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1.賢風寮
7.入寮オリエンテーション
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「はい、注目~」
茶髪のノムラ先輩がマイクを持って軽い調子で言った。
貧相な見かけからは想像もつかない、凛として良く通る声だ。初日とか声張ること無かったから気づかなかったけど、なんか聞かなきゃな気分になる。
みんな同じくなようで、室内のざわめきは徐々に沈静化した。
「一年生の諸君。賢風寮へようこそ。僕は自治会執行部、副会長のノムラです。オリエンテーションの進行を勤めます。よろしく」
そのまま室内を見回し、静かになったのを確認したノムラは、満足したようににっこり笑った。
「では、ここの基本的な運用について、まずお話しします」
言ってB5版の冊子を掲げる。
「この『賢風寮のご案内』は読んでくれましたか? 持ってきてるかな? 持ってきてる人はこれを見ながら聞いて下さい」
百数名が一斉に冊子を捲ると、全体にごそごそ物音が広がった。
「賢風寮は百三十年の歴史がある自治組織です。大学が創立した三年後に、学生や教員の寮としてこの地に建てられました。何回か建て直して現在の状態になってるわけですが、OB会である風聯会がこの建物や土地を所有していて、自治会で運営してます。つまり七星大学とは全く別組織ですので、例え大学の学長であろうと部外者です。そして部外者の立ち入りは一切認められていません」
ざわざわとし始めたのは、みんな一斉に呟いたからだろう。
「といっても、さすがに生命や健康の危険がある場合は例外だし、犯罪捜査に協力して、ということが過去一度だけありますが、それもそうそう認められないから、というくらいナイのでよろしく。まあ事前に申告があれば、寮生の親族に限り、一階の面会室と和室までの範囲で入寮を許可する場合はあります。でも事前の申告は絶対に必要です。男の友達でも寮内に入るのはNG。女性を連れ込むとか絶対無理なんで、そういうトコで頑張らないようにね。ああそう、例外として食堂のスタッフと食材の納入業者は一階の食堂通用口から出入りします。ちなみに食堂スタッフには女性が居ますが、平均年齢五十歳オーバーなので要らぬ希望は抱かないように」
ここで寮生達から軽い笑いが上がった。その反応に満足げに笑んだノムラが片手を上げると、また静かになる。
「建物内の設備なども寮生だけで維持してます。これは施設部がやりますが、皆さんにも協力して貰う場合があります。そういう時はちゃんと指示に従って下さい」
丹生田が隣で小さく頷いた。
そんな様子がいちいち可愛い。隣を窺いながらこっそり悶えそうになるのを抑えて冊子を捲ったりする。
「寮費は会計が、食堂は食堂担当が管理します。日常生活に必要な諸々は、総括の担当です。寮則については監察で指導します。監察の指導は絶対と弁えて下さい。寮の保全は保守と施設部が担当しています。では、各部から挨拶しますね。はい」
そう言って傍らにいる小太りのメガネにマイクを渡した。
「監察の庄山です。我々は寮則を正しく運用する為の仕事をしています。冊子にも有りますが、門限はありません。ですが他に規定されていることは色々ありますので、寮則は厳密に守ってください。寮則の冊子は後ほど配布しますので、必ず読んで下さい。紛失した場合は監察まで申し出れば予備をお渡しします。寮則を覚えるまで、いつでも確認できるよう携帯して下さい。はじめのうちは慣れないでしょうが、各部屋ごとに指導の先輩が居ますので、その指示に従うこと。寮則違反すると相応のペナルティを受けますし、内容によっては強制退寮もあり得ます。学生自治だからといって軽く考えて貰うと困ります。我々はかなり厳しいと認識して下さい。その他詳細についても指導の先輩に教わるように。よろしくお願いします」
それだけ言うと隣の長身にマイクを渡す。
「どうも、施設部の太和田です。施設部は電気、ガス、水道、ネット環境などの整備と、建物の維持を担当してます。なんか壊れたとか、直して欲しい時は、各階に自治会役員の部屋があるんで、気軽に言ってくれていいんですけど、混んでたりしたら、すぐにやれないこともあります。優先順位を付けるってのもあるし、俺らも学業優先なんで、そこんとこよろしく。寮内、あちこちで配線が露出してるの見たと思うけど、あれ切ると大ごとになるから注意してください。分かった?」
