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Ep4.最後の晩餐、キンキの晩餐、シメの雑炊
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しおりを挟む(ど、どういうこと。玖琉とアオイさんが知り合いで……仲が悪くて……でもソラヤに来るお客さんって……)
咲空は玖琉を見る。何度見てもやはり玖琉だ。顔は確かに整っているが、今までのお客様たちのようなキラキラ輝くスーパーイケメンではなく、普通のイケメンだ。だからまさか、蝦夷神様なんて、そんなはずは。その疑念に答えるように、玖琉が口を開く。
「本来の姿に戻れ。審判が下った」
「……お断りします」
「お前に拒否権はない。早く本来の姿に戻れ、父神が待っている」
玖琉が一歩、アオイににじり寄る。緊迫した空気、詰まる二人の距離。そこへ咲空が割り込んだ。
「ま、まって! 話についていけないんだけど!」
「邪魔するな」
「本来の姿って、二人は何を話しているの? 玖琉は蝦夷神様じゃないよね、人間だよね!? だって私、玖琉のことぜんぜん気づかなくて……」
面倒だと玖琉が露骨にため息を吐いた。その代わりに、アオイが強張った表情のまま答える。
「サクラちゃん。彼は蝦夷神様の一人、英雄神アイヌラックルです」
「だ、だって、玖琉は私の友達で……」
「ごめんね。そんな予感がしていました。蝦夷神様にしかわからない技術で住所を書いたのに、純粋な人間のサクラちゃんがこの店に辿り着けるのはおかしいことなんです。だから君の友達は蝦夷神様だろうと気づいていました。それがまさか、英雄神だなんてねぇ」
「余計なことを言うな」
玖琉が舌打ちをした。今まで玖琉が舌打ちをするなど見たこともない。穏やかな性格の人だとばかり思っていたのだ。久しぶりにあったとおもえば性格は急変し、しかも蝦夷神様ときている。理解が追い付かない。
「玖琉が蝦夷神様……嘘でしょ……」
「本当だ。俺はある目的のため人間に擬態していた。それにこの男も付き添う予定だったが――この結果だ。任を放棄して遊びまわり、札幌の片隅でお店屋ごっこときた」
「……アオイさん、も?」
アオイに視線を向ければ、その通りだよと示すように大きく頷いている。
「……英雄神の言う通りですよ。僕は任を放棄してここに店を構えていますから」
「その任務ってのは――」
玖琉は咲空の問いに答えようとし――開きかけた唇は噛んで塞いだ。答える気がないらしく視線を逸らしている。告げたのはアオイだ。
「この大地を新たに作り直すべきか、人間の目線で判断する――どこかで聞いたことのある話でしょう?」
「あ……まさか、磯野さんが言っていた話……」
「はい。雷神は人間たちに怒り、人間を滅ぼして新たな地を作ろうとしているんですよ。神の視点ではなく人間の視点でも存在価値を判断するため、擬態する必要がありました。そのため選ばれたのが英雄神――君が玖琉くんと呼んでいた者です」
「……夏狐、喋りすぎるな」
玖琉が険しい表情をして言った。その後も続けて喋るものの、彼が咲空の方を見ることはなく、視線は他へと向けられていた。
「父神がこれ以上待つ必要はないと判断した。これより宝剣を用いて人間を滅ぼし、土地の浄化を行う。だから夏狐、お前も戻ってこい」
「ちょ、ちょっと待って! 地上浄化って、それは……」
「人間をすべて滅ぼす。一人残さず焼き尽くす」
「ってことはサクラちゃんも含まれちゃいますねぇ」
ソラヤでおなじみの、唐突にやってくる生命の危機である。玖琉が冷たい態度をとるのも、目を合わせてくれないのもこれが理由かもしれない。
嫌な気配を感じ取って顔を顰めた咲空と異なり、アオイはへらへらと笑っていた。
「さてどうしましょう。その地上浄化作戦、中止にしてもらえる方法はありませんか?」
「ない。早く戻ってこい。お前が嫌がろうとも無理やり連れていくぞ」
「だ、だめ!」
そのままアオイを連れて行ってしまいそうな気がして、咲空は遮るように二人の間に立つ。しかし玖琉は咲空を無視してアオイを睨みつけていた。
「英雄神は人間の味方だと思っていたんですが、違ったんですね」
「人間は……嫌いだ。早くしろ夏狐、お前が戻らぬならこの人間を消してやる」
「それは困りますねえ」
からりとした声音であったが、その言葉に寂しさが混じっているような気がした。しかし咲空はアオイと玖琉の間に立っていて、振り返る余裕なく、アオイがどんな表情をしているのかわからない。
「ソラヤは閉店かな」
耳に落ちたアオイの切ない呟きが、咲空の胸をきゅっと締め付けた。
(『楽しいねえ、この仕事』ってアオイさん言ってたのに)
真冬の札幌。春の紋別に夏のせたな。北海道を東から西へと移動して、いつもアオイは笑っていた。父との不和など様々なことで悩む咲空を導き、時にからかって。その根っこにあるのは、ソラヤを楽しんでいることだ。それが、終わってしまうのなら。
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