレイに整ってて、荷物もまとまってて、マジでゆうべなんもなかったみたいになってて、なんだかホッとする。
「藤枝は着がえるか」
「う~ん、いや! いいや」
 なんて会話しつつ速攻フロントへ向かい、レンタルの分も含めて精算する。
 笑顔のおじさんに『レンタル票』つう紙を渡された。
「キャンプ場入り口に管理ロッジがありますから、そこで受け取って下さい」
「ありがとうございます! あ、それと農家のひとのお店あるって聞いたんスけど」
「お聞きになりましたか」
 なんつって店の場所とか行き方教えてくれた。そんで、ちょっとしたものは管理ロッジでも買えるっていうから、めちゃ安心した
「そっか、良かったぁ~」
「どうぞ楽しいキャンプを」
「うす! ありがとうございます!」
 ホテル出ると、ゆうべの雨が嘘みてーな青空!
 めちゃテンション上がって、思わず踊ったりしながらキャンプ場へ向かった。
 ホテルの庭には周りの地図とか書いてある看板が立ってて、それでキャンプ場の方向を確かめ、「こっちだな」とか言いつつ進む。
 花畑的なものがある! つって見に行くとハーブガーデンだったり、コテージがいっぱい建ってるトコとかあったりして、
「なにげにリゾート感ぱねえな!」
 なんて言ったら「そうだな」なんて丹生田も眼を細めてたりして。そんな感じで歩いて、湖畔のキャンプ場に出た。
 駐車場抜けて管理ロッジに向かう。
 中はけっこう人がいて、紙コップとか割り箸とか焼き肉のタレなんかも売ってた。
「そうだよなあ、こういうの用意しとかねえとなんだよな~。次からはもっとちゃんと準備しねえと」
 なんつって丹生田を見たら、真顔でじっとこっち見て「……そうだな」なんて言ってる。
「ま、次だ次! 今回は今回なりに楽しもうぜ~」
 とか言いつつ。
 レンタルのトコにひとがいたから、あくまで待ちがてらポスターとか貼り紙とか色々あるのを見てた。釣り道具のレンタル料金とか描いてあったんで
「見ろよ! 釣り出来んな! 湖で釣るんだろ?」
 なんてウキウキな声あげて、丹生田見ると目を細めて小さく頷いて。
「見てから決めよう」
「おお~、プロっぽい発言! さすが!」
 なんてワクワク感ハンパなく高まってく。
 丹生田はガキの頃、家族で良くキャンプしたらしいんだよね。
 長野に行ってからも、おじいさんと二人で山歩きとか良く行って、山菜とかキノコとか取ったり、釣りもしたんだって。前に鈴木の実家行ったときも思ったけど、木とか色々詳しいし、ラインで相談してたときも、「さすがだな!」「すげえな!」なんて感心してたのだ。
 母親がホテルに泊まりたがるから、ここみたいな、ホテルの近くでテント借りて1泊、そんでバーベキューしたとかって程度の経験しか無い。そん時だって母親はホテルで寝たし、親父と妹と三人で寝袋入ったんだけど、妙にワクワクしてなかなか眠れなかった。テントで寝たのはその一回きりだ。
 なんで今回、どうしてもキャンプして、ホントのアウトドアって奴、やりたかった。そういうの、丹生田は分かってくれてた。
 つうわけで! アウトドアは全部丹生田にお任せだ。
 前の人が終わったんで、レンタル票見せて、まずテントだけ借りる。場所を整えてから残りを借りに来るつうコトで、湖畔へ向かった。
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