そう言うと太和田は会場をゆっくりと見回した。頷く者、背筋を伸ばす者、さまざまだが、これが重要だと言う事は伝わる。
「ネットは寮内に専用のサーバーがあるんで、それ経由で使ってもらいます。プロバイダーも選べません。外部の業者が寮内に入れないので工事とかできないから、他の回線を使うのは不可能です。そこでごねるようなら寮から出て行ってもらうんでヨロシク。使用料は寮費に含まれてますから、それで納得して欲しいな。もう気付いてると思うし、使い始めてる人もいるけど、各部屋に人数分のLAN端子があります。ルータの貸し出しもしてますが、登録が必要なんで、まだの人は施設部に申し込んで下さい。それとログは施設部で監視してます。違法サイトの閲覧、その他違法行為は禁止なんだけど、毎年やばいエロサイトとか見る奴は居るんだよね。大変なんだからマジやめて。ここだけの話、そこそこエロくて安全なサイトの情報もあります。ま、そこは先輩に聞いてよ。それと念のためスマホとかの登録情報は提出して貰ってます。あとで各部屋に施設部が行くんでおとなしく出してね。以上、よろしく」
にこやかに言い終えると、隣の神経質そうな男にマイクを渡す。
「会計の小山です。寮費は指定の口座へ毎月末日までに納入願います。寮費滞納は三ヶ月で退寮処分となりますので、毎月きちんと納入すること。よろしくお願いします」
淡々とそれだけ言うと、おどおど立ってる男にマイクを渡した。
「は、はじめまして、あの、食堂担当の、えー、た、田沢です。食堂のメニューは一階ロビーの掲示板と食堂に有りますので見て下さい。あと、日替わりメニューの希望なんかも受け付けてます。食堂に専用の投書箱がありますので、そっちを使って下さい。あー、と、メニュー希望は記名でお願いします。無記名は無効ですので、よろしくです。…あ、あと、各階の炊事場とか冷蔵庫とか鍋も食堂担当で管理してます。自炊の人は壊したりしないように気をつけて下さい。えっと、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、大柄な男にマイクを渡す。初日に玄関で仁王立ちしてた、あの男だ。
「保守担当の宇和島だ。無断侵入の阻止他、警備をやる。おまえら喧嘩なんぞしたら俺たちがヤキ入れるからな! おとなしくしてろよ!」
大声過ぎてマイクがハウリングを起こしたが、あまり気にしていないようだ。「おまえマイクいらねえじゃん」と笑った軟派な感じの男がマイクを受け取った。
「えー、総括の唐沢です。総括ってなんかよく分からない呼び方だけど、そう決まってるので覚えて下さい。俺らは、たとえばシーツや布団カバーのリースとか、トイレットペーパーを補充したり、なんてことをやってます。広報っぽいこともやるし、まあなんでも屋的な感じ? あと重要なのが寮内の清掃ね。君ら、1年間は当番割り当てるから風呂とか水場とかトイレとか廊下とか掃除してね。後で当番表を配布するんで良く読んで、自分の当番は必ずやるように。これさぼるとここに居づらくなるよ~。ちゃんとやってね。じゃあよろしく」
ヘラヘラと言うと、乃村へマイクを戻す。受け取った乃村はにこやかに続けた。
「今のが各部の責任者です。これから各部でリクルート活動が始まるので、先輩に声かけられても逃げないでね。それぞれの事情とかはちゃんと考えるから、できるだけリクルートには応じて下さい。では、真打ち登場~」
乃村が話している間に入ってきた長髪の男がマイクを受け取って、新入生達に向かい、ニッと笑った。
「津田といいますー。自治会執行部のー、会長やってまーす、よろしくー。とかいっても俺はみんなをまとめてるだけでー、たいして権力もないんだけど、まあいちおうアタマって事になってるんでヨロシクー」
津田の声は乃村よりも通りが悪いが、話し方がゆっくりなので聞きやすかった。
