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Ep3.親子熊の涙もぬかぼっけも塩辛い
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道中は道の駅天国である。喜茂別に留寿都、洞爺に豊浦。このルートでは寄り道できる場所が多いので休憩には困らない。
道の駅があるたびに寄ってきたのもあって、予定よりも時間がかかっていた。あげいもで腹が膨れて満足したらしい井上が寝ている間に、車は静狩峠を抜けて、長万部へ。
静狩峠を降りて長万部へと向かう途中に約10キロの直線道路がある。景観よく広々とした道路だからか、観光客やバイクツーリングの人たちもよく通る。特にバイク愛好者にとって北海道は聖地らしい。このまっすぐな道を、天気の良い夏の日に走るのは楽しいことだろう。通り過ぎていくバイクを眺めながら咲空が言った。
「バイク旅行者多いですよね。ツーリング楽しそうだなって思います」
「へえ。サクラちゃんそういうの好きなんですね」
にやりとアオイが笑う。
「じゃあ今度はバイクで行きます? サクラちゃんならいつでも後ろに乗せますよ」
「バイクの免許も持っているんですか?」
「はい。僕に不可能はありません」
「そうなると私もバイクの免許取らないとだめですね」
「後ろに乗せてあげるって言ったじゃないですか、もしかして僕と二人乗りするの嫌とか?」
「そういうのはまったくないんですが、アオイさんばかり運転じゃ迷惑をかけますし、疲れた時交代できるように私もバイクの免許を取って……」
咲空としてはいたって真面目に話している。運転代わってアオイが後ろに乗るところまで頭に浮かんでいるのだが、それを掻き消すようにアオイが笑っていた。片手で口元を押さえ、体はぷるぷると震えている。
「私、おかしいこと言いました?」
「サクラちゃんのそういうところがね、モテないなって思っただけです。大丈夫? 仲のいい男友達とかいます? 心配になってきちゃった」
「失礼な! 私にも――」
彼氏ではないけど仲のいい男友達なら――と思い出してスマートフォンを取り出す。スマートフォンに通知が入っていた。差出人は玖琉だ。
『玖琉:せたな町に行くんだろ?』
『玖琉:休み取って抜け出せるなら、俺も車で向かうから海に行こうよ』
相手がただの男友達というのがなんとも切ないが、しかし男には男である。浮いてそうな話ならあるじゃないか。咲空は得意げにアオイに言う。
「ふふ。私にもデートってやつがあるんですよ」
「サクラちゃんに? 嘘でしょう、相手は宇宙人とか空想上の生き物とか?」
「れっきとした人間ですよ! というわけでせたな町滞在中、どこかで休み時間をもらえないでしょうか。海に行ってきたいです」
せたな町の滞在予定は二泊三日。今回はお客様である井上たちがいるため、行き当たりばったりの旅ではない。そのどこかで空き時間がもらえるのなら玖琉と会いたいと咲空は考えていた。仕事を放り出して遊びに行くため怒られると思いきや、アオイはあっさりと頷いた。
「いいですよ。中日の明日かな、存分にカレピッピと会ってきてください」
「ありがとうございます。彼氏では……ないですけど」
嘘をつくのも気まずく訂正したのだが、アオイは咲空を馬鹿にしたかのように笑い続けている。
「だよねぇ。サクラちゃんのことだから、彼氏じゃなくてただの男友達だろうなって思いましたよ」
「うっ……」
「何でも相談できる男友達って感じで。彼氏ってより酸素になりそうなタイプ」
「玖琉はそういう関係じゃないので……」
「ふむふむ。玖琉くんって方ですね、覚えておきます」
余計な情報を与えてしまった気がして咲空は頭を抱えた。ぶつぶつと「言わなきゃよかった、やめておけばよかった」と呟いて悔やむのに夢中で、アオイの表情など見ていない。
「玖琉くん……ねぇ」
その瞳にあるのは好奇か、それとも別のものか。それ以上アオイは語らなかった。
***
道の駅があるたびに寄ってきたのもあって、予定よりも時間がかかっていた。あげいもで腹が膨れて満足したらしい井上が寝ている間に、車は静狩峠を抜けて、長万部へ。
静狩峠を降りて長万部へと向かう途中に約10キロの直線道路がある。景観よく広々とした道路だからか、観光客やバイクツーリングの人たちもよく通る。特にバイク愛好者にとって北海道は聖地らしい。このまっすぐな道を、天気の良い夏の日に走るのは楽しいことだろう。通り過ぎていくバイクを眺めながら咲空が言った。
「バイク旅行者多いですよね。ツーリング楽しそうだなって思います」
「へえ。サクラちゃんそういうの好きなんですね」
にやりとアオイが笑う。
「じゃあ今度はバイクで行きます? サクラちゃんならいつでも後ろに乗せますよ」
「バイクの免許も持っているんですか?」
「はい。僕に不可能はありません」
「そうなると私もバイクの免許取らないとだめですね」
「後ろに乗せてあげるって言ったじゃないですか、もしかして僕と二人乗りするの嫌とか?」
「そういうのはまったくないんですが、アオイさんばかり運転じゃ迷惑をかけますし、疲れた時交代できるように私もバイクの免許を取って……」
咲空としてはいたって真面目に話している。運転代わってアオイが後ろに乗るところまで頭に浮かんでいるのだが、それを掻き消すようにアオイが笑っていた。片手で口元を押さえ、体はぷるぷると震えている。
「私、おかしいこと言いました?」
「サクラちゃんのそういうところがね、モテないなって思っただけです。大丈夫? 仲のいい男友達とかいます? 心配になってきちゃった」
「失礼な! 私にも――」
彼氏ではないけど仲のいい男友達なら――と思い出してスマートフォンを取り出す。スマートフォンに通知が入っていた。差出人は玖琉だ。
『玖琉:せたな町に行くんだろ?』
『玖琉:休み取って抜け出せるなら、俺も車で向かうから海に行こうよ』
相手がただの男友達というのがなんとも切ないが、しかし男には男である。浮いてそうな話ならあるじゃないか。咲空は得意げにアオイに言う。
「ふふ。私にもデートってやつがあるんですよ」
「サクラちゃんに? 嘘でしょう、相手は宇宙人とか空想上の生き物とか?」
「れっきとした人間ですよ! というわけでせたな町滞在中、どこかで休み時間をもらえないでしょうか。海に行ってきたいです」
せたな町の滞在予定は二泊三日。今回はお客様である井上たちがいるため、行き当たりばったりの旅ではない。そのどこかで空き時間がもらえるのなら玖琉と会いたいと咲空は考えていた。仕事を放り出して遊びに行くため怒られると思いきや、アオイはあっさりと頷いた。
「いいですよ。中日の明日かな、存分にカレピッピと会ってきてください」
「ありがとうございます。彼氏では……ないですけど」
嘘をつくのも気まずく訂正したのだが、アオイは咲空を馬鹿にしたかのように笑い続けている。
「だよねぇ。サクラちゃんのことだから、彼氏じゃなくてただの男友達だろうなって思いましたよ」
「うっ……」
「何でも相談できる男友達って感じで。彼氏ってより酸素になりそうなタイプ」
「玖琉はそういう関係じゃないので……」
「ふむふむ。玖琉くんって方ですね、覚えておきます」
余計な情報を与えてしまった気がして咲空は頭を抱えた。ぶつぶつと「言わなきゃよかった、やめておけばよかった」と呟いて悔やむのに夢中で、アオイの表情など見ていない。
「玖琉くん……ねぇ」
その瞳にあるのは好奇か、それとも別のものか。それ以上アオイは語らなかった。
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