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8.二人きりの旅行
93.ホテル到着
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バスがホテルの玄関前につけられたんで、ほぼほぼ濡れずにホテルに入ることができた。荷物もリュックひとつだし楽勝。
「雨止むの待ってキャンプするか? それとも泊まることにするか? どうする?」
こぢんまりしたロビー見回しながら聞いたのに、丹生田はばかでかいリュック背負ったまま、一旦入ったホテルの玄関からバスに逆戻りした。
「え、どした?」
声かけつつ振り返ると、運転手が雨に打たれながら荷物を取り出してるのを手伝ってる。あ、と思い慌てて戻って俺も手伝う。荷物をお客さん達に渡すだけだったけど、キャンプもするらしい家族連れが二組いて、けっこうデカいのとか重いのとかあった。あとは上品そうなおばあさんとカップル。おばあさんがめちゃ荷物多かったけど、まあすぐ終わる。
「済まんね、助かったよ」
水滴拭きながら屋根の下に移動した運転手さんが言うので
「いやあ、キャンプ場使うだけかもなのに乗せてもらったから、これくらい当然っす」
とかニッカリ返す。丹生田はこういうとき黙って礼で終わりがちだから、俺が言わねえと、なんて見たら、でっかい荷物フロントまで運んでる背中に慌てて「んじゃ、どうもっす!」つって追いかける。
歩調合わせてゆっくりフロントまで運んだデッカい荷物は、おばあさんのらしい。ニコニコお礼言われて、フロントのおじさんにも「ありがとうございます」なんて言われて、丹生田は怒ったみたいに見える照れた顔で小さく頭下げてる。
ああ~、アレ誤解されたらヤだなあ、と、思わず言ってた。
「コイツ無愛想だけど照れてるだけなんで」
「あらあら、仰らなくても分かりますわ」
おばあさんがニコニコした。フロントのおじさんも笑顔だ。
「あたくしの若い頃は、殿方みなさま、こんな感じでいらしたわよ」
丹生田が誤解されてないと分かってホッとする。そんでコレってチャンスなんじゃね? と思う。
なんでフロントのおっちゃんにニカッと言ってみる。
「あの~、俺らキャンプ道具借りて大浴場だけ使わせてもらうつもりだったんスけど」
「ああ、この雨だもんねえ、ご宿泊に切り替えますか」
「え、イイんスか」
「お客さん、二十三日宿泊予定の方じゃないです?」
おじさんがニッコリ笑って言ったから「なんで分かるんスか」ほけっと聞くと
「そりゃあ分かります。一週間前、うちに電話くれて予約頂きましたよね、大学生二人って仰って」
おじさんは笑みを深めた。
そう、そんで
『申し訳ありません、学生割引はございませんので、大人二名様でよろしいですか』
とか聞かれて、めっちゃ恥ずかしかったんだ。
「そのとき『二十日の無料送迎バスを使わせてもらいたい』て頼んできたでしょう。『キャンプ場に泊まるんですけど、大浴場は日帰りで使わせてもらいますし、泊まる日より前ですけど、なんとかなりますか』なんてねえ、一所懸命仰って。二十日のバスにお名前入れておきますのでと申し上げたら、とても丁寧に感謝の言葉を頂いて。それは印象に残りますよ」
うわぁ~、めっちゃ恥ずかしい~!! なんでそんな台詞まで覚えてんだよ、おっさん!!
目一杯汗かいてたら、おばあさんがコロコロ笑った。
「お二人とも好ましい殿方ですわねえ。ねえあなた、お部屋が空いてるなら、泊まらせてあげられないんですの?」
おばあさんの口添えがあったからか、フロントのおじさんも「もちろんお部屋お取りしますよ」と笑顔だ。
「マジスか!」
「この雨じゃあ、上がったとしてもぬかるむし、テント立てるのも苦労でしょう」
「ありがとうございます! 助かります!」
バッとアタマ下げる。横で丹生田もキッチリ礼してる。
「よろしかったですわねえ、お二方」
おばあさんもニコニコだ。こっちにもお礼する。
「ですが、先にこちらのお客様のチェックインを済ませてもいいですか」
おばあさんを差し置いて話し込んでたと気づき、「あ! すいません!」慌てて両手を振る。
「もちろんス! 俺らあっちで待ってますから」
ニカッと答えた横で、黙然と礼した丹生田は、クルッと方向変えてソファに向かった。もっかい礼してついてく。
二人でソファにリュック下ろし、腰下ろしつつ「よかったなあ、今日、泊まれそうじゃん」こそっと言うと、丹生田はじっとコッチ見て低く呟いた。
「……ありがとう」
「え、なにが?」
ふ、と息を吐いた丹生田は目を伏せる。
「円滑に宿泊が取れた。藤枝のおかげだ」
「えっ! 違うよ、丹生田がおばあさんの荷物運んであげたんじゃん」
「しかし俺は、黙って見ていただけだ。全て藤枝が交渉してくれた」
「いや! 交渉なんてもんじゃねえって! ちょい言ってみただけだって!」