「団体生活って、慣れないうちはいろいろあると思うけどー、まーず楽しくやろうってぇ気持ちが大切だと思うんだよねぇ。もちろん、守るべき規則は守った上で、だけどねぇ。それでも色々あってー、楽しくやれないって気分になることもあると思うんだぁ。でぇ、そう言う時、合わない奴がいたーとか、くさくさしたーとか、先輩の言うことが人によって違うーとかって時はぁ、執行部に言ってみて。はーいでは執行部のメンバーを紹介しまーす。みんなー、入ってー」
声に応えてぞろぞろと入ってきたのは七名の男たちだ。まず風橋と栃本の二人が名乗り、一年生の部屋がある二階にも自治会室があると言って場所を説明した。ここにはこの二人がいるという。執行部は二回生、三回生、四回生から二名ずつで構成されていて、その他に副会長、乃村ともう一人、目つきの鋭い嶋津という男が自己紹介した。
「このメンバーはー、学年にも各部の力関係にも左右されない立場にありまーす。俺も含めてねぇ。なんかあって、どこに相談したらいいか分からない時は、このメンバーに声をかけてみて下さーい。力になれるように努力するんでー。つっても俺らも大学生に過ぎないんで出来ない事あるしー、大きな事言ってもアレなんだけどー」
津田は気負い無い姿勢で、片足に体重を乗せて立ったまま、並ぶ執行部の面々と目を合わせた。それぞれが微妙な表情で笑っている。少し肩を竦めてから正面に顔を戻し
「でもまあ、信用してくれて良いよー。でぇ、俺から言いたいことはひとつ、なんだけどー。愉しくやろうねぇ。というわけで、よろしくー!」
そう言って軽く頭を下げると、執行部や責任者達がそれぞれの形で頭を下げた。なぜかぱらぱらと拍手が起こる。
それから総括の先輩達が入ってきて、掃除の当番表を配った。
次に監察のメンバーが『寮則』と書かれた冊子をひとりひとりに手渡しで配布した。ちょっとした文庫本くらいの厚さにビビったが、開いてみると左ページには寮則が書いてあり、右のページに説明が書いてある感じで、目次も読みやすくなってて分かりやすい。工夫してるなあ、なんて思ってたら、「全員に行き渡ったかー?」「受け取ってない奴いないかー」と確認の声を発しながら監察のメンバーが歩き回ってる。コレを各自に渡すことを、いかに重要と考えているかが、自然にみんなに伝わった。
監察の確認が終わると、乃村が終了を宣言してオリエンテーションは散会となった。
茶髪のノムラ先輩がマイクを持って軽い調子で言った。
貧相な見かけからは想像もつかない、凛として良く通る声だ。初日とか声張ること無かったから気づかなかったけど、なんか聞かなきゃな気分になる。
みんな同じくなようで、室内のざわめきは徐々に沈静化した。
「一年生の諸君。賢風寮へようこそ。僕は自治会執行部、副会長のノムラです。オリエンテーションの進行を勤めます。よろしく」
そのまま室内を見回し、静かになったのを確認したノムラは、満足したようににっこり笑った。
「では、ここの基本的な運用について、まずお話しします」
言ってB5版の冊子を掲げる。
「この『賢風寮のご案内』は読んでくれましたか? 持ってきてるかな? 持ってきてる人はこれを見ながら聞いて下さい」
百数名が一斉に冊子を捲ると、全体にごそごそ物音が広がった。
「賢風寮は百三十年の歴史がある自治組織です。大学が創立した三年後に、学生や教員の寮としてこの地に建てられました。何回か建て直して現在の状態になってるわけですが、OB会である風聯会がこの建物や土地を所有していて、自治会で運営してます。つまり七星大学とは全く別組織ですので、例え大学の学長であろうと部外者です。そして部外者の立ち入りは一切認められていません」
ざわざわとし始めたのは、みんな一斉に呟いたからだろう。
「といっても、さすがに生命や健康の危険がある場合は例外だし、犯罪捜査に協力して、ということが過去一度だけありますが、それもそうそう認められないから、というくらいナイのでよろしく。まあ事前に申告があれば、寮生の親族に限り、一階の面会室と和室までの範囲で入寮を許可する場合はあります。でも事前の申告は絶対に必要です。男の友達でも寮内に入るのはNG。女性を連れ込むとか絶対無理なんで、そういうトコで頑張らないようにね。ああそう、例外として食堂のスタッフと食材の納入業者は一階の食堂通用口から出入りします。ちなみに食堂スタッフには女性が居ますが、平均年齢五十歳オーバーなので要らぬ希望は抱かないように」