なんてやってたら、おばあさんが「終わりましたわよ。どうぞ」と声をかけてくれた。
また二人してお礼して、リュックひっつかむとフロントへ走ったのだった。
「雨止むの待ってキャンプするか? それとも泊まることにするか? どうする?」
こぢんまりしたロビー見回しながら聞いたのに、丹生田はばかでかいリュック背負ったまま、一旦入ったホテルの玄関からバスに逆戻りした。
「え、どした?」
声かけつつ振り返ると、運転手が雨に打たれながら荷物を取り出してるのを手伝ってる。あ、と思い慌てて戻って俺も手伝う。荷物をお客さん達に渡すだけだったけど、キャンプもするらしい家族連れが二組いて、けっこうデカいのとか重いのとかあった。あとは上品そうなおばあさんとカップル。おばあさんがめちゃ荷物多かったけど、まあすぐ終わる。
「済まんね、助かったよ」
水滴拭きながら屋根の下に移動した運転手さんが言うので
「いやあ、キャンプ場使うだけかもなのに乗せてもらったから、これくらい当然っす」
とかニッカリ返す。丹生田はこういうとき黙って礼で終わりがちだから、俺が言わねえと、なんて見たら、でっかい荷物フロントまで運んでる背中に慌てて「んじゃ、どうもっす!」つって追いかける。
歩調合わせてゆっくりフロントまで運んだデッカい荷物は、おばあさんのらしい。ニコニコお礼言われて、フロントのおじさんにも「ありがとうございます」なんて言われて、丹生田は怒ったみたいに見える照れた顔で小さく頭下げてる。
ああ~、アレ誤解されたらヤだなあ、と、思わず言ってた。
「コイツ無愛想だけど照れてるだけなんで」
「あらあら、仰らなくても分かりますわ」
おばあさんがニコニコした。フロントのおじさんも笑顔だ。
「あたくしの若い頃は、殿方みなさま、こんな感じでいらしたわよ」
丹生田が誤解されてないと分かってホッとする。そんでコレってチャンスなんじゃね? と思う。
なんでフロントのおっちゃんにニカッと言ってみる。
「あの~、俺らキャンプ道具借りて大浴場だけ使わせてもらうつもりだったんスけど」
「ああ、この雨だもんねえ、ご宿泊に切り替えますか」
「え、イイんスか」
「お客さん、二十三日宿泊予定の方じゃないです?」
おじさんがニッコリ笑って言ったから「なんで分かるんスか」ほけっと聞くと
「そりゃあ分かります。一週間前、うちに電話くれて予約頂きましたよね、大学生二人って仰って」
おじさんは笑みを深めた。
そう、そんで
『申し訳ありません、学生割引はございませんので、大人二名様でよろしいですか』
とか聞かれて、めっちゃ恥ずかしかったんだ。
「そのとき『二十日の無料送迎バスを使わせてもらいたい』て頼んできたでしょう。『キャンプ場に泊まるんですけど、大浴場は日帰りで使わせてもらいますし、泊まる日より前ですけど、なんとかなりますか』なんてねえ、一所懸命仰って。二十日のバスにお名前入れておきますのでと申し上げたら、とても丁寧に感謝の言葉を頂いて。それは印象に残りますよ」
うわぁ~、めっちゃ恥ずかしい~!! なんでそんな台詞まで覚えてんだよ、おっさん!!
目一杯汗かいてたら、おばあさんがコロコロ笑った。
「お二人とも好ましい殿方ですわねえ。ねえあなた、お部屋が空いてるなら、泊まらせてあげられないんですの?」
おばあさんの口添えがあったからか、フロントのおじさんも「もちろんお部屋お取りしますよ」と笑顔だ。
「マジスか!」
「この雨じゃあ、上がったとしてもぬかるむし、テント立てるのも苦労でしょう」
「ありがとうございます! 助かります!」
バッとアタマ下げる。横で丹生田もキッチリ礼してる。
「よろしかったですわねえ、お二方」
おばあさんもニコニコだ。こっちにもお礼する。
「ですが、先にこちらのお客様のチェックインを済ませてもいいですか」
おばあさんを差し置いて話し込んでたと気づき、「あ! すいません!」慌てて両手を振る。
「もちろんス! 俺らあっちで待ってますから」
ニカッと答えた横で、黙然と礼した丹生田は、クルッと方向変えてソファに向かった。もっかい礼してついてく。
二人でソファにリュック下ろし、腰下ろしつつ「よかったなあ、今日、泊まれそうじゃん」こそっと言うと、丹生田はじっとコッチ見て低く呟いた。
「……ありがとう」
「え、なにが?」
ふ、と息を吐いた丹生田は目を伏せる。
「円滑に宿泊が取れた。藤枝のおかげだ」
「えっ! 違うよ、丹生田がおばあさんの荷物運んであげたんじゃん」
「しかし俺は、黙って見ていただけだ。全て藤枝が交渉してくれた」
「いや! 交渉なんてもんじゃねえって! ちょい言ってみただけだって!」
なんてやってたら、おばあさんが「終わりましたわよ。どうぞ」と声をかけてくれた。
また二人してお礼して、リュックひっつかむとフロントへ走ったのだった。
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