ここで寮生達から軽い笑いが上がった。その反応に満足げに笑んだノムラが片手を上げると、また静かになる。
「建物内の設備なども寮生だけで維持してます。これは施設部がやりますが、皆さんにも協力して貰う場合があります。そういう時はちゃんと指示に従って下さい」
丹生田が隣で小さく頷いた。
そんな様子がいちいち可愛い。隣を窺いながらこっそり悶えそうになるのを抑えて冊子を捲ったりする。
「寮費は会計が、食堂は食堂担当が管理します。日常生活に必要な諸々は、総括の担当です。寮則については監察で指導します。監察の指導は絶対と弁えて下さい。寮の保全は保守と施設部が担当しています。では、各部から挨拶しますね。はい」
そう言って傍らにいる小太りのメガネにマイクを渡した。
「監察の庄山です。我々は寮則を正しく運用する為の仕事をしています。冊子にも有りますが、門限はありません。ですが他に規定されていることは色々ありますので、寮則は厳密に守ってください。寮則の冊子は後ほど配布しますので、必ず読んで下さい。紛失した場合は監察まで申し出れば予備をお渡しします。寮則を覚えるまで、いつでも確認できるよう携帯して下さい。はじめのうちは慣れないでしょうが、各部屋ごとに指導の先輩が居ますので、その指示に従うこと。寮則違反すると相応のペナルティを受けますし、内容によっては強制退寮もあり得ます。学生自治だからといって軽く考えて貰うと困ります。我々はかなり厳しいと認識して下さい。その他詳細についても指導の先輩に教わるように。よろしくお願いします」
それだけ言うと隣の長身にマイクを渡す。
「どうも、施設部の太和田です。施設部は電気、ガス、水道、ネット環境などの整備と、建物の維持を担当してます。なんか壊れたとか、直して欲しい時は、各階に自治会役員の部屋があるんで、気軽に言ってくれていいんですけど、混んでたりしたら、すぐにやれないこともあります。優先順位を付けるってのもあるし、俺らも学業優先なんで、そこんとこよろしく。寮内、あちこちで配線が露出してるの見たと思うけど、あれ切ると大ごとになるから注意してください。分かった?」
そう言うと太和田は会場をゆっくりと見回した。頷く者、背筋を伸ばす者、さまざまだが、これが重要だと言う事は伝わる。
「ネットは寮内に専用のサーバーがあるんで、それ経由で使ってもらいます。プロバイダーも選べません。外部の業者が寮内に入れないので工事とかできないから、他の回線を使うのは不可能です。そこでごねるようなら寮から出て行ってもらうんでヨロシク。使用料は寮費に含まれてますから、それで納得して欲しいな。もう気付いてると思うし、使い始めてる人もいるけど、各部屋に人数分のLAN端子があります。ルータの貸し出しもしてますが、登録が必要なんで、まだの人は施設部に申し込んで下さい。それとログは施設部で監視してます。違法サイトの閲覧、その他違法行為は禁止なんだけど、毎年やばいエロサイトとか見る奴は居るんだよね。大変なんだからマジやめて。ここだけの話、そこそこエロくて安全なサイトの情報もあります。ま、そこは先輩に聞いてよ。それと念のためスマホとかの登録情報は提出して貰ってます。あとで各部屋に施設部が行くんでおとなしく出してね。以上、よろしく」
にこやかに言い終えると、隣の神経質そうな男にマイクを渡す。
「会計の小山です。寮費は指定の口座へ毎月末日までに納入願います。寮費滞納は三ヶ月で退寮処分となりますので、毎月きちんと納入すること。よろしくお願いします」
淡々とそれだけ言うと、おどおど立ってる男にマイクを渡した。
「は、はじめまして、あの、食堂担当の、えー、た、田沢です。食堂のメニューは一階ロビーの掲示板と食堂に有りますので見て下さい。あと、日替わりメニューの希望なんかも受け付けてます。食堂に専用の投書箱がありますので、そっちを使って下さい。あー、と、メニュー希望は記名でお願いします。無記名は無効ですので、よろしくです。…あ、あと、各階の炊事場とか冷蔵庫とか鍋も食堂担当で管理してます。自炊の人は壊したりしないように気をつけて下さい。えっと、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、大柄な男にマイクを渡す。初日に玄関で仁王立ちしてた、あの男だ。
「保守担当の宇和島だ。無断侵入の阻止他、警備をやる。おまえら喧嘩なんぞしたら俺たちがヤキ入れるからな! おとなしくしてろよ!」
大声過ぎてマイクがハウリングを起こしたが、あまり気にしていないようだ。「おまえマイクいらねえじゃん」と笑った軟派な感じの男がマイクを受け取った。
「えー、総括の唐沢です。総括ってなんかよく分からない呼び方だけど、そう決まってるので覚えて下さい。俺らは、たとえばシーツや布団カバーのリースとか、トイレットペーパーを補充したり、なんてことをやってます。広報っぽいこともやるし、まあなんでも屋的な感じ? あと重要なのが寮内の清掃ね。君ら、1年間は当番割り当てるから風呂とか水場とかトイレとか廊下とか掃除してね。後で当番表を配布するんで良く読んで、自分の当番は必ずやるように。これさぼるとここに居づらくなるよ~。ちゃんとやってね。じゃあよろしく」
ヘラヘラと言うと、乃村へマイクを戻す。受け取った乃村はにこやかに続けた。
「今のが各部の責任者です。これから各部でリクルート活動が始まるので、先輩に声かけられても逃げないでね。それぞれの事情とかはちゃんと考えるから、できるだけリクルートには応じて下さい。では、真打ち登場~」
乃村が話している間に入ってきた長髪の男がマイクを受け取って、新入生達に向かい、ニッと笑った。
「津田といいますー。自治会執行部のー、会長やってまーす、よろしくー。とかいっても俺はみんなをまとめてるだけでー、たいして権力もないんだけど、まあいちおうアタマって事になってるんでヨロシクー」
津田の声は乃村よりも通りが悪いが、話し方がゆっくりなので聞きやすかった。
「団体生活って、慣れないうちはいろいろあると思うけどー、まーず楽しくやろうってぇ気持ちが大切だと思うんだよねぇ。もちろん、守るべき規則は守った上で、だけどねぇ。それでも色々あってー、楽しくやれないって気分になることもあると思うんだぁ。でぇ、そう言う時、合わない奴がいたーとか、くさくさしたーとか、先輩の言うことが人によって違うーとかって時はぁ、執行部に言ってみて。はーいでは執行部のメンバーを紹介しまーす。みんなー、入ってー」
声に応えてぞろぞろと入ってきたのは七名の男たちだ。まず風橋と栃本の二人が名乗り、一年生の部屋がある二階にも自治会室があると言って場所を説明した。ここにはこの二人がいるという。執行部は二回生、三回生、四回生から二名ずつで構成されていて、その他に副会長、乃村ともう一人、目つきの鋭い嶋津という男が自己紹介した。
「このメンバーはー、学年にも各部の力関係にも左右されない立場にありまーす。俺も含めてねぇ。なんかあって、どこに相談したらいいか分からない時は、このメンバーに声をかけてみて下さーい。力になれるように努力するんでー。つっても俺らも大学生に過ぎないんで出来ない事あるしー、大きな事言ってもアレなんだけどー」
津田は気負い無い姿勢で、片足に体重を乗せて立ったまま、並ぶ執行部の面々と目を合わせた。それぞれが微妙な表情で笑っている。少し肩を竦めてから正面に顔を戻し
「でもまあ、信用してくれて良いよー。でぇ、俺から言いたいことはひとつ、なんだけどー。愉しくやろうねぇ。というわけで、よろしくー!」
そう言って軽く頭を下げると、執行部や責任者達がそれぞれの形で頭を下げた。なぜかぱらぱらと拍手が起こる。
それから総括の先輩達が入ってきて、掃除の当番表を配った。
次に監察のメンバーが『寮則』と書かれた冊子をひとりひとりに手渡しで配布した。ちょっとした文庫本くらいの厚さにビビったが、開いてみると左ページには寮則が書いてあり、右のページに説明が書いてある感じで、目次も読みやすくなってて分かりやすい。工夫してるなあ、なんて思ってたら、「全員に行き渡ったかー?」「受け取ってない奴いないかー」と確認の声を発しながら監察のメンバーが歩き回ってる。コレを各自に渡すことを、いかに重要と考えているかが、自然にみんなに伝わった。
監察の確認が終わると、乃村が終了を宣言してオリエンテーションは散会となった。